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第十四話

 バーを出て、瞬と一緒にアパートへ帰る道すがら、瞬へ疑問をぶつけてみる。


「瞬、本当に美華のところへ行かなくても良かったの?」

「まぁな。酒呑童子のところで人間界の酒を色々と教えて貰うのも、中々楽しいぞ。」

「そうなの?美華なら、完璧に瞬の世話をしてくれると思うけど。」


私の問いかけに、瞬は前を向いたままポツリとこぼす。


「それに、人間達が金を稼ぐということも、大変であると聞いたしな。」

「そっか……」


瞬は瞬なりに、思うところがあって、美華のところへ行かなかったのかな……


「しかし、色々な酒を混ぜて違う酒を作るなんぞ、発想が面白いではないか。勘当が解けねば、向こうの世界に、カクテルバーとやらの店を出しても良いかもな♪」

「ふふっ!それも楽しそうだね♪」


瞬に働く意欲が出てる!大進歩じゃん!


そう思ったことは口にしないように、たわいもない話をしながらアパートへと歩いた。





 あ、そういえば……


アパートに帰り部屋に入った時、ふと怪我の事を思い出し、薬箱に入っている傷薬の軟膏を取り出した。


「瞬、ちょっと服を脱いでくれる?」

「おお、やっと紫もその気になったか♪まぁ、我としては色気なんぞ気にせぬが……」

「バカだろっ!誰もそんな事考えて無いわ!」

「ほう。そんな事とはどんな事だ?」

「煩いっ!黙って背中を見せろ!」


瞬の肩を掴み、強引にベッドの縁に座らせて、上半身の服だけを剥ぎ取る。

その時、傷のことしか考えていなかった脳内に、瞬の肉体美が飛び込んできた。


こ、これは……程よく引き締まった胸板……無駄が無く端正に並んだ綺麗な腹筋……


思わず言葉を失って見惚れていると、瞬はニヤニヤしながら顔を覗き込んでくる。


「ほう、我を脱がせるとは、紫にはこのような趣味があるのか……まぁ、おなごに襲われる気分というのも面白いかもな♪」

「な、何でもかんでも、エロ方向思考に向かうなっ!」


赤くなっただろう顔を見られないよう咄嗟に視線を瞬の身体から逸らし、ベッドへ上がって瞬の背中を見る。

そこには、まだ赤味を帯びている傷口が複数あった。塞がったばかりの傷口は少しささくれ立っていて、服の繊維が引っかかっただけでも、痛そうだ。


これ、動くだけでも辛いんじゃぁ……


今更ながら自分の行動を反省し、軟膏を丁寧に塗っていく。瞬は、塗り始めはピクッと身体を動かしたが、私のやる事を理解したのか、その後はされるがままになっている。


「紫、やけに今日は優しいではないか。何の気の向きようだ?」

「嫌なら、薬は塗らないけど。」

「いや……背中は舐めれぬので、助かる。」


そういえば、子狐ちゃんの時、よく腕や足を舐めてたような……あれって毛づくろいだと思ってたけど、傷口を舐めてたんだ……


「もう少し早く言わないかなぁ……こんなに沢山傷があるのに。」

「何をいう。我は当主となって皆を守らねばならぬ身であるぞ。他人に弱みなんぞ見せられぬであろう。」


命をかけて妖狐族を守る大役って言っていた、美華の言葉がふと頭を過った。


もしかして、辛い時に辛いと言う事さえも許され無いのかな……


「だったら誰が瞬を守るの?」

「我をか?」

「うん。今回みたいに怪我をすることだってあるでしょ?」

「向こうの世界におる時は、付き人が世話をすることになっておる。」

「病気の時も?」

「まぁそうだな。基本的には、付き人であっても弱みを見せることはせぬ。身内であっても付け入る隙を与えると、命を落とすこともあるのでな。」

「そんなものなの?」

「そんなものだ。」


それって、向こうの世界にいる時は、常に気が休まる時が無いんじゃぁ……

もしかして、前に瞬がうなされていた夢って、この事に関係あるのかも……


「まぁ、紫は別だがな。紫の傍は、安心して熟睡ができるぞ♪」


えっ?それってど~ゆ~事?!ま、まさか瞬は私を……


「紫は我を殺すことが出来ぬであろう?そのような妖力も無いしな。」


あ、そ~ゆ~事……一瞬でも浮かれた私が馬鹿でした……


勘違いさせた仕返しとばかりに、茶化してみる。


「そんなの分からないよ!子狐ちゃんの間に、狐鍋の材料にしちゃうかもよ~?」

「我は食えぬぞ……」

「ふふっ!心配しなくても子狐ちゃんなら、もふもふする方が楽しいしね♪薬くらいならいつでも塗ってあげるから、戻った後も何かあればウチにくればいいよ。」

「ゆ、紫が優しい……我に何かの対価を求めておるのか?」

「あのね!何でもかんでも対価を求める訳無いじゃん!私だって怪我人には優しくするって!」

「はいはい、そ~ゆ~事にしておくか。」


トントン……

その時、アパートの玄関ドアをノックする音が聞こえてきた。


玄関チャイムを鳴らさないって事は、もしかして陸さん?


「誰だ?」


瞬が応答の声を出すと、やはり陸さんの返答が聞こえてくる。


「おう、今鍵を開けるからな。」


そして相変わらず家主の許可なく、瞬はパチンと指をはじいて、玄関のカギを開けた。


「おじゃましま……」


玄関ドアから顔を覗かせた陸さんが、無表情のまま固まった。


ん……?何で固まってるの?

って、私と瞬ってベッドの上じゃん!そして瞬は上半身裸のままじゃん!


「失礼しました。出直してきます。」


急いでベッドからかけ降り、無表情のまま玄関ドアを閉めようとする陸さんの服を掴む。


「な、何でも無いから!これは違うからっ!部屋に上がって!」

「ご心配は無用です。お二人の営みを覗き見る趣味はありませんので。」

「こっちだって、そんなもの見せる趣味無いからっ!」


必死で誤解を解いている私に、瞬は更なる追い討ちを掛けてくる。


「そうか。紫は人に見られて燃えるタイプか。ならば、我も協力せねばなるまい。」

「黙れっ!この変態エロ狐~~~っ!!」


はっ!陸さんの前では、恋人のふりだった!


叫びをごまかすように、慌てて一つ咳払いをして言い方を変える。


「もう、瞬ってば冗談ばっかり♪」


はにかむように瞬の背中をパシッと叩く。


しまった!背中の怪我に、クリーンヒットしたかも!


「痛っ!紫は力が強いなぁ♪」


瞬は一瞬顔をしかめたものの、私の意図が読めたのか、じゃれ合うように返してきた。


まぁいっか。変態エロ発言のバチが当たっただけさっ♪


「ところで、今日はどうしましたか?」


みんなでテーブルの回りに座り、話題を変えるよう陸さんに話を振る。陸さんは、相変わらず無表情のまま、一言だけ答えた。


「御屋形様がお呼びです。」




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