第十一話
「……というのが、私のストーリー案となります。」
迎えた決戦の日、ミーティングルームに集まった新ゲーム立ちあげのチームメンバー達に、自分の考えたストーリー案をプレゼンしていく。メンバー達はサーバーに落とした私のストーリー案を、モニターで見ている。
うっ……吐きそう……自分で生み出したものを評価されるって、半端ない緊張感……
でも、深く掘り下げて書いたし、今出来るだけの精一杯だし……
絞首台の前に立たされている気分でそっとメンバー達の様子を窺うと、みんなはモニターを見ながら軽く頷いている。ただ一人、鬼塚部長を覗いては……
「うんうん、割と面白いんじゃぁないかな。」
「初めてなのに、背景もしっかり書けてるわね。」
口々に好意的な意見を言ってくれるみんなに対して、鬼塚部長は眉間に皺を寄せてモニターを睨みつけて何かを考え込んでいるみたいだ。
何かまずかったかなぁ……
「日向さんの案は、私達とは違う方向性で、表現が新鮮ですね。今回はちょっと違う路線で日向さんの案が面白いかと思います。」
「そうですね。日向さんの話を軸にして組み立てていけば……」
鬼塚部長の様子に気付かないのか、今回ストーリー案を出しあった、専属ライターさんやライター兼プランナーさん達は、私を援護するような発言をしてくれている。
お?!いい流れかも♪自分発案ゲームがついに世の中へ!
込み上げてくる嬉しさに、思わず顔が緩みそうになる。
だけど、そんな浮かれた気分を、鬼塚部長の一言が遮った。
「日向の案は無いな。」
えっ?
みんな鬼塚部長の顔を一斉に見る。鬼塚部長はモニターを睨んだまま、言葉を続けた。
「日向。」
「はい。」
「今回のテーマは何だ?」
「癒しです。」
「三つの案の中で、一番癒しから遠いのは誰だ?」
その一言で、はっ、と気付かされた。
そうだ……先輩達は、しっかりと前の会議で決まったテーマに沿ってる……私は選ばれたいばかりに、テーマから脱線気味だ……
「私……です……」
浮かれた気分が、氷点下まで下がっていく。いいものが書けたという自分の思い上がりが恥ずかしくなり、思わず目線を伏せた。
「自分で分かっているのなら、問題無いな。」
「はい……」
何も言い返せない……
こうして初めての決戦は、惨敗に終わった。
「日向。」
惨敗だった会議終了後、ミーティングルームから出ようとしたところで、鬼塚部長に呼びとめられた。
「はい。」
うっ……今、お説教は聴きたく無い……
とはいえ、無視もできず渋々振り向いて返事をすると、鬼塚部長は意外な事を聞いてきた。
「お前、最近新しく知り合ったヤツがいるか?」
「新しくですか?」
聞かれている意味が分からず、思わず聞き返す。
「それか、何か動物でも飼い始めたか?」
へっ?な、何で鬼塚部長が知ってるの?
「い、いえ、特には……」
咄嗟に否定すると、鬼塚部長は厳しい顔の眉間に、更に皺を寄せた。
「本当か?」
確信めいた聞き返しに、思わず後ずさりをしてしまう。
「わ、私、イベントの打ち合わせがあるので!失礼しますっ!」
部長が何か言いかけたけど、それを遮るよう背を向けてミーティングルームを飛び出した。
会議の惨敗を尾を引いているのか、夜の寒さが一段と身に染みる。仕事が終わり、薄手のコートを身に巻き付けるようにしながら、アパートへの帰路につく。
はぁ……こんな日は美華と一緒にお酒飲みながら愚痴れば、少しはスッキリするのになぁ……
無性にお酒を飲みたい気分だ。でも、デパ地下で美味しい惣菜とワインを買って、独り酒で憂さ晴らしをするお金さえも無い。
今夜もホットドッグもどきかぁ……余計にへこむわ……
とぼとぼと歩きながら、アパートにたどり着き、溜め息をつきながら部屋の鍵を開けた。
「はぁ……ただいま……」
「おう、帰ったか!腹が減ったぞ!」
部屋に入り、呑気にテレビを見ている瞬を思わず睨む。
「あのさぁ、夕飯くらい自分で用意してよ。」
「何を言うのだ。我がそんなことをすれば、女中の仕事が無くなるではないか。」
「はぁ?何言ってんのよ!私は瞬の女中じゃぁ無いんだけど!」
「そんなの分かっておる。何をそんなにカリカリしておるのだ?」
心底不思議そうに私を見つめる瞬。
こいつ、何も分かってないな……
「女中には給料が支払われるでしょ?私は瞬から一円も貰ってないんだけど。」
「まぁ、我は勘当された身であるしな♪」
お気楽な返事をする瞬に、カチンと来てしまった。
「だからさぁ、勘当されて帰れないんでしょ?一生私の世話になるつもりなの?一円も稼いで来ない役立たずなんて、養う気無いんだけどっ!」
「役立たずとは何だ!」
瞬も立ち上がり、売り言葉に会言葉で喧嘩はヒートアップしていく。
「向こうの世界に帰ることもしない、こっちの世界でお金を稼いで生きていく努力もしない!一体何の役に立ってるっていうのよっ!」
「かね、金、カネ、って何だ!紫は金の亡者か!そんなに金が大事か!」
「お金が無いと生きていけないって言ったじゃない!瞬が食べてるものだって、ここに住めるのだって、全部私が稼いでるからでしょ!夜は動けるんだから、おむすびの一つでも用意して待つくらいしなさいよっ!」
「あぁ、そうかよ!ならば金を稼いでおむすびを用意すれば、問題無いのだな!」
「どうせ何も出来ないくせに!」
「出来ないかどうかなど、紫に分かる訳無いであろう!首を洗って待っておけ!」
ビシッ!と私に指を差し、瞬はドスドスといかにも怒っているというような足音を立てて、部屋を出ていった。
「何よっ!本当のことを言っただけじゃん!」
怪我だってもう……
……怪我?そういえば病院で貰った抗生剤、瞬に驚き過ぎて、食べさせてあげてないかも……
怪我が治ったかどうかも確認してないじゃん!まだまともに動けないかもしれないのにっ!
理不尽に瞬を追い出した形になってしまったことに気付き、急いで部屋を飛び出し、アパートに面した通りまで出て瞬の姿を探す。
「……いない……何処へ行ったんだか……」
完全に八つ当たりだ……仕事がうまくいかなかったからって、一体何をやってるんだか……
この日は、人生の中で最大に猛省する日となった。




