今の時代
「……ふぅ、やっとスタート地点に立てたわね」
宿屋に入ってベッドに座ったアリーがほっとした風に呟く。確かに聖王に参加を認められ出る事が出来るようになったが、いきなり急な坂になっている事を忘れているようだ。
他の参加者たちに比べて、既にかなりの差が開いてしまっている事に。この差を埋めるにはかなり無理をしないといけないのだが……まあ、今言う事ではないな。
「どうぞ、アリー様」
「あっ、ありがと、フィリー」
ふぅ、と息を吐くアリーの前に紅茶の入ったカップを置くフィリー。部屋に入ってなりごそごそとしていたが、紅茶を入れていたのか。
アリーはカップを手に取り紅茶を啜る。温かい紅茶が喉を通ったためか気持ちよさそうに息を吐く。先程の疲れたような息とは違った落ち着いた雰囲気だ。
このままゆっくりさせてもいいのだが、我輩としては色々と聞きたい事がある。記憶の中では、アナスタシアに殺されたのはついこの前のように思えるが、今の時代からしたらかなり昔のはず。
どれぐらいの年月が経ち、その間アナスタシアたちはどのような動きをしたのかを聞いておきたい。
『アリーよ。落ち着いているところ申し訳ないが、色々と教えて欲しい事がある』
『……私で答えられる事なら答えるけど。なに?』
『うむ、今の時代や歴史などを簡単に教えて欲しいのだ』
『今の歴史ね。まずは今年は聖光暦641年になるわ。ハートは聖光暦は知ってる?』
『いや、初めて聞く。それは何なのだ?』
我輩が知っている暦号は黎明暦だ。我輩が死んだのは黎明暦463年だったが、あれからどのぐらい経っているのか。
『私もお母様から簡単に習っただけだから曖昧なのだけど、641年前に私の先祖である勇者アナスタシア様が魔王を倒して、魔王国の次の王と結婚する事で、新たな時代が訪れるとの事で、暦号も変わったの』
という事は、我輩が死んで641年が経つのか。それにアナスタシアは我輩の言葉を聞き入れてくれたのだな。鬼人族であるフィリーがこの聖王国にいられるのがその証拠ではあるが、少し心配だったのだ。
『アナスタシア様が魔王を倒してからは、比較的平和が続いたらしいけど、問題はアナスタシア様が亡くなってからね。魔族の中で、魔王を殺したアナスタシア様を、その子孫を許さないって人たちが出てきたみたいなの。勿論魔族全員じゃ無いわ。その中の1部の人がね。
その他にも邪神の眷属なんかも出たりして、その都度勇者が駆り出されるようになっているわ。アナスタシア様が亡くなってから、1度だけ邪神との大きな争いがあって、今でも百年戦争って語り継がれているわ』
……我輩が死んだ後、そしてアナが死んだ後は色々とあったようだな。魔族の1部の反乱に邪神の眷属か。奴はまだこの世界を諦めていなかったか。
魔王国にもいつか行ってみたいところだが、今はアリー育てなければいけないな。それが、魔王国へ行く1番の近道だろう。
話的には、今もその魔族の反乱や邪神の眷属が現れる事があるのだろう。そのため、勇者という存在が必要だと見える。
……これから魔族に関わろうとするのであれば、やはり彼女を鍛えていくしか無いな。それに、邪神の眷属も現れるというのなら放っては置けない。
基礎を学ばせてから、あの場所へと連れて行くしか無いな。




