力を求める理由
『おおっ、何とここは聖都だったのか!?』
我輩は剣になって初めて見た外に驚いていた。我輩が眠っていた倉庫はオンボロで今にも朽ち果てそうなものだったが、そこからでも見える聖宮殿。我輩が暴れ回り破壊した壁も屋根もすっかりと直っておった。
それからアリーとフィリーは聖都の中を歩いて行き、聖宮殿のある方へと向かっていた。
……しかし、何とも不思議なものだな。我輩が暴れて壊し、そして死んだ聖宮殿のある聖都で剣として蘇るのだから。
この聖宮殿は我輩たちがいる大陸の中でも有数な強国『セントリア聖王国』の聖都にある。この大陸にはセントリア聖王国に並ぶほどの大国が他に6つ、それより小さな国がいくつもある大陸だ。その強国の中には我輩が治めていた国もあったが、今はどうなっていることやら。
そんな巨大な国の中心である聖宮殿へと、アリーとフィリーは迷い無く中へと入る。聖宮殿を守る兵士たちは嫌悪感を抱きながらも2人を通す。
2人はそんな視線に晒されながらも聖宮殿の中へと進み、2人は豪華な扉の前に立つ。扉の前に立つ兵士たちに自分たちが帰った事を伝えて、少しの間待つ。
『ここには何をしに来たのだ? 声は出さずに頭に思い浮かべるだけで構わん』
少しの間待つようだから気になった事を尋ねておくか。念話は互いが了承すれば念話で話す事が出来る。
『こ、こうかしら? き、聞こえている、ハート?』
『うむ、聞こえているぞ、アリー。それで先ほどの質問なのだが』
『私たちがここに来た理由よね。それは聖王様に参加の意志を伝えに来たのよ』
『参加の意志?』
『ええ、選定の儀へのね』
……我輩がいた頃には無かったものだな。そのようなものが聖王国で行われているのか?
『それはどう言ったものなのだ?』
『聖王国では勇者が王国最強の将軍としているのだけど、もうすぐ80代の高齢でね。引退を考えているようなの。それで、聖王国としては勇者が途絶えないように、次代の勇者を選ぶための選定の儀を行うのよ。それに私は参加するの』
……ふむ、勇者とは女神が選ぶものだったがどこかで変わったのか? アナは女神に直接呼ばれ選ばれたはずだが。
『その選定の儀とやらには誰でも参加出来るのか?』
『いいえ。出来るのは勇者の紋章を受け継いだ子孫だけ。まあ、それも今では40人近くいるんだけど』
勇者の紋章を受け継いだ子孫か。確かに解析でもアリーは勇者の子孫と出ていた。なら、紋章とやらは確かに勇者の子孫のみに出るのだろう。
『私は絶対に選定の儀に勝ち残らないといけないの。私を守るために殺されたお父様とお母様たちのためにも!』
……殺された両親のためか。中々色々と訳ありのようだ。……そういえば、アナも両親を殺した魔物を倒すために戦っていたな。
「準備が出来ました。お入り下さい」
我輩がアリーから色々と聞いていると、中へと入った兵士たちが帰って来た。そして中へと入る様に促される。アリーの話からして、中には聖王がいるはず。我輩が殺したはずなのだが、あの時の血族が生き残っていたのだろうか。
『あっ、我輩の事は話さない様に。武器を見つけたとだけいうのだぞ?』
我輩が知能ある武器だとわかれば、聖王国はアリーから取り上げようとするだろう。それは避けなければならない。
我輩の言葉に頷くアリーは兵士に促されるまま扉をくぐる。さて、我輩が死んでからどうなっていることやら。