スローライフ万歳っ!
ガシャンッーー。
ある部屋の執務室で、陶器が砕け散った音が響いた。
「まだ見つからないのか!!」
「も、申し訳ありません。総出で当たってはいるのですが……なにぶん、動かせる者が少なく。まだかの御仁を見つけるに至ってはおりませぬ」
男の悪態に、その場に居た者たちは慌てて頭を垂れる。
ギリリッと余りの歯痒さに男は、どうにもできない自分に苛立ちながら、引き出しの中にあった手紙を取り出した。
そこには、子どもが書いたであろう文字が並んでいる。
それを見つめて、切なそうに眉を顰める男。
「……一刻も早く見つけるんだ。他は何を犠牲にしても構わない」
「はっ!」
そういうと、跪いていた者たちは立ち上がり部屋を出て行った。
静まり返った部屋に一人になった男は想いを馳せる。手に持つ手紙の文字を、手でなぞりながら思い浮かべるのは、ただただ悲しそうに笑う彼女の顔。
「……どこにいるんだ」
そう呟いて、男はそっと手紙に唇を落とした。
「んー?おぉっ!ここねっ!ここなら、隠れるのにいいんじゃない?」
しおりは、とある古びた一軒の屋敷の前にニヤリ顔で立っていた。
あれから市街地まで逃げ延びたしおりは、そこで耳寄りな情報をゲットした。なんでもこの街の門を抜けた先、崖の上にある屋敷に、お化けが住み着いていると噂されているらしい。
お化けや幽霊の類を信じていないしおりにとって、こんな恰好の隠れ蓑はない!と、聞いた早々やって来たわけだ。噂されているくらいだから、滅多に人も来ないだろう。
この世界で、懸念していた魔物もいるにはいるらしいのだが、この街の近くにいる魔物は、さほど凶暴なモノは居ないらしい。こちらが手を出さなければ滅多に襲われることはないだろうと聞いた。
なんて私に都合の良い状況かしら!と、自分の幸運に感謝しつつ、屋敷に足を踏み入れた。
屋敷の中は、外から見てもわかるようにボロボロだった。床は所々穴が開いており、自分が歩けば更に床を踏み抜きそうだ。
「……予想はしてたけど、オンボロだなぁ」
一歩一歩慎重に歩きながら、二階へと足を運ぶ。
階段から一番手前にある部屋に入り、フゥ〜と息を吐いた。
古びたソファを見つけて、創造魔法で自分好みのソファに変える。
そこでなんだか、一気にダルくなってソファに横になった。
今日はいろいろありすぎて、疲れたな……
まぁ、ここに来るまで心配していた魔物もいなかったし、門を抜ける時にもカラコンと鬘を被っていた為か、憲兵にさほど疑われず抜けることができた。
明日からのことを考えると、悩むべきことは多々あるのだが、現実世界では、なんの面白味もなく日々淡々と退屈に過ごしていた為、案外こちらに来て良かったなんて思う自分もいたりする。
ま、創造魔法があればなんとかなるかな。異世界でスローライフ万歳っ!て感じかな。
何事にも楽観的なしおりはニヤニヤと、これから先の生活を思い浮かべながら目を閉じると、すぐに意識は沈んでいった。