そうでしょうとも
フフンと得意げに踏ん反り返り、男の反応を見ていたしおりは、驚愕に染まる男を見て、そうでしょう。そうでしょう。と、鼻高々だった。
だが、次第に男は眉間に皺を寄せる。
え?何?
「……確かに、見たことない物だが。なんだ?これは」
「それは……食べ物だけど」
「はっ、嘘をついてもダメだぞ。こんな物、食べられるわけないだろ」
そう言って私に差し出してきたのは、カップ麺で。
「あー、まぁ、そのままは食べないし。パッケージを開けて、お湯を入れて3分待ってからじゃないと」
「な、何?」
「お湯、あります?」
「少し待っていろ」
そう言って男は立ち上がり、部屋を出て行った。
あーやっぱりこれ開けないとダメか……
私のご飯が……まぁ、信じてもらうためだから仕方ない。
はぁ……と、ため息をついたところで、男がお湯を入れたポットを持って帰ってきた。
「さ、持ってきたぞ」
「…………」
「ん?何をしてる?早くどうやるのか見せてくれ」
目を輝かせて、どう見てもワクワクしている様子の男に、しおりはジト目を向ける。
「あの、これ私の貴重な食料なんですけど、そこんとこ、ちゃーんと考えてくれてますよね?」
「あ、あぁ」
一応、貴重な食料だと男に認識させてから渋々パッケージを開けて見せた。男は、おぉと呟きながら相変わらず目を輝かせている。
はっきり言って涼しげなイケメンが、完璧なワンコ状態である。激しく揺れる尻尾まで見えてきそうだ。
一つ一つの動作に、何故か感動している様子の男をしおりは一瞥して、カップ麺にお湯を入れた。線までお湯を入れてフタを閉じる。
「……後は、3分待つだけです」
「お湯だけで、料理ができるのか?貴女の世界は」
「いえ、こういう食べ物もあるってだけです」
そう話すと、へーなるほどな。と、相槌を打ちカップ麺以外に目を向ける男。
「これは?」
「おにぎりです。お米に具が挟んであって海苔で巻いてるの」
「……見たことない物だな」
……そうでしょうとも。
なんせこの世界は、見た感じ中世ヨーロッパ風だ。多分食べ物も洋食風だと予想される。
お米なんて、ないんだろうなー……
それを思うと、このおにぎりは貴重だ。味わって食べなくては!と、考えたところで、
そうだ!創造魔法があるじゃん!
お米、作ってみよー。
と、しおりはニヤニヤする顔を隠せなかった。
「なんだ?いきなりニヤニヤして」
そう言われて、コホンッと咳払いし、慌てて取り繕った。
「いえ、何も……もうそろそろいいですかね」
「あぁ、そうだな」
フタを開けると、カップ麺のいい匂いが広がった。グーッとお腹が鳴いて、ハッと気づく。そういえば、私、夜食を食べる前だったし、お腹ぺこぺこだったわ……と。恥ずかしさに顔に熱が集まる。
そんな私を見て、男がクスリと笑った。キッと睨むしおり。
「仕事帰りで、お腹減ってたんですから仕方ないじゃないですか!……お皿、あります?」
男がお皿を差し出してきたので、それにカップ麺をよそって盛り付け、男に差し出した。
「はい、どーぞ」
そう言うと、もったいないしお腹空いてるから私も食べようと、レジ袋に入っていた割り箸を使ってカップ麺に箸をつけた。
「なんだ?それは」
「え?あー、これは箸って言って、私の国ではご飯を食べるときに使う物です」
それだけ教えてから、麺を啜る。
はー、生き返るわー。
相当、お腹が空いていたようで、カップ麺の美味しさが身に沁みた。
まぁいきなり知らない場所に来て、ゆっくりご飯を食べようという考えにならなかったんだから仕方ない。
もぐもぐ食べていたしおりだったが、目の前の男がお皿の上に載った麺を見つめて、食べようとしないことに気づいた。
「ん?どうしたんですか?」
「あ……いや」
「毒なんて入ってないですよ?私も食べてるんだから。あ、もしかして食べる勇気がないとか?」
そう言い放ち、ニヤリと笑ってやると、男は明らかに顔を顰めた。
「そんなことは、ない!」
「じゃ、遠慮なくどうぞ」
しおりに促され、男はどう見ても渋々フォークを持ち、麺を持ち上げ、恐る恐る口に入れた。
もぐもぐと咀嚼して、カッと目を見開く。
「う、うまいっ!!」
そうでしょうとも!
うんうんと頷きながら、目の前でカップ麺をガッついて食べている男を見て、しおりはその姿を微笑ましく思っていた。