私って、令嬢に見えます?
「……おかしな奴だとは思っていたが。そんなふざけた話が通じると思っているのか?見たところ上質な服を着ているし……どこかの世間知らずの令嬢ではないのか?」
「は?私が令嬢?」
胡乱げな目でこちらを見ながら言う男に、しおりは呆気にとられた。
まぁすんなり分かってもらおう、などとは考えていなかったが……まさかどこぞの令嬢と思われていたとは。
プフッ。思わず笑ってしまい、慌てて引っ込めようとするが上手くいかない。
どこをどう見たら私が令嬢だ、などと思うのだろう。
肩を震わせながら笑い出した私に、あからさまに憮然とし腕を組む男。
「ご、ごめんなさい。だって、プフッ。私が、令嬢だなんて言うから」
「だったら、何故そんな見たこともない上質な生地で出来た服を着ている?そもそもこの国では、貴方のような黒髪、黒眼の人も珍しい……というか俺は見たことがない」
「え?そうなの?」
そういえば、街にはカラフルな髪の色が溢れていた。自分の世界では黒髪、黒眼なんて当たり前だったから気にもしてなかったが、まさか服だけでなく、容姿にも違いがあったとは……
「てか、服は街の人たちと変わらないでしょ?どこが違うのよ!」
「本当に世間知らずなんだな。街ではそんな絹のような生地でできた服を着た者などいないぞ。しかもそんなレースや細かな刺繍なんぞ、誰も入れていない」
「え?そうなの?」
街の人の服を創造したつもりだったが、近くで見たわけではない。そりゃ生地の違いは出るものなんだろう。けど、そんな違いがわかるか?まぁレースや刺繍のことを言われれば何も言えない。あんまりシンプルなのもアレかなー。と思って自分では、さりげなくわかる程度に創造していたのだが……
「…………」
「もしそんな常識も、何も知らない令嬢が、街中を誰かから逃げ回っている。と、するだろ?そうなると、俺たちの仕事の邪魔になる。だから、面倒なことが起きる前にここに連れて来たんだが?」
黙り込むしおりに、厳しい目を向ける男。
「私って、令嬢に見えます?」
「いや。……すまない」
「……いえ」
重い沈黙。
自分から令嬢ではないかと疑っていたくせに、即答ってどうなのよ!
「まぁ、何かしら事情があるのだろうが……。異世界とは馬鹿にするにもほどがある」
厳しい声で言われてしまい、言葉に詰まる。
本当に自分は、この世界ではない所から来た……と思うのだが、自分がそれを証明しろと言われてもなかなか上手い言い回しが思いつかない。やはり、最初に異世界から来たということは隠すべきだったか……
そう途方に暮れそうになった時、ふと手に持つコンビニで買った、夜食のレジ袋に目が行った。
そういや、この世界ってコンビニなんてないだろうし、こういう食べ物なんか見たことないんじゃない?
そう考えたしおりは、勢いよく机の上にレジ袋の中身をぶちまけた。
呆気に取られる男に、ニヤリと笑いながらしおりは言い放った。
「私、異世界から来たって言ってますよね?証拠は、これ。こういうの、こちらの世界にあるかしら?」
どーよ?というように上から目線のしおりに、眉間を寄せながらも男は、渋々机の上の物を物色し始める。
「こ、これはっっ!!」