へぇーなるほど
不安に思いながら、甲冑男の後ろについて歩くしおり。隙を見て逃げようとも考えたが、ここら辺では見ない出で立ちと言われてしまったので、またすぐに捕まってしまうだろう。
というか、どこらへんがここの人達と違うのかまったくわからない。
改めて自分を見ても、さっきすれ違った女の人が着ているワンピースとさして違わないように思う。
もしかして、見た目とかではなく、何か見分けるオーラとかがあるのだろうか……
ここが異世界で自分の常識じゃ把握できないだけに、今逃げ出しても同じことを繰り返してしまうだけだろう。それならいっそのこと洗いざらい目の前にいるこの人にぶちまけて、あわよくば疑問に思っていることなどできる限り、聞き出してやろう。
と、しおりは開き直っていた。
「ここだ。入れ」
そう言って振り返り、こちらを見る男の先にある建物を見上げる。
他の家と同じようなレンガ造りの建物であるが、一際大きく頑丈そうな造りに見える。円柱形に出来ていて、見た感じだと3階建てくらいの高さだろうか。
ほけ〜と見上げていたしおりだったが、ふるふると首を振って男に意を決して聞いてみた。
「あ、あの……ここって?」
「ん?あぁ、ここは俺たち自警団の駐屯所だよ。ま、そんな警戒しなくても少し話を聞くだけだから。
あんたみたいな若い、か弱そうな子が、凶悪犯てこともないだろ……さ、入って」
そう促されてしおりは建物の中に足を踏み入れた。
自警団か。向こうでいう警察みたいなもんかな?なら幾分か安心だ。この世界での常識なんてないから、この甲冑男が怪しいか怪しくないかなんて自分にはわからない。だが、高圧的な最初の感じと違い今の優しそうに教えてくれる感じから悪い人ではないのだろう。
ま、明らかに何かしら残念に思われている節があることは否めないが。
入ってすぐに右にある部屋に通された。そこには簡単な机と椅子が置いてあり、取り調べ室的な部屋なのだろう。
「ここに座って」
言われるまま、ちょこんと座るしおり。
対する甲冑男は兜を脱いだ。それを見ていたしおりは、目を見開いたまま唖然とした。
溢れ落ちるシルバーの髪。切れ長な瞳はコバルトブルーでできていて涼やかさに拍車がかかっている。唇は薄くて…どこのハリウッドスターだよ!と、ツッコミをいれたいくらいのイケメンが出てきた。
うげっ。イケメンって苦手なんだよねー……
並居る女性を虜にするであろう美貌の男の顔を見ながら、しおりは眉間に皺を寄せる。
しおりが何故イケメンが苦手なのかというと、幼少期まで遡る。小さい頃出会った顔の良い男友だちに裏切られたのが、そもそもの発端だった。それからしおりは、イケメンが受け付けなくなったのだった。
男が前の席に腰を下ろすと、さて、と話し始めた。
「どこから来たんだ?」
「日本です」
「ニホン……?」
「はい」
しおりは、隠すことなく真実を伝えた。ま、どうせわからないだろうけど本当のことだし。全部ゲロって、こっちのことも聞けるだけ聞かなくては……
「あのっ!」
「な、なんだ?」
「ここは、なんていう街なんですか?」
勢いよく尋ねたためか、男が後ろに少し仰け反る。しおりは御構い無しに質問した。
それを聞いた男は、明らかに残念そうな呆れたような顔をしてしおりを見た。
「首都の名前も知らないのか…。ここはアリシア国の首都、ナーベル。あそこから見える王城は、ナーベル城だ。そんなことも知らないなんて、どんな田舎から出てきたんだ?」
「へぇーなるほど。ここって城下街だったんですね。っていうか、わかるわけないんですけどね……わたし、この世界の住人じゃないので」
ニッコリ笑顔でそう答えると、男は目を見開いた。
「……は?」
イケメンがあからさまな間抜け面である。ま、当然の態度ではあるだろうが、本当のことなのだから仕方ない。
「私、異世界から来たみたいなんです」
だからしおりは、改めてはっきりしっかり言ってやった。