ま、なんとかなる……かな
「…すごっ」
それしか言えねー。いや、言えない。
レベルは異世界に来たばかりだから当たり前だが1に対して、ありとあらゆるスキルがついている。
はっきり言って活字が続くそれらの表示を斜め読みしかしていないが、明らかにおかしい。
本当なら一つ一つ把握していかなくてはいけないのだろうが、なにせ自分は説明書と名の付くもの。取り扱い説明書と言う物を詳しく読んだ試しがない。
自慢するわけではないが、適当に弄ればなんとなく使えて別に困ったことがなかった。
だから、今回も自分の死活問題にもかかわらずスキルなど斜め読みで、だが、明らかに分かる一文に目を止めた。
「…創造魔法」
創造。というくらいだから自分の思う通りに魔法が使えるのではないか?
ふと思案した後、しおりは辺りの様子を見回した。
明らかに自分と違う衣服を身に纏った人々。
先程、話しかけた露天の店主にジロジロ疑わしい目を向けられたことを考えると、明らかに奇抜な服を着た不審者だと思われていたに違いない。
それでもしっかりこちらの話を聞いて、親切に教えて貰えたことに感謝しかないが。
「まず、この格好だよねー……」
今の自分の格好は、バイト帰りなだけにジーンズにパーカーと至ってシンプルな服装をしていた。だが、こちらの服装は某ヨーロッパの街並みに合ったもの。女性ならワンピースを着ている人が多い。
これは目立つ。
早く自分も似たような服装を装わなくては。
そう思うものの、いきなり街中で服装が変わっては只でさえ不審にジロジロ見て行く人が多いのに更に怪しい人物だと認識されてしまう。
まずは、人目につかない場所に移動しよう。
そう考えて、しおりは歩き出した。
人々から死角になる路地裏に入り込むと、人気配がないか念入りに周りを確認してから、いざっ!と、いうところでふと気づいた。
あれ?どうやって魔法使うんだ?
異世界では当たり前にある魔法かもしれないが、こちとらバリバリの日本人で現代っ子だ。
そりゃ、ゲームもしたことがあるにはあるが魔法の発動条件なんかわかるわけない。
漫画とかだと、長ったらしい詠唱を唱えて発動していたが、そんなことわからないし、文も思いつかない。
「…わかんないやー。ま、無難にヘーンシンっ…なんちゃって」
やり方が分からず途方に暮れそうになっていたが、そう独りごちてすぐにモアモアと細かい泡のようなものが足元から湧き出てきた。
「うわっ!何これ?大丈夫なの?ちょっ…!」
あっという間に全身顔まですっぽり泡に纏わり付かれ、慌てて息を止めた。
これ、どーすんの?
また違う意味で途方に暮れそうだったが、全身を覆って数秒経つと、キラキラと輝きながら泡はたちまち消えてしまった。
「ぷはっ!あぶなっ……うわっ!すごい!」
泡によるちっ息を免れたーと、息を吐き出して全身に泡がついてないか確認しようと自身を見ると、異世界の人々が着ていたようなシンプルなワンピースを着ているではないか。
やはり創造魔法というだけあって、自分で創造できちゃうんだー!すごい!
そう考えると、これから先の異世界生活もなんとかやっていけそうな気がしてきた。
「ま、なんとなる……かな」
楽観的なしおりは、そう呟きふふっと笑いながら路地裏を後にしたのだった。






