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汗臭くても恋は出来ます。  作者: オオクマ ケン
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    4 



 俺はどうやら諦めが悪いらしい。だが友代を問い詰めるつもりはない。

俺は俺でこの件に関しては区切りを付けなければならないと思う。

それだけだ。

俺は放課後、一年A組の教室に向かった。もう友代は部活に行ってるかもしれない。だけど……。

教室に行ってみると、そこには友代となぜか由紀枝がいた。二人だけだった。

何やら話し声が聞こえる。

俺は教室に入る足を止め、入り口に隠れて二人を見ていた。

これは俗に言う出歯亀というやつか?

でも何やら人を寄せ付けない雰囲気だったのは確かだ。

声が聞こえる。

由紀枝が友代に迫ってるようだった。

「それで、あんたは犬雄の何なの?」

友代はキッと由紀枝を睨んでいた。

「私は先輩に告白されて返事しました」

「あんたそれでOKしたっていうの?」

「さっきはみんなの見てる前だったから、突然だったので否定しましたが、そうです。私はOKしました」

「じゃあ、犬雄はあんたに一杯食わされたってわけじゃないのね?」

「別に私は……」

「あんた、ホントに犬雄と付き合ってるの?」

「それを聞いてどうするんですか?」

「あんたホントにひどいヤツね。みんなの前で犬雄に恥をかかせるなんて」

「ホントにそんなつもりじゃ……」

友代が言い終わらぬうちに由紀枝は友代の頬を引っ叩いた。

黙り込む友代。

頬が赤く染まる。

「あんたねぇ、器じゃないのよ。犬雄の近くにいる器じゃ。あいつは私が世話を焼いてきたの。だから私の物よ。分かる?」

「いいえ。先輩は私と付き合ってるんです。あなたの物なんて言わせない」

「何ですって?聞こえなかったわ。ちゃんと言いなさいよ」

「だから、私がちゃんとOKして付き合ってるんです。先輩は手を出さないでください!」

「聞いてりゃ、調子こいてんじゃないわよ。一度みんなの前で否定したあんたにどうこう言われる筋合いはないわよ!」

「そうですか?」

「わかんないかなー?」

「そうですね。さっきは私が悪かったと思います。でも、先輩は私と付き合ってるんです」

「ムカつくわね。あんたに犬雄の世話が出来ると思ってるの?」

「先輩は世話なんか焼いてほしくないですよ」

「あんたに犬雄の何が分かるっていうの?」

「先輩も犬雄先輩のことが好きなんですか?それならまだ分かりますけど」

「ちっ、違う。好きじゃない。でも取られるのは何かムカつくのよ」

「欲張りですね、先輩」

「誰が……」

俺はたまらなくなって教室に入っていった。

「待て待て二人とも!」

由紀枝は振り向く。

「げっ、犬雄!」

「由紀枝。俺は、いや、俺たちは付き合ってる。だからもう邪魔はしないでくれ!」

「せっ、先輩!」

友代も俺の顔を見て驚いたようだ。だが、もう見てられない。聞いてられない。

俺はちゃんと言っておくべきだったのだ。

「由紀枝、お前が俺に世話を焼いていたのは確かだ。でも、それと俺たちの交際は別だろう」

そう言うと俺は友代のそばに寄った。

「良かったよ、友代。君がやっぱりOKしてくれてたんだって分かって」

「せ、先輩。さっきはすいませんでした」

「いいよ。恥ずかしかったんだね。俺ももっとちゃんと考えて行動するべきだったよ。ゴメン」

由紀枝は俺たちを見て怒り出した。

「ちょっと、私を放置しないで!」

「いや、別に放置はしてないだろ」

「してるもん!」

「だから、俺たちはちゃんと付き合ってるんだよ」

「信じない!」

「バカ言うなって」

「私は……」

「頼む。分かってくれ」

「私の入る余地はないって言うの?」

「そういう事じゃ……」

「そういう事よ!」

由紀枝は怒鳴った。

「だって、だって、あんたに春なんか絶対来るわけないと思ってたのに!」

「何言ってんだよ?」

「だから、あんたには一生彼女なんて出来ないと思ってたのに」

「それはひどいだろ?」

俺は由紀枝の言動に呆れた。

「俺だって彼女の一人くらい……」

「だから、それが悪いっていうの!」

「由紀枝、何でそこまで。お前は俺の幼馴染だろ?」

「そうよ!私はあんたの幼馴染よ。だから許せないの!」

「どういう事だよ?」

「わっかんないかなー?」

「分からん。ハッキリ言え!」

「わたしは本当は、あんたのことが好きなのよ!」

言葉に詰まる。

っていうかいきなり何を言い出すんだこいつは?

俺のことが好きだと?

「お、お前は俺の幼馴染だろ?」

「そうよ!私が、私だけがあんたのそばにいられると思ってたのに、あんた何勝手に彼女なんて作ってるのよ!大体モテないくせに!」

好きと言われたのが霞んじゃうくらいひどい事言ってるぞこいつ。

「お前なぁ……」

「なによ、この唐変木!」

「気持ちは嬉しいがよ」

「何よ。私が先なんだからね!私が先に好きになったんだからね」

「お前、俺の事好きなんて今まで言ったか?」

「あんたが気付かないのが悪いのよ!」

こいつ、どんどん惨めになっていくぞ。

でもそれは言わないのだ。

俺は一体どうすれば?どうしたらこの場を収められる?

大体いきなり好きって言われてもなぁ。

俺はいつの間にこんなにモテたんだ?

自分の状況がまったく分からなかった。

「由紀枝、俺は友代と付き合ってる。これはマジなんだ」

「言われなくったってそんなこと分かってるわよ!」

「俺は素直なお前が好きだ。いや、好きなのは友代だ。だからこの好きはお前の幼馴染としての仲で好きと言ってるんだ。分かってくれ」

「私は諦めない。あんたを諦めない。昔からずっと好きだったんだから。私を選ばなかったことを一生後悔させてやるんだからね!」

おいおい、何を言ってるんだこいつは?

「あんた、今さらだけど、私を選ばなかったことを後悔しても、もう遅いんだからねー!」

由紀枝はそう捨て台詞を吐くと、ダッシュで教室を出て行った。


 

 はぁ。まったく。

もし俺が由紀枝の気持ちに気付いて、友代と出会わなかったらどうなっていただろう?

いや、そんなこと考えるな!

俺はもう友代一筋だろ?

俺にはもう交際している女性がいる。それだけで幸せじゃないか?

確かに幼馴染とはいえ、由紀枝はクラスで学級委員長もしている成績優秀でスポーツ万能な顔だってすごく可愛いマドンナだ。

でも俺には友代がいる。

俺は友代が好きなんだ。後悔はしてない。

「友代」

彼女はぶたれた頬を押さえて、俺の方を見た。

友代は何も言わなかった。

多分、この件は自分が悪いとでも思っているのだろう。違うんだ。そうじゃない。

「友代」

もう一度、声をかけた。

友代は目を上げた。

由紀枝よりも背の小さい彼女は、その目で俺をジッと見た。

夕暮れに彼女の姿が染まる。

彼女は美人というほどでもなかったが、綺麗だった。

俺は彼女の顔を見た。

美しく染まる彼女の顔。

「なぁ、友代。俺は君が好きだ」

「先輩」

それから俺は何度も言った。

君が好きだと。


 しばらくして、友代は嬉しかったのか、急に泣いた。その顔を見られたくなかったのか、顔を背ける彼女。

「私……」

涙声で友代は言う。

「私、嬉しいです」



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