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俺の名は有栖川犬雄。ってもう自己紹介は終わってたな。
恋に生きる図書委員の合気道二段だ。
俺は登校早々、困っている。なぜなら俺の隣には今、彼女ではない女が一緒に歩いているからだ。その女の名は姉川由紀枝。ロングの黒髪ストレートが似合うお嬢様って感じだが、見た目に反して行動は違う。積極的な女である。
俺の幼馴染だ。そして同じクラスの学級委員長でもある。
しかし、こいつの意味の分からない積極性には参る。何せすぐに俺の腕に自分の腕を回してくるのだ。その豊満な胸が当たって、胸の感触が俺の脳を刺激する。
いや、それは別にどうでもいい。本当にどうでもいい。
いやいやいやいや、ホントだよ?
しかし、いつもいつもこんなに近くては、誤解されかねない。
付き合ってるの?と言われたこともあるが別にそんなんじゃない。ホラ、こいつも否定してるじゃないか。だからホラ、そういう事だよ。
うん、そういう事だ。
それに俺は昨日、坂口友代という眼鏡の似合う勇ましい後輩女子に告白してOKをもらったじゃないか。
だから俺はそうなんだ。そういう事なんだよ、畜生!
何だよ、みんな誤解しやがって。
「由紀枝!」
「な~に、犬雄?」
「そんなにベタベタすんじゃねーよ。いつもいつも!」
「だって、あんたこうでもしないと彼女いないんだから寂しいでしょ?」
「いや、俺は昨日、男を見せたんだ。出来たんだよ彼女が!」
「えっ、マジ?」
「ああ。マジだ!」
由紀枝はやっと腕を離してくれた。胸の感触が終わる。ああ、もったいなかったかな?
いやいやいやいや、俺はそんな男じゃねーよ。
これからは惚れた女一筋さ。
「由紀枝。これからは誤解されるようなことするなよ?」
「えっ、えっ、誰よ?その相手って」
「聞いてくんなよ」
「教えなさいよ」
ブーという顔をしてくる由紀枝。
こいつに教えて何の得がある?
「しかたねーな」
俺は自信満々に答える。
「お前も知ってるだろー?剣道部で有名な、あの坂口友代だ」
由紀枝は驚く。
「えっ、あの新人エースって噂のあの子?一コ下じゃない。そんなに可愛かったっけ?」
無礼な!
「ったりめーだよ。彼女は普段は無表情だが可愛いんだ」
「あ、そうか。眼鏡を外すと実は美少女とか」
「違うぜ。彼女はな、大和撫子っていうか、日本的美人っていうか、本当に清楚で純粋でしとやかなんだ。お前とは大違いだよ」
「失礼ね!私はそうなりたくてもならないんだもん」
「だから、お前はそういう女なんだよ」
「バッ。あんた女に夢見過ぎ!女の子だってエッチな事考えるんだから。その坂口友代もそうよ。大和撫子なんて日本人の考えた嘘。武士道と同じよ」
「何を言うのか、この女は。彼女がそんなにエッチなわけないだろうが。このビッチが」
「ビッチでけっこう。あんた女の世界をまるで知らないのね。女はひょっとすると男よりエッチなのよ」
「嘘言うんじゃねー」
「ホントだってば!女子はドロドロとしてるんだよ。それが現実。現実を見なさい!」
まったく最近の女は節操ねーな。マジでこいつもビッチ様だよ。
「分かった分かった。俺は彼女が出来た。もう寂しくもなんともないぜ、由紀枝」
「きーっ!あんた本当に告白してOKもらったの?あんたのあんたによるあんたのための妄想じゃなくて?」
本当にこいつは失礼な奴だ。
「誰が妄想か!本当だって言ってるだろ?」
「信用できない。じゃあ、本人に確かめてもいい?」
「なっ、何を言ってるんだ?」
「ホーラ、怪しい」
この女はどこまで信用しないんだか。
嘘じゃねーってんの!
「分かったよ。じゃあ、休み時間に聞きに行こうぜ。ホントだったらアイスな」
「いーわよ!勝負といこうじゃない」
何を勝負するんだこのアマ!
そうこうしてるうちに学校へと着いた。
休み時間。
えっと、友代のクラスは由花利と同じだったな。
一年A組か。
俺は由紀枝を連れて一年の教室に向かう。
懐かしいな。俺も一年前はこの辺のクラスだったもんだ。
一年経つといろいろ変わるらしい。
A組の教室の前に来ると、後輩男子に声をかけた。
「坂口友代いる?」
「え、はい先輩」
そう言うと、その後輩君は大声で友代を呼ぶ。
「坂口さん、先輩が来てるよ!」
由花利と話していた友代は、その声を聞いて、硬直する。
俺は手を上げて友代を呼んだ。
友代の様子がおかしい。恥ずかしがっているのか、スッとこっちには来てくれなかった。俺が女子と一緒にいるのが珍しいのか?
友代はツタツタと遅いテンポでこちらに来てくれた。
「何ですか先輩?」
「友代、この女、俺の幼馴染なんだけど、友代が彼女になってくれたことを信用しないんだよ」
その途端、ざわついていた教室内の全員が静かになった。
みんなこっちを見ている。
え、彼女?
付き合ってるの?
そしてさらにざわつき始めた。
「あ、あの」
友代はモジモジする。
「べ、別に付き合ってません!」
そう大声で言うと、友代はすぐに教室の奥に逃げ込んだ。
「な……」
俺は驚愕した。
付き合ってないだと?
お、俺は一体どうすれば?
「なーんだ。やっぱり違うじゃない」
由紀枝はプププと笑うと口元に手を当てた。
笑いやがって!
でもこんなの違うだろ?俺は昨日、告白してOKもらったんじゃないのか。
「由紀枝、違うんだ。彼女は……」
「はい、弁明してもおっそーい。あんたの負け。アイスよろしくね」
そう言うと、由紀枝は先に教室を後にした。
そんな馬鹿な……。
俺は深く傷付いた。
考えても考えても分からない。なぜ、友代は交際を否定したのか。
あとで聞く勇気もなかった。
俺ってやつは。
俺のバカバカバカバカ!
俺はこれじゃただの笑いものだ。どうしてこんな……。
まぁ、これでよかったのかもな。俺はフラれ男だ。
彼女なんて冗談だったんだ。
うん。俺らしい。
あはははは……。
笑うしかなかった。
教説に戻ると俺は机に伏せった。
「まぁ、元気出しなよ。あんたには私がいるじゃん」
と、幼馴染の由紀枝が元気付ける。
優しさが痛い……。
「あんたがモテるとか夢だったんだよ。さ、現実に戻りなさい。あんたの世話は私が焼いてあげる」
由紀枝。お前ってやつはどこまで残酷なんだ。
「畜生!からかわれた。あの子に!」
「ホントに告白したの?」
「ああ。そうだよ」
「やだ、泣くことないじゃん!」
え?俺は泣いていたのか?
目をこすると、ちょっぴり涙がこぼれていた。
俺ってやつは何て女々しい……。
「由紀枝……。俺」
「はいはい。泣かない泣かない」
そっと由紀枝は自分のピンクのハンカチをおれに差し出した。
「これでその涙を拭きなよ」
こいつ優しい。優しいよ。
ま、幼馴染の仲だもんな。昔からおれの世話ばかり焼いてきたんだもんな。
でも、こいつほど残酷な優しさを見せる女はいないと俺は思う。
でも、今日だけはあやかろう。
「サンキュな」
俺は差し出されたハンカチを受け取り、目に当てる。
「あ、ちゃんと洗濯して返してね」
ちゃっかりしている。
「ああ。分かったよ」
「やだ。やけに素直ね」
「悪いか?」
「あんたみたいなのが彼氏なんて私だったら嫌だな~」
ほっとけ!
俺はハンカチを畳むとポケットに入れた。
由紀枝は俺の頭をナデナデする。
「よしよし」
「何だよ?」
「可哀そうな犬雄によしよししてあげてんの。あ~あ。悪い女に騙されちゃったねー」
本当に俺は騙されたのか?
やはりきちんと確認した方がいいのじゃないだろうか?
彼女は悪い女ではない。
やはり何か事情があったんじゃないだろうか?
こんな考えは諦めが悪いと思われるだろうが、こんな俺にもプライドがある。
やはり何かおかしい。
あの時の友代とは違った。
確かめるべきだ。それがネバーギブアップってやつだろう?
俺はそう心に決めた。




