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三年の女子剣道部部長からのお達しだった。
女子部員は恋愛してはいけないのだと。
それはあんなまりでしょう。
私こと坂口友代はそれを聞いて唇を噛みしめた。
これでは私と先輩は付き合っていられない。
そもそもそんなんで剣道の強化になるとは思えなかった。
茜先輩は自分が彼氏が出来ないからって当てつけで「恋愛禁止令」なぞを出したに違いない。
そんなものに私は負けない!
「先輩、それは一方的過ぎます」
剣道場は静かになった。
女子部員たちも黙り込む。
私は今、茜先輩に立ち向かおうとしている。
「先輩、私には付き合っている人がいます」
「ああ、坂口。お前彼氏持ちだったな」
「私には納得出来ません」
「お前に納得してくれなんて頼んだか?」
「いえ。でも……」
「これは私が言い出したことだ。この主将であり、三年であり、部長である私がな」
茜先輩は私に言い放った。
「先輩は横暴です」
「逆らうつもりか?」
「いえ」
「お前が彼氏と別れりゃ済む話だろ?」
「それには及びません」
「何?」
「先輩、私と勝負してください」
茜は面食らった。
「何だと?」
「勝負です。もし私が負ければ先輩の言う通り、私は彼氏と別れましょう。でも私が勝ったら『恋愛禁止令』は無かったことにしてください」
「ほう、私と彼氏との交際を賭けて勝負すると?」
「ええ。剣道で」
「そうだな。いいだろう。お前みたいな、一年のくせにレギュラーに選ばれて調子に乗っている奴は、私がコテンパンに倒してやろうじゃないか」
「私は負けませんから」
「いっぱしの口聞いてんじゃねーよ」
「先輩、勝負です」
表情を変えずに茜を見る私。
「坂口、面付けろ!」
勝負は剣道。三本勝負。
もし私が勝てば、先輩とは交際を続けられる。
剣道を辞めずに犬雄先輩と付き合うためにはこうするしかなかったのだ。
でも、それより何より私は茜先輩と一度ガチで勝負してみたかった。
これは武道家としての、剣道家としての野心だったのかもしれない。
私は図らずも、茜先輩と戦うことになったのだ。
私はみんなの見ている前で面を付けて、勝負をすることにした。
さて、勝てるかな?
いいえ、勝つ!
私は竹刀を構えて茜先輩と相対した。
茜先輩は構えにスキが無い。
それにすごい気迫だった。
私が一年だから意地もあるのだろう。
茜先輩も私とガチで戦いたがっていたのかもしれない。
今ここで決着をつける!
茜先輩の剣道は素早さが売りだった。
剣閃も体のこなしも速い!
パンパーンと音がした。
素早い面が二本続けて来た。
やっぱり速い!
私は竹刀を振り上げ、応戦した。
私は小手を開ける癖がある。多分、茜先輩もそれを読んでいるだろう。
小手狙いが来る。
私はフットワークで相手の竹刀をかわしながら間合いを取った。
私の足は強い!
私が中学で大きな大会で優勝経験がある事実は、この足が物語っている。
私はこの得意の足さばきでいろいろな大会で優勝できたのだ。
私は負けない!
でも茜先輩はさすがに強かった。
さすが全国レベル!
わずかなスキが出来て、私は小手をもらってしまった。
「一本!」
審判が旗を上げる。
しまった。一本取られてしまった。
私の心はぐらつく。
集中が乱れてしまった。
このままではまた一本取られて負ける。そうなったら約束通り犬雄先輩と別れなければならない。それだけは避けなければならない。
これは女の戦いだ!
負けるわけにはいかない。
私は気を引き締めた。
まだ私にも勝機はある。勝負はまだついていない。
私はスウッと呼吸を整えると、すぐに竹刀を構えた。
私に出来ることはこの試合に勝つことだけ。先輩だって試合に勝ったんだから、今度は私の番。
いざ!
「二本目!」
と、審判。
私はフットワークを捨て去り、大きく継ぎ足で面を打った。
「メーン!」
私の渾身の面は綺麗に決まった。
「面アリ!」
これで一本一本。
次に決めた方の勝ちだ。
私は先輩の顔を一度だけ思い出し、フッとすぐにその想像を頭からかき消した。
スーッと体が澄み切り、全身の力が抜ける。
リラックスしている証拠だ。
私の心は軽くなった。
そして審判が言い放つ。
「勝負!」
私と茜先輩は打ち合った。
竹刀同士がぶつかり合う。
お互いの間合い取りが始まり、有効打突を打つ間合いを計っているのだ。
私は間合いを取るのが上手かった。でもそれは上級レベルになると出来るのだ。
ということは茜先輩にも出来る。
それに動きの読み合いは互角稽古ではよく見かけるものだ。
今の私と茜先輩がそうなのだろう。
勝負は最後の一本。
延長戦に持ち込む気はない。
私のこの勝負は犬雄先輩と私の交際の問題。
必ず勝たなくてはならない。
そのために挑んだのだ。茜先輩には負けるわけにはいかない。
私は本気だった。
相手を剣で斬り捨てるような気持ちで打ち込む。
激しい竹刀の攻防が続いた。
残り十秒。
「胴!」
私は全身全霊で抜き胴を放った。
茜先輩の防具に胴抜きが決まる。
パーンと言う音がこだまする。
今のは決まった。
しかし、審判の旗が上がらない。
どうして?
まさか、今のは無効?
でも、茜先輩は手で待ったをかけた。
「いや、今のは入っていた」
茜先輩は負けを認めた。
さすがに茜先輩は潔いところはサムライだった。
「先輩……」
「お前、さすがだね。私の負けだよ」
友代は竹刀を降ろした。
「先輩、私は……」
「いや、みなまで言わなくていい。お前はその気迫どこから来た?」
「え?」
「さすがの一本だったよ。最後のは」
「いえ、夢中で……」
「お前のために撤回するよ。『恋愛禁止令』は」
「先輩」
「お前のためだけじゃない。私はお前に期待している。今度の大会も個人戦、団体戦ともに勝ってくれよ?」
私は茜先輩を誤解していたのかもしれない。
「はい!」
と答えるのだった。
さらに三か月後。夏休みのある日。
私はまた先輩と誰もいない剣道場で二人で練習していた。
「先輩、けっこう上手になりましたね」
「そうかな?」
「ええ。そうですよ」
「友代の教えが上手だからだよ」
私の笑顔が自然と犬雄先輩に向けられた。
「そ、それでですね先輩」
「ん?」
「今度、剣道のインターハイがあるんですよ」
「ああ、もうそんな時期か」
「そうなんです。で、ですね」
「ああ、何?」
「もう付き合って五ヶ月になるんですから、その、もし私たちが女子剣道部が優勝したら……」
「したら?」
「その、セッ……セッ……」
「セ?」
ボッと顔が赤くなる私。
ちょっと無理してたかも。
この鈍感先輩にはこういうのは通じないのかも……。
「セッ……せっかく一緒に練習してるんですから、もっともっと強くなってくださいよっ!」
私は照れを隠すために大声を上げた。
この鈍感!
そしてムッツリスケベな私、死ねっ!
死ね死ね死ね!
こうして私たちの放課後は続くのだった。
犬雄先輩との出会い。そしてこれからも、私たちは付き合い、繋がっていく。
いつか結婚するかもしれない。
もしそうなれたらいいな。
でもそれは言わないのだ。
だって言えば先輩は調子に乗るだろうからだ。
もっともっといい男にするために、私がちゃんと見守ってなくちゃ!
いい男になってくださいよ、先輩!
私は少し柔らかい笑みを浮かべて先輩を見た。
フフッ。大好きですよ、先輩!
そして犬雄と友代はこれからも付き合い続けていく。
完
こんなこっぱずかしい小説を書いたのは初めてです!!恥ずかしくて死にそうですが、もし楽しんでいただけたら幸いです。感想やレビューもどんどんください。よろしくお願いいたします。では!!




