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汗臭くても恋は出来ます。  作者: オオクマ ケン
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 「恋」それはすなわち異性を愛すること(?)。


 俺にそんなことは訪れない。そう思っている。

俺の名は有栖川犬雄。聖城高等学校の二年生だ。図書委員をしている。後輩にはけっこう慕われている方だと思う。もちろん女の子の後輩にも。でもそれは俺が害のないただのいい人として見られているからだと思う。しょせんは童貞だ。

女の子に縁など無い。あるとすれば、今日も学校の裏で三人組の同級生の不良たちにカツアゲをされていることだ。殴られるのにも慣れた。俺は合気道二段を持っているが、ストリートファイトで使えるものじゃない。今日もボコられてカツアゲされるのだ。

だが今日は違った。竹刀を持った女の子が出てきたのだ。その子は黒髪一つ結びがチャームポイントの、黒い目に眼鏡をかけた硬い表情の子だった。だがその子はいきなり不良たちに躍りかかると、竹刀で不良たちをあっという間にボコボコにしてくれた。

何と強い子だ。

不良たちは逃げて行った。

「あ、ありがとう」

俺はその子に礼を言った。

「いえ」

その子はすぐに去って行った。俺はその子に恋をした。


 

 恋に落ちるのが早いって?そうだな。俺は好きになったら一直線ってやつだ。別に自慢にはならんが。はっはっは!

恋なんてものはそういうもんだ。多分。

さてさて、級友に相談してみるか。

俺には一年の時からの友人がいる。クラスメイトだ。寺岡水馬という自称「カッコいいとは童貞のことさ」を自負する変わり者だ。将来の夢はライトノベル作家だそうだ。こいつも告白をしたがフラれ続けている。相手は天道由花利というこれまた一年下の女子だ。どっちも俺の友人と後輩だ。それに水馬も由花利とはフラれてはいるが良い友人関係を結んでいる。一緒に行動することも多いらしい。

由花利は実は彼女のことを知っていた。同じ剣道部の超エースらしいし、友達でもあるようだった。

あの子の名は坂口友代というらしい。剣道界では有名人だとか。何でも中学時代は剣道の大きな大会で優勝したこともある女子剣道部期待の新人らしく、それを聞いてあの時の彼女の行動にも合点がいった。。

なるほど、勇ましいはずだ。カッコイイ子だ。好きになるには十分な理由だぜ。

俺ほどの男になると、フラれても気にしない。好きでいられれば十分なのだ。

それがカッコいい男というものだ。自分で言ってて気持ち悪くないかって?知った事か!

俺はあの日から一週間後、由花利に頼んで坂口友代を呼び出してもらった。

彼女は夕暮れの誰もいない俺の教室に、竹刀を持って制服のままやって来た。

お礼参りかよ?

「何ですか先輩?」

友代は左手になじむように竹刀を握る。

「や、やぁ。僕は有栖川犬雄。はじめましてじゃないけどね」

「知ってます。あの時の先輩ですよね?」

夕日が照らす彼女は綺麗だった。

「そうだよ。坂口さん」

キョトンとする友代。

「何で私の名前を知ってるんです?」

「教えてもらったんだよ。それに君は有名らしいね。剣道の使い手で、県の代表にも選ばれたこともあるらしいじゃないか」

「それで、私のことをそんなに詳しく調べて何がやりたいんです?」

「何っていうか、僕は君のことが好きなんだ」

男は一直線に告白だぜ!そして豪快にフラれてやる!

「は?」

友代は竹刀を落とした。すぐに竹刀を拾うとそれを体の後ろに隠した。

「何を言ってるんですか先輩?」

「俺は君が好きだと言ってるんだよ」

「私を?」

友代は表情を変えなかった。

「何言ってるんです?バカなんですか?」

「どうして?」

「わ、私を好きだなんて」

「俺は本気だよ。好きだ!付き合ってください」

友代はやっと表情を少しだけ変えた。

「な、何をバカなことを?」

「バカじゃないさ。君はとっても魅力的だよ。付き合ってほしい」

「は?そ、そんなこと……」

「ホントだよ」

「何が目的なんですか?」

「え?」

俺は笑顔で聞いた。

「目的って?」

「私なんかのどこがいいって言うんです?」

「どこって、そんなに限定したもんじゃないけど」

彼女は告白されたのは初めてなのかもしれない。たじろいでいるのが分かった。

「どう説明すりゃいいんだろ?」

友代はよく見ると、少しだけ頬を赤らめていた。

「だって、他に言いようがないんだし」

友代は手で口元を塞ぐと、少し考えたようだった。

しばし時間が過ぎる。

俺は心臓の高鳴りを自分自身に感じて足が震えた。

そうだ。これが告白というものだ。ドキドキが止まらない。

彼女はうつむいていたが、やがて顔を上げると、こう言った。

「はい、わかりました」

少しの間、沈黙が訪れる。

「え?」

「だ、だから、はいと言ったんです」

「はい?」

「バカなんですか?はいですよ。はい」

え?

一瞬、何を言っていいのかわからなかった。

「先輩?」

彼女は表情を変えない。

「え、いいってこと?」

「ええ。OKですよ。何をキョトンとしてるんですか」

信じられない。今まで告白は数回したことはあるけれど、全部NOだった。今度もフラれるの前提で告白したというのに。

どうすればいい?

俺の鼓動は高鳴りをやめなかった。心拍数がどんどん上昇し、顔が真っ赤になる。

「あ、そう」

ああ、俺は何てヘタレな奴なんだ。そんな返答しか出来ないなんて。でもそれはしょうがない。俺は告白にOKなんてもらったことは一度もないのだ。それが今回に限っては。

「先輩、どうしたんですか?」

友代はキツく言った。

「あ、ごめん。でも俺で本当にいいの?」

「だから、何度も言わせないでください。はい、いいですよ」

友代は今度はハッキリと言う。

「お付き合いしましょう」

「ま、まじ?」

「はい」

俺は舞い上がった。でも顔には出さなかった。

天にも昇る心地。気分は最強。

「じゃあ、坂口さん」

「と、友代と呼んでいただければ」

友代は顔を背けながら言う。

「ああ、友代。じゃあ、一緒に帰ろうか?」

「えっ、ダメです」

いきなりダメ出し。

ああ……。

「私、部活あるんで」

「あ、そうだったね」

俺は頭を掻きむしった。

「じゃあ、終わるまで待つよ」

「いえ、先に帰ってください」

「いいよ。俺、待ってるから」

友代は顔をフルフルと振った。何だか唇を噛みしめているようだ。

彼女の目はうつむいている。

「待ってなくていいですから、帰ってください。お願いします」

「何でそこまで。俺と一緒に帰りたくはないの?」

ゴリ押ししてもいいのか分からなかったが、言ってみた。

「だから、私……」

「え?」

「剣道してるから、私、く、臭いんです」

「く、臭い?」

「臭いんです!だからもういいですか?」

友代は大きな声で言った。

そ、そうか。部活って剣道部だっけ?剣道って臭いんだ。へー。

感心している場合ではない。こんなことで嫌われたらせっかくの告白の返事をもらったというのにシャレにならない。

「ああ、そうか。そうなんだね」

俺は我に返った。そして理解した。剣道は臭いのだ!それは知ってる。確か一年の時の体育は格技が剣道で、俺も防具を買ってもらったのだ。そして防具を付けたことがある。それはそれは臭いものだった……。

それを思い出すと、俺は苦笑して自分の鞄を持った。

そしてその場に友代を残してそそくさと教室を後にした。

一人残った教室で、友代はポツリとつぶやく。

「バカ……」


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