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重い体と心でなんとか一週間を乗りきった休みの日、私は部屋にこもっていました。
気持ちの良い天気で、本来ならどこかに出掛けていたでしょう。
しかしもうそんな気力がわきません。
ベッドに寝転がってウトウトしていると、ふと、臭気が鼻につきました。
酸っぱいような独特な臭いには、覚えがあります。
(まさか!?)
飛び起きると、B男の顔がすぐ近くにありました。
ベッドの真横に立って、私を見下ろしていたのです。
「ひっ」
完全に不意をつかれた私は、小さく悲鳴をあげました。
すると、B男がにたりと笑いました。
自分の優位を確信してこちらをなぶるような、嫌な笑いです。
(こいつ…)
すぅ、と頭から血の気が引くのが分かりました。
そんな感覚は初めてでした。
「いい加減にしろ!」
私は近くにあった本をつかみ、B男の顔面めがけて投げつけました。
力一杯投げた本は、ドン、と鈍い音をたてて、壁にぶつかりました。
「毎日毎日しつこいのよ! アンタなんか好きになるわけないじゃい!」
今度は頭に血がのぼり、今まで溜め込んできた怒りがあふれて止まらなくなりました。
これがキレるという感覚かと頭の片隅で冷静に考えながら、私は激情のままにB男を罵りました。
『文句があるなら面と向かってはっきり言え』
『影で嫌がらせしてくるところが陰険で気持ち悪い』
『臭い、メタボ、性格悪い、仕事できない、お前のどこに惚れる要素があるんだ』
『歯磨きくらいしろ、ガムで誤魔化そうとするな、余計に臭い』
『仕事のミスを他人のせいにするな、それがお前の実力だ』
もっと酷いことを色々言ったような気がします。
B男は無表情になり、どこを見ているのか分からない空っぽの目をしてボーッと立っていました。
それを見ると余計に腹が立って、私はますますヒートアップしました。
「ちょっと! 何を騒いでるの?」
私の声を聞き付けて心配したのか、母がドア越しに声をかけてきました。
私がそれに気をとられたわずかの隙に、B男は消え失せました。
(逃げたか)
まだまだ言いたいことがありましたが、しかたありません。
息を吐いて気を落ち着けた私は、母に大丈夫だと伝えるために立ち上がりました。
振り返ると、しばらく片付けていなかった部屋は随分散らかっていました。
(掃除しよう)
私は休みをフルに使って、部屋を隅から隅まで掃除しました。




