セカイを渡る猫
この城に侵入し、遂にこの禁書庫にまで辿り着く事ができた。わざわざ危険を冒してまでここに来た理由。それは、この禁書庫に保管されていると言われる“円環の栞の持つ力を使う”ためだ。
円環の栞がこの城の禁書庫に保管されているという事と、それが持つ力に関しては、王立図書館にあったこの国の歴史を記した一冊の書物から知ることができた。その書物は程なくして王立図書館から姿を消してしまったが、僕はその書物に記されていた事がずっと気になって仕方がなかった。
そして今夜、この国が盛大なパレードに気を取られて注意が散漫になっている時を利用してこの城に侵入し、王選に必要不可欠な王冠を手に入れるために、“円環の栞の持つ力”を利用しようと考えたのだ。
あの日読んだ書物の内容がただの言い伝え、もしくは作り話なのかもしれない。
しかしそれでも僕は信じた。
この本達の持つ力を信じて、ここまでやって来たのだ。
そして僕は広大な禁書庫の中心部へと辿りついた。
その手に持つ一冊の本と共に。
「あぁ……本当に、本当にあったんだ……!」
円筒形の禁書庫の中心部。広大な室内を一望できるその空間には、中心にあるオブジェを囲むようにして一定間隔に湾曲したテーブルが設置されており、禁書庫内の本を読むことのできるスペースだろうか、それらには長椅子も添えられていた。
そのテーブルの隙間を通り中心に歩を進め、眼前に聳えるオブジェを見上げる。
そこには、本の中で見た“地球儀”を彷彿とさせるような巨大なオブジェが構えていた。しかし、その中心には地球を模した丸い物体は無く空洞になっていて、代わりに同心円状のリングがいくつか重なり、中心を基点として不規則にゆっくりと回転を続けている。
重なり合うリングの回転が残す軌道は綺麗な球体を描き、まるでその内側は別の空間に繋がっているかの様に、怪しげな淡く碧い光がリング内の空洞を満たしている。
そしてそのオブジェの中を漂う碧い光に囲まれた中心部に、それはあった。
長方形の薄暗い透明な紙からは二又に別れる紐を提げ、その表面には本の中で見た銀河を想わせるように疎らに輝きを放つ、散りばめられた粒子が神々しく浮かび上がっている。
あの日、王立図書館で読んだ本の中に記されていた物が、そのままの姿でそこに。
「これが……“円環の栞”……!!」
円環の栞は不規則に回転するリングの中心で、オブジェの中を満たす碧い光と共鳴するかのように、表面に浮かび上がる粒子から光の環を放っていた。
それはまるで脈を打つかのようで、トクン……トクン……と一定間隔にオブジェ内の光の中で反響する。
「アーミラル・スフィアとその中心に存在せし円環の栞……。あの書物に記されていた絵のまんまだ……綺麗だなぁ……」
眼前の聳えるオブジェ、アーミラル・スフィアのリング内部を漂う光は、口を開けたままそれを見上げる僕の全身を優しく包み込み、その中心に在る円環の栞から放たれた暖かい光が、目の前に広がる光景に見惚れている僕の頬を撫でた。
あまりにも美しいその光景は僕の思考を停止させるには十分過ぎて、この一瞬だけはこの世界の事も、ここに来た目的さえも忘れさせた。
しかし僕は、後方から耳に届いた警備兵の声と足音で現実の世界に引き戻される。
「あそこにいるにゃ! 捉えろー!」
「おいっ! だから押すなって言ってるだろうにゃ!」
「俺が最初に見つけたんだから俺が捕まえるにゃ! 鼻がイテェー!」
「だからお前らゴタゴタ煩いにゃ!!」
禁書庫の扉を通ってきた警備兵達は雪崩込むようにして通路を通り、中央広間の方へと一直線に向かって来る。途中、押し合う警備兵が書棚に激突して大事な書物を撒き散らしている様子も伺え、「あぁ!貴重な書物に何てことを……!」なんて思いながらも、僕はアーミラル・スフィアの中心にある円環の栞へと向き直った。
「あの本に書かれていた事が事実ならこれで……!」
僕は一瞬躊躇うも、覚悟を決めてアーミラル・スフィアの中心を満たす光の中へと飛び込んだ。
「わわっ!」
碧い光の空間に体が入り込んだ瞬間、まるで水中に飛び込んだかのような浮遊感に襲われると共に、警備兵達の声と禁書庫内に響く音が一切遮断される。そして僕の体はふわふわと光の中を漂い、回転するリングの隙間を縫って中心へと誘(
いざな)われるかのように進んだ。
光の中は仄かに暖かく、大きな掌で優しく包み込まれているような感覚が肌を伝って僕の全身に染み渡る。気が付けば警備兵はアーミラル・スフィアのすぐ目の前に集まってきていたが、この不思議な現象と空間に戸惑い、足を止めて一様に目を丸くしているようだ。
そして僕はリングの中心へと辿り着き、腕をゆっくりと挙げて、包み込むように優しく両手を円環の栞に添えた。円環の栞から放たれていた光の環は、表面に浮かび上がる粒子に収束し、張り付くようにして銀河に似た紋様を刻み込む。
すると、僕の添えた掌の上にゆっくりと降りた。
「これを使えば……」
僕は円環の栞を左手に持ち、両手を添えた時に手放した宙に浮かぶ本を右手で掴んで引き寄せると、徐に本を開いて円環の栞をページの間に挟み込み、開いた本を両手で抱える。
「円環の栞よ……僕をこの本の物語へと導いてくれ……!!」
アーミラル・スフィアの周りを取り囲むようにしてその様子を伺う警備兵と、輝きを増す碧い光の空間の中で、僕は両手に抱える本を閉じた――
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――次回 第0話『太古の竜と選ばれし少女』
次回の投稿まで、少しの間書き溜め期間を頂きます。
更新のお知らせは【活動報告】でさせて頂きます。
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