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王様になりたかった猫

 視界に広がるあまりの情報量に目が眩み、理解が追いつかない。


 禁書庫内部はとてつもなく大きな円筒形の空間となっており、見上げればその奥は霞んで天井すら見えない。床一面に同心円状に配置された書棚には、数多の書物が並べられている。


 そして驚く事に、頭上に続く壁面にも所狭しと書棚が並べられており、それらはまるで巨大なダイヤルロックを回すかの如く不規則に回転を続けていた。


「この城は外見からしたらこんなにも広くなかった気がするのに、まるでこの禁書庫だけ隔離された別世界みたいだな。まさかこれも“円環の栞の持つ力”なのか……?」


 僕は扉の前から禁書庫の中心へと続く通路を進みながら、目を丸くしてそれらを見渡す。そんな中でふと書棚の一角が視界に映り、僕は視線を落とした。


 その書棚に並ぶ本には、昔王立図書館で読んだ事のある言葉が散見され、それらは一部に限らず大きな書棚一面ににずらりと並べられており、王立図書館で見た数の比ではなかった。


 それらの中からいくつか気になるタイトルの物を手に取ってみる。


『現代科学から視た宇宙の真理』

『地球の不思議・未開の地』

『日本の史実を読み解く・上』


 どれもこれも興味を唆る物ばかりであり、今すぐにでもこの本を開いてその中に広がる世界へ飛び込みたくなってしまう。


 そう、この気持ちは、あの時“本”という存在が僕に感じさせてくれた想いそのものだった。


 しかし、先代の王が世界中の書物を掻き集めてしまった今、この世界でこの“本”を手に取り、その想いを感じることができる場所は極僅か。その一つが、城下町の王立図書館だ。そしてその王立図書館も先代の王が亡くなり今代の王が即位してからと言うもの、その管理は雑になり、新しい本が城から運ばれてくる事も無くなった。


 それどころか、今代の王は書物に一切の興味が無いらしく、城に貯蔵された世界中の書物は最早封印状態に等しくなっていたのだ。


「こんなことはあってはならない。許されていいはずがないんだ……」


 読む者を様々な世界へと招き入れ、民の沈んだ心を癒し豊かにしてくれる力を秘めた書物が重んじられる事も無く、それが平気で見過ごされてしまう事こそが、この世界のこの国の王政の現状なのだ。


 より多くの民の手に届け、より多くの民に“本”の持つ不思議な魅力に気づいてもらいたい。本来“本”というものはそうあるべきなのだ。それはいつしか、僕の願いそのものへと変わっていった。


 そしてそこに転機は訪れた。

 それは、今代の国王の突然の“死”である。


 王位に即位してから余生を怠惰に過ごした今代の王は突然の死を迎え、王の側近からの知らせによりその事実だけが我々国民に知れ渡ることとなった。

 それから速やかに国王の大喪が執り行われたがそれも束の間、まるでついこの間の国王の死をもう忘れてしまったかのように、次期国王を決めるための盛大なパレードが連日開催されることとなる。


 しかしこれは今回に限った出来事では無い。

 国王が退位すると、次期国王を決めるためのパレードが早急に開催され、むしろ国民はそっちにしか興味が無いのだ。国王の大喪の何倍も盛大に行われるそのパレードにしか。


 この国には、いやこの世界には“王の威厳”というものは存在しない。

 在るのは、一生自由に、怠惰に過ごせるという“絶対的な権利”とその“象徴”のみ。


 国を動かしているのは地べたを這いながら働く民達だ。それは間違っている。王は民の模範となり、王権をもって国を豊かにする義務があるんだ。

 僕は本の中で色んな世界を見てきたが、僕らの敷いている王制は何処よりも遅れていて腐りきっている。


 そして国民が注目するのは、国王が退位した後に連日開催されたパレードの最後に行われる、次期国王を選定する“王選の儀”だ。


 その儀式には全ての国民が自由に参加することができるが、一つ参加するにあたって必要不可欠なものがある。



 それが、“王冠”である。



 自前の王冠を被らなければ儀式に参加することはできず、王位に即位した際にはその時に被っていた王冠が王の証となる。しかし、この世界で自前の王冠を用意することは困難であり、それを作るのには高い技術と高価な素材が必要なのだ。


 建前上は国民全てに王になる権利があると言われる儀式だが、この“自前の王冠を必要とする”という条件のせいで実際に参加することができるのは王の身内や側近、財力を持て余した者のみ。


 これが、この世界の腐敗した王政を築き上げるに至る根源となっていた。

 その腐敗した王政がこの国の、この世界のケットシー達を苦しませている。



 この“国”を、

 この“世界”を変えるためには、

 この“本”の力が必要だ。


 そして僕が王冠を見つけ出し、王選の儀を勝ち抜いて――。



「僕が、必ずこの世界を変えてみせるんだ……」


 逸る気持ちを鎮めつつゆっくりと書棚に本を戻すと、振り返って反対側にある書棚を軽く一瞥し、通路に戻ろうとする。


 その時にふと一冊の気になる本が視界をぎった。


「ん、これは……?」


 特に変わった事がある訳でも無いのだが、その本からは不思議と惹きつけられるものを感じる。ふと僕は今の状況を思い出し、先を急ぐため手に持つ本を書棚に戻そうとしたその時。禁書庫の扉から声が聞こえてきた。


「ぐぬぬぬ……、おいここは狭いんだよ邪魔だにゃ! 一気に入ろうとするんじゃないにゃ!」


「お前こそ邪魔だにゃ! お前最近また太ったにゃ!」


「お前らガタガタ煩いにゃ! 早く侵入者を追うにゃ!」


「そう言うお前こそ押すんじゃないにゃ! そんなに褒美が欲しいかにゃ!」


「おいあそこに居るにゃ!!」


 狭い通路からは多くの警備兵が押し寄せており、我先に扉を通ろうとしてかぎゅんぎゅん詰めになって扉に挟まる警備兵達の姿があった。


「うわっ!」


 僕はそれを確認すると、その本を持ったまま禁書庫の中心部へと急いで向かった。


感想、評価にて、読者様方の声をお聞かせください。

作品のクオリティアップ、執筆活動の糧とさせて頂きます!

心よりお待ちしております∩^ω^∩

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