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3‐2

 真は妹を持っているということもあり、お姉さん気質でいて同年代の中では比較的しっかり者。そして何より大の子供好きだった。目の前に居るジャンの無邪気な笑顔は、真の母性本能に刺激するには十分だった。


 そこへ、二人の間に歩み寄るぬこが、少し遅れて名乗りを上げる。


「僕の名前はぬこ。ケットシーの王様さっ」


 二足で立ち、自己紹介をした猫の姿を見て、ジャンは頬に小さな掌を当てて驚き混じりの無邪気な声を上げる。


「ねこが喋ってるー!」


「ねこじゃないよ。ぬこだよっ」


「ぬこぉ?」


「もーいーよー」


 頬に手を当てたまま首を傾げるジャンと、腰に手を当てて胸を張るぬこ。それを苦笑いを浮かべて見守る真の間に、篭もり気味の野太い声が届いた。


 ジャンはその声に振り向くと、パーッと明るい表情を浮かべて、ぬこと真に向き直って目を輝かせながら口を開いた。


「ねぇねぇ! 僕たちと一緒にかくれんぼしようよ!」


 二人はその言葉に、目を瞬かせて応える。


「「かくれんぼ?」」


 どうやらジャンは、誰かとかくれんぼをしている真っ最中だったらしく、なんでもジャンは今鬼になっているらしい。ぬこは一瞬、自分達の目的を優先させてそれを断ろうとするが、ジャンの期待に胸を膨らませる健気な姿を一瞥すると、渋々それを承諾した。


 ふと横を見ると、どうやら真は中々のノリ気のようで、「よ~しおねちゃんも一緒にお友達を探しちゃうぞ~」と言いながらジャンと一緒に拳を掲げていた。


 ぬこはその二人を見て、「面倒だなぁ」と言った面持ちで小さく溜息を付くと、周りを見渡しているジャンに声を掛ける。


「ねぇジャン。そのかくれんぼは、家の中でやってるのかい?」


 ジャンはぬこに振り向いて応える。


「うん。この部屋の中だけだよ」


 それを聞いたぬこと真は顔を見合わせると、ゆっくりとこの子供部屋を見渡した。


 そこにあるのは、


 壁に寄り添う本棚。

 オモチャの詰まったオモチャ箱。

 パンパンに膨れ上がってごそごそと動くタンス……。


 それ以外には、天井に提げられた飛行機のオモチャ達を除いて特に何も見当たらない。不自然といえば不自然だが、ここが絵本の中の世界だと言う事を思い出して、真は変に納得してしまう。


 そして真は、オモチャ箱の中を漁りながら「どこだ~?」と言っているジャンを横目に、この部屋の中でも一際不自然な、異常に膨れ上がったタンスに視線を向けた。


「このタンス……怪しすぎるでしょ」


 真は立ち上がってそのタンスの前まで歩み寄ると、怪訝な面持ちでそのタンスを見渡し、ゆっくりと両手を掛ける。そして、意を決してそれを開いた。


 すると、中には汗だくでヒューヒューと息をする太ったおじさんが入っていた。

 真の目は点になる。



 一瞬の静寂。

 そして次の瞬間、絶叫した。



「ギャアアアァァァー!!!」


「あっ、”パパ”みーつけた!」


 背筋を張り詰めて髪を逆立てる真の背後から、ジャンの弾むように明るい声が届き、真はそれに振り向く。ジャンはタンスに入っていたおじさんを指差して、ニコッとはにかんだ。その様子と、今ジャンが言った言葉を思い返して、真はふと我に返ると口を開いた。


「えっ、パパ?」


「見つかっちゃったなぁ~」


 どうやらタンスの中に入っていたのはジャンのパパだったらしく、ジャンはパパと一緒にかくれんぼをしていたようだ。ジャンのパパは体を押し込んでいたタンスから体を捩って外に出ると、わざとらしく頭をポリポリと掻いた。


 膨れ上がっていたタンスは、ジャンのパパが外に出た途端にバネのように弾んで元の形状へと戻っていく。


 ジャンのパパは、ジャンの前に歩み寄るとしゃがんで、頭の上に乗っていた王冠をジャンに手渡す。真はそれを見て、ハッとしてぬこに声を掛けた。


「ぬこ! あれって、王冠だよね?」


「うん、そうみたいだねっ」


 ジャンの持つそれは、金色の塗装にいくつかの装飾が施されており、真にとってもイメージ通りの王冠そのものだった。ぬこはそれを見て早速、王冠を手に持つジャンへと訊ねた。


「ねぇ、ジャン。それは君の王冠かい?」


 ジャンはぬこの言葉に振り向いて、王冠を掲げながら応える。


「うん! そうだよ。これは“オモチャ”の王冠なんだ!」


「オモチャ?」


 ぬこは改めてその王冠をじっと見つめた。


 すると、その王冠は所々塗装が剥がれ落ち、プラスチックの材質が垣間見えている。それに、先端に取り付けられた装飾もよく見れば宝石ではなく、それを模したビーズのようだった。

 

 ぬこはそれを見て、少しばかりがっかりとした様子で肩を落とした。そのやり取りを見ていたジャンのパパは、見知らぬ真とぬこの二人を交互に見ながら、ジャンへと訊いた。


「ジャン、この人達はお友達かい?」


「うん! 一緒にかくれんぼしたいんだって!」


 ジャンは満面の笑みを浮かべながら応えた。それを聞いたジャンのパパは柔和な笑みを浮かべて、真とぬこに「一緒に遊んでくれてありがとう」と言いながら会釈をする。

 それを聞いたぬこは、「別にかくれんぼをしに来た訳じゃない」と言いかけるが、真がそれを静止する。


「ぬこ、ジャンは私達を仲間に入れてくれたんだから、そんな事言っちゃだめだよ」


「いやでも……」


 二人は目を見合わせてから、またジャンへと向き直る。すると、ジャンは早くかくれんぼを再開しようと言わんばかりに声を上げた。


「じゃあ次は、ぬこが隠れる番ね!」


 そう言って手に持つ王冠をぬこへと差し出し、ジャンはニコッとはにかむ。幼さと純真に満ちたその笑みを見たぬこは、その瞳に見つめられる事に若干の恥じらいを覚えつつも、渋々オモチャの王冠を受け取る。


 両手に持った王冠は、随分と軽かった。


感想、評価にて、読者様方の声をお聞かせください。

作品のクオリティアップ、執筆活動の糧とさせて頂きます!

心よりお待ちしておりますm( _ _)m

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