『行商人のねこ』 -Original Story-
『行商人のねこ』
ある日、物を売りながら街を渡り歩く、行商人のねこがいました。
「おれの名前はテト。行商人のねこさ!」
テトは、人の目を避けるように深くフードを被っています。
なんでだろう?
テトは、大きな街を訪れてから二日目の商売にはげんでいました。
「さぁ、今日も一日がんばるぞ!」
人の多いこの街では、それはもうたくさんの物が売れて、テトは大喜び。
そこに、また一人のおじいさんが訪ねてきます。
「やぁ、行商人の小人さん。わしにそのツボを売ってはくれないかい?」
「うん、喜んで」
テトは大きなツボをおじいさんに渡しました。
おじいさんはポケットからお金を取り出して、テトに手渡しました。
「ねぇおじいさん。ひとつ聞きたいことがあるんだけど、この街で喋る猫を見かけなかったかい?」
突然、テトはそんなことを聞きました。
それにおじいさんは首を横に振って答えると、立ち去ってしまいました。
今度は小柄なお姉さんが訪ねてきます。
「もしもし、行商人の小人さん。わたしにその綺麗な布を売ってはくれませんか?」
「うん、喜んで」
テトはお姉さんに綺麗な布を渡しました。
お姉さんは袋からお金を取り出すと、テトに手渡しました。
「ねぇお姉さん。ひとつ聞きたいことがあるんだけど、この街で喋る猫を見かけなかったかい?」
テトはまたそんなことを聞きました。
それにお姉さんは首を横に振って答えると、立ち去ってしまいました。
テトは少しがっかりしています。
誰を探しているんだろう?
今度は小柄で猫背の、フードを被った男の人が訪ねてきました。
「よぉ、行商人の小人さん。俺様にその食い物を売ってはくれねぇか?」
「うん、喜んで」
テトは男に食べ物を渡しました。
男は手のひらからお金を差し出すと、テトに手渡しました。
「ねぇおじさん。ひとつ聞きたいことがあるんだけど、この街で喋る猫を見かけなかったかい?」
テトはまたそんなことを聞きました。
すると男は、ゆっくりと頷いてこう言いました。
「あぁ、見たことがあるぜぇ~」
男はにた~っと不気味な笑みを浮かべて、テトの顔を覗き込みました。
テトは驚いて、フードを抑えてその場から逃げ出してしまいます。
しばらくすると、街の広場にやってきました。
テトは荷車を置いて、井戸に腰をかけて一休み。
しかしテトは手を滑らせてしまい、井戸に落っこちてしまいそうになります。
テト、あぶない!
ふ~。間一髪、テトは何とか踏ん張りました。
しかし、その拍子に頭に被っていたフードが脱げてしまいました。
「ね~こ~さん」
そこにさっきの男が現れました。
テトは慌ててフードを被り直し、顔を隠します。
「や、やぁ。今度は何をお求めかな?」
すると男は突然、テトに飛び掛り両手で鷲掴みにしてしまいました。
「俺様にねこを売ってはくれないか~い?」
テトはびっくり。
男に自分がねこだということがばれてしまったようです。
テトは逃げようとして暴れますが、男は放してくれず、テトを連れ去ろうとしてしまいます。
その時、どこからともなくたくさんのねこたちがやってきて、次々に男に飛び掛ります。
「ぬわぁあ! な、何だこいつら! ……ねこ!?」
ねこたちは驚いている男を持ち上げると、井戸の中に放り投げてしまいました。
「ねこさんたち、助けてくれてありがとう」
「にゃ~」
テトは自分を助けてくれたねこたちにお礼を言いました。
すると、その中から一匹のねこがテトの前に近寄ってきます。
そのねこは、テトと同じように二本足で立ち上がると、言葉を話しました。
「テト……なの?」
テトはごしごしとまぶたをこすり、大きく目を見開いてその猫を見つめます。
「おかあ……さん?」
「テト!」
「おかあさん!」
なんとそのねこは、テトのおかあさんでした。
テトはずっと、おかあさんのことを探していたんだね。
おかあさんは、テトが小さい頃に悪い人に捕まってしまい、テトとはなればなれになってしまったのです。そしてテトは、行商人になってずーっと旅をしながら、おかあさんを探し続けていたのでした。
長かった旅を終えて、テトは無事おかあさんとの再開を果たすと、
街のねこたちと一緒に、人から隠れてひっそりと暮らしたんだとさ。
おしまい。
次回 第3話 ――『ひみつのオモチャ箱』――
『行商人のねこ』いかがでしたか?
ぬこ達とテトの出会いは、この物語にどんな影響を及ぼしたのでしょうか。
一見同じハッピーエンドに思えますが、小さな出会いが、少しの勇気が、一つの目標が、主人公やその周りの人々の人生を大きく変えることが、あるのかもしれませんね。
次回更新は11月6日月曜日19時ですっ。
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心よりお待ちしておりますm( _ _)m