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織田家の長男に生まれました  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第四章:安城の新たなる歴史【天文十四年(1545年)~天文十五年(1546年)】
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改名


信長は無事に元服を果たした。

沢彦宗恩によって信長と名付けられ、弾正忠家の嫡男の証である、三郎を輩行名とし、織田三郎信長と名乗った。


信長が祭場に現れた時、政秀が用意した親爺の服を着ていた。

親爺は苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、多くの者は、弾正忠家当主の衣服を纏って姿を現した信長に思わず息を飲んだ。

ほんと、きちんとしていたら気品溢れる涼やかな美形だよな。


女性であると知った今、信長を見る印象が変わってしまうのは否めないな。

ていうか、下さえ隠せばバレないとか思ってたあたり、文化的に未成熟だなー、という感じだな。

今後どんどん成長していくだろうから、その辺りも気を付けさせないとな。

今度、ちゃんと政秀あたりと話しておこう。

そのあたりの話から、諌死を防げるかもしれないし。


けど濃姫とかどうなるんだろうな。

あと史実だと、親爺に負けず劣らずの子沢山だったはずだから、その辺もどうなるのかね?

まぁ、子供の数だけで言うなら、信長自身が産めば良いんだが……。


隠してる以上、それも難しいだろうしなー。


ちなみに政秀は、それなりに身なりを整えた信長の姿に、ほっとしたような表情を浮かべていたが、林秀貞は冷めたような目で信長を見ていた。

あれは事実を理解している目だな。目立たないとは言え信長の筆頭家老。その行動を想像することは容易いんだろう。

ひょっとしたらアイツも女だと知っているのかもしれない。筆頭家老だし、可能性はある。親爺の命令で信長を後継者として扱っているが、やはり女性を主君と仰ぐのは抵抗がある、というなら、アイツの態度も理解できる。

ひょっとしたら、うつけの行動は、潜在的な敵を炙り出すためだけじゃなく、自分の性別を隠すためでもあったりするんだろうか。悪目立ちすることで深入りをさせない、みたいな。



元服の儀が終われば、そのまま祝宴へと突入するのだが、その前に親爺が上座に座り、俺がその前に呼ばれた。


「安祥攻略後、その地をよく治めている其方に、朝廷から賜った三河守を授ける」


「過分な褒美、有り難く存じます」


「今後もその地を大過なく治め、更に三河全域の平穏を成し遂げる事を期待し、分家確立を許す!」


「ご期待に添えますよう、精進いたします。つきましては、その覚悟を現すため、名を改めたくお願い申し上げます」


「うむ、申してみよ」


この様子だと、まだ政秀や信長から俺が信長の正体を知った事を聞いてないのかな?

いや、知っていてこの態度という可能性もある。

後者なら俺は試されている。前者でも、ここでの印象が今後、親爺が事実を知った時の印象に影響を与えるだろう。


勝負だ!


「まず、織田の名はお返しします。治める土地から安祥と名乗りましょう」


ざわつく場内。だが、このくらいは序の口。

織田の分家によくある名前や、かつて弾正忠家に仕えていた武門の名前を使う事も考えたが、ここは地名が一番だ。

三河でもなく、安祥と地域を限定することで、俺自身の野心の小ささをアピールする事もできる。


「三郎は弾正忠家の後継者につけられる輩行名です。紛らわしいので五郎三郎から三郎を取ります」


ここに手をつけるのはやり過ぎのようにも思うが、やれることは全てやっておこう。


「五郎だけでは三郎様と音が似てしまいますので、五郎太夫と名乗ります。これは私の幼名、五郎太からのもじりと、神職では下位の者を太夫と呼ぶ事もあるそうで、神職の出である弾正忠家にとって下位の者、という意味も持ちます」


勿論、本命の理由は後半だ。そのせいで前半部分がちょっと無理矢理になってしまった。

まぁ、そんな無理矢理な理由をつけてでも、名前を変えようと思った、という思いは伝わるんじゃないかな。


「そして、織田の通字である信をお返しします。三郎信長様の偏諱を頂きまして、私の偏諱を残し、長広と名乗ります」


長を上につけることで、俺と信長の力関係を現す。

これは多くの武士が行っていることだな。大抵の武士は、主君などから通字や偏諱を賜り、自分の家の通字を下にして名乗っている場合が多い。


「これより安祥あんじょう三河守みかわのかみ五郎太夫ごろうたゆう長広ながひろと名乗ります」


若干、輩行名の五郎太夫が、三河守と同じ仮名っぽいため、間抜けな名乗りになってしまっている気がする。

けれど、逆にそれが、いかにも偽物のような名乗りっぽさが出て、俺に野心など無い事が伝わるんじゃないだろうか。


「く、くく、くははは!」


俺の名乗りを聞いた親爺が笑い出した。


「ひねり過ぎだ、馬鹿者! そこまでせずとも、其の方が弾正忠家の家督を狙っていないことなど、誰もが理解しておるわ!」


「流石の慧眼にございます」


よし、通った。

おまけに、俺の真意が親爺の家臣達に間違いなく伝えられたはずだ。

これは大きい。


「よかろう、安祥三河守五郎太夫長広よ、これからは安祥家の当主として、本家である弾正忠家を、そして後継者である三郎信長をしっかりと支えるのだぞ!」


「この身に替えましても!」


こうして茶番は終わった。

けれど、俺と親爺のやりとりを茶番と見抜いた者も、そうでない者も、どちらも等しくわかったはずだ。


親爺は後継者を信長から変えるつもりはなく、俺もそれを望んでいるという事を。




そして祝宴が開始されたのだが、開始直後の乾杯で、信長が潰れてしまい、主役不在の宴となってしまった。

信長は下戸だとする資料は前世にもあったけど、ここまで弱いとは思わなかったな。


合理的で冷徹非道な第六天魔王が甘党の下戸だというのは、これも一種のギャップ萌えなのかもしれないな。

欠点があるという長所まで合わせ持つとは、信長はまさに完璧超人だな。

兄として鼻が高い。


という訳で名前が変わりました。

安祥長広、安祥長広を、これからもよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 選挙か‼️www
[一言] 油の開発を引っ張ってきて油田を名乗れば後々キリスト教から愉快な反応を得られたかもしれないのに(笑)
[一言] ここ 読もうだったんだね 不覚
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