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織田家の長男に生まれました  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第七章:尾張統一【天文二十一年(1552年)~】
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長良川の戦い

三人称視点です


「城からお出になるのですか?」


義龍謀反の情報はすぐに道三の耳にも届いた。

家臣達の多くがその真偽を疑う中、道三はすぐさま戦支度を整えた。


天下の堅城たる稲葉山城を出て、長良川の手前に布陣すると説明を受け、腹心たる鷲見忠直が尋ねた。


「儂が稲葉山城に籠城せねばならん状況で、誰が儂に味方するというのか?」


美濃の状況は道三が誰よりも理解している。

稲葉山城に頼らなければならないという事は、戦力的に義龍に劣っているという事だ。


その状況で、普段から道三を疎んでいる国人衆が道三の味方をするなどあり得なかった。


道三が義龍に勝つには義龍よりも多く戦力を用意しなければならない。

そしてそれが可能ならば、稲葉山城はそもそも必要無い。


勿論、多くの戦力を揃えられても義龍に稲葉山城を抑えられては面倒だ。

義龍ならば、というか『道三の敵』ならば、彼のために援軍を出す者もいるだろう。


だからそのための場所と布陣だったのだ。


「……これだけか……」


「はっ……」


本陣で布陣をする軍勢を見る道三の表情は険しい。

傍に侍る若武者は悔しさを滲ませている。


道三のもとに集まったのは多く見積もっても二千ほど。

一度の戦で集める数としては、決して少なくはない。


だが、川を挟んで対陣する義龍の軍勢は、既に道三のそれより遥かに多かった。

しかもその数は今なお増えている最中だ。


「最終的にどれほどになるかわからんな。まさか、これほどとは……」


簒奪者道三を討つという利害の一致があるとは言え、それでも、義龍にその素質を見出せなければこれだけの数は集まらないだろう。

旗差しの中には、義龍以外の道三の息子のものも見える。


「まさかこの儂が、相手の実力を見誤るとはな……」


「親にとって子供はいつまで経っても子供ですからな」


自嘲気味に呟く道三に、石谷対馬が笑いながら応えた。

それを聞き、道三の口元も歪む。


「さて、義龍にはこの美濃を治める素質も資格も実力もある事がわかった。ならば、儂の取るべき道は一つ」


「どうなされます?」


「逃げる」


その言葉に家臣達は言葉を紡げなかった。

質問した若武者は、目を見開いて道三を見ている。


「美濃を治めるに足る才覚を見せたとは言え、当主交代は他国に対する隙となる。美濃統一にもそれなりの時間が必要であるだろうしな。その時間を、儂が稼いでやろう。儂が息子にする最初で最後の奉仕だ」


「なるほど……。戦国随一の謀将と称される『蝮』に戦もせずに勝ったとなれば周辺諸国はその策謀を警戒し慎重にならざるを得ない、という事ですか」


「新九郎様の戦上手は知られていますからな。そこに謀略の評価も加われば、迂闊には手を出せないでしょう」


「いずれバレるにしても、確かに時間は稼げますな」


「其方らは逃げるにせよ降るにせよ好きにせよ」


「殿はどちらへ?」


「婿殿ならば老人一人くらい匿ってくれるだろう」


「息子に追い出された国主は娘婿の元へ逃げる慣例ができそうですな」


「そして婿殿の敵対者に引き抜かれるのか?」


陣中に笑い声が響く。


「佐藤紀伊」


「は!」


「民たちを適当に逃がしてこい。それに乗じて陣を出る」


「はは!」


「十兵衛、其方はどうする?」


「叶うなら、同行いたしたく」


近くに侍っていた明るい髪色の若武者に道三が尋ねると、すぐにそんな答えが返ってきた。


「よし、許す」


そして道三は陣中を見回す。


「城や領地に縁者を残している者もいるだろう。それぞれ届ける書状を準備せよ。終わり次第、この場から逃れる」


それからすぐに道三の軍勢は散り散りに逃げ始めた。

それを見た義龍はすぐに討伐隊を編成するよう命じる。


「しかし、兵らがばらばらに逃げたため、道三がそこに紛れていたのでは……!」


「道三の逃げる場所など尾張に決まっている! 国境に先回りせよ!」


「すぐに命じますが、恐らく間に合わぬかと……」


大軍であればどうしてもその動きは鈍くなる。

少数の追撃部隊を編成すると言っても、その選出からして時間がかかるものだ。


「犬山と岩倉に使いを出せ! 道三が越えるよりは早く国境を抑えられるはずだ!」


「はは!」


義龍とて、ただ道三を認めない家臣や国人衆に期待して決起した訳ではない。

道三の援軍に織田弾正忠家が出てこないとも限らないから、先に手を打っていた。


岩倉織田家と犬山織田家と結んでいたのだ。

信秀が上洛群を率い、信長が北伊勢を抑えるために出陣している。


これで斎藤家で当主交代となれば、弾正忠家は無防備となる。


長広が兵を率いて駐留しているとは言え、彼らはあくまで安祥家の兵だ。

当主と嫡子不在の弾正忠家を守るに際し、士気が上がるとは思えない。


岩倉と犬山だけなら、安祥の兵でも対抗できるだろう。

だが、この状況で岩倉織田家と犬山織田家が決起すれば、弾正忠家に反旗を翻す者は尾張でも出るだろう。


士気の低い安祥では守り切れない可能性が高い。

佐治や水野を頼って三河に逃れる事ができれば良い方だ。


ならば。

道三を捕えるという名目で、多少なりとも岩倉や犬山から兵を出させれば。


彼らに(・・・)決起する(・・・・)余裕はなくなる(・・・・・・・)だろう(・・・)と、義龍は考えたのだった。


義龍「岩倉や犬山は弾正忠家との緩衝材に残すために結んでおいて、それはそれとして信濃を牽制できる安祥に恩を売っておこう。岩倉や犬山に尾張を取られたら、それはそれで面倒だし」

調べてみると、実は外交や政治も得意な義龍。

史実では義龍側についていた佐藤忠能。まぁこの流れなら道三側にいてもおかしくないよねって事で(少なくとも孫四郎らの殺害を勧めたとされる長井通利よりは)、この戦いの後で義龍に降った事にしました。ご了承ください


そして次回、ついに主人公が再登場します

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― 新着の感想 ―
桶狭間は別として史実の信長と敵対して一回は負けた敵、みんな寿命来てるのが本当に運が良いんですよね。
いやいやいやいやいや義龍の評価なんかどうでもいい、 今後の展開で重要な絶対外せない人物がサラリと登場してるじゃないかw しかも鷲見忠直とか石谷対馬守とか佐藤紀伊守みたく今後そんなに出番無さそうなのは …
主人公…誰だったっけ?wうーん
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