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性悪のちゅうとりある  作者: 永遠の28さい
0章 冒険者になろう!
8/12

0-8 拠点

ハウル:ギルマスのヨウケン殿のステータスを見て見たいなぁ

グレム:ハウルは【鑑定】持ってないじゃん

ハウル:だから、グレムが【鑑定】で見た内容を俺に教えてくれれば・・・

グレム:は?なんで?自分でスキル取得して見てよ!

ハウル:・・・ちょっとは俺の言うことも聞いてくれたっていいじゃない?

グレム:僕はそういう妖精じゃないから。

ハウル:(・・・どういう妖精なんだよ!)

グレム:・・・ハウル、聞こえてるよ。




 早朝の酒場は閑散としている。この時間に街に帰って来た冒険者や、商人たちが軽めの朝食と休憩のために利用されているらしい(グレム談)が、その一番奥の目立たないテーブルに座る巨躯の男に全身が硬直するような威圧を俺は掛けられていた。だが精神力99は伊達じゃないようで、俺はかろうじて舌を滑らか…とは言えないが、すべらせて相手の興味を持たせることに成功した。


「ひよっこが…自分を囮に儂に証拠を掴ませようという気か。」


 大男…アルデガンドのギルドマスター、ヨウケンは羊皮紙を綺麗にまとめて手の平から消し去り、銀貨をテーブルに置いて立ち上がった。天井まで届きそうな身長…3メートル近くあるのか…が酒場の出口に向かって歩き出すと、他の客もその光景に驚き、委縮し、会話もなくなる。


「ひよっこ、儂はどこから見ていればよい?」


 周囲の様子を意に介せず、出口の扉に手を掛けながら、ヨウケンは俺に話掛けた。


「ギルド会館の裏口で。内部の様子は掃除のご婦人に見ておいてもらえれば。」


 俺の言葉にヨウケンがまた反応した。眉を吊り上げ、俺の様子を窺って来た。当然ちびりそうな威圧が凄まじく俺を襲っている。


「すごいねハウル。この人の【威圧】は熟練7だよ!でもそれを耐えてる君はもっとすごいよ!」


 うるさい、くそ妖精。集中力を乱すな。


「アイツには【意思伝達】で伝えた。…今日の受付担当はヘレイナだったな。アイツにも伝えている。」


 ヨウケンは何らかのスキルで遠隔から連絡を行ったらしい。スキルについては後でハウルに聞くとして、俺は無言で一礼し、二人で大通りに出た。ヨウケンは俺の事など一切顧みず、のしのしと大股で歩いてギルド会館の裏口へと向かって行った。俺はその様子を見てからギルド会館の入り口へと向かった。


 扉を開け中に入ると、視線が再び俺に集中した。


“誰かからのスキル干渉を受けました。”


 メッセージさんからの警告が表示され、俺は狂信者集団を視界にいれた。ヘラヘラと笑った表情で俺を見ていた。俺は一瞥しホールを掃除するおばさんに声を掛けた。


「ありがとうござます。お蔭でどうにかなりそうです。」


 俺の言葉におばさんはニコリと微笑んだ。


「こちらこそ。…でも油断しちゃだめよ。」


 どうやらなにかしらが伝わっているような返事だった。俺は軽く頭を下げて、カウンターへと体を向けた。直ぐに妖艶爆乳エルフと目が合う。彼女は俺を籠絡するかのような目で俺に微笑みかけていた。…それだけでギルマスから何か言われていることがわかり、脳筋冒険者たちの怒りを煽っているのもわかった。俺は背中に緊張の汗を掻きながらもゆっくりとできるだけ自然な振る舞いで彼女に近づいて話しかけた。


「すいません、冒険者登録をしたいのですが。」



ひよっこさん(・・・・・・)…こんなところに何の用かしら?」


 俺は後ろを意識しながら、冒険者登録を進めた。羊皮紙に記入してプレートと一緒に手を握ってもらったところでお姉さんが微笑んだ表情のまま、艶やかな唇が何かを語った。


“が・ん・ば・っ・て・ね”


 唇の動きで俺に応援していることを伝えてきた。……いや、その唇の動きを読んだのが俺の肩を定位置にしているグレムなんだが…。こいつ、意外とその能力が幅広い。

 お姉さんは鉄板プレートを持って奥へと移動していった。…ここからが本番だ。

 早速、後ろで見ていた脳筋集団が他の人間から俺の様子が見えないように囲んでいき、リーダーが俺の胸ぐらを掴んだ。


「小僧。誰の許可貰って俺のヘレイナに近づいてんだぁ?」


「すいません、先に言ってもらえれば。次回からはそうします。」


「てめぇ、オレ様を馬鹿にしてんのか?」


 簡単なやり取りで相手方のヘイトが溜まり、俺は裏口へと連れて行かれる。そして小屋の中に放り込まれた。脳筋どもがヘラヘラした表情で小屋の中にうずくまる俺を囲い込み、扉を中から掛けてしまった。…大丈夫か?このままギルマス登場のタイミングを誤り、俺は殺されてしまうという展開もあり得る。



 だが、左上のメッセージ君が俺に警告を伝えて来ました。


“誰かからのスキル干渉を受けました。貴方は防御力が強化されました。”


 何かのスキルで俺は防御力を上げられた。今まで何度もサンドバッグを受けてきたが、防御力をわざわざ上げてそんなことされたことはない。つまり、外部には俺の味方がいるってことだ。俺は己の中に有った不安を消し飛ばして行動に出た。


「イテてて…。アンタら、こうやって多くの新人冒険者を痛めつけてたのか?」


「余計な口は開くもんじゃねえぜ!」


 俺は殴られたが、思ったほど痛くはない。俺は痛がる振りをして会話を続けた。


「…その木箱の下には大量の人骨が眠ってるよな?あれはお前達がやったのか?」


 俺の言葉に男たちは顔を引きつらせたが、直ぐに壊れた笑みを浮かべた。


「知らなくてもいいことを知ればどうなるかわかるだろ?」


 リーダーはナイフを取り出し、俺の頬に当てた。





「……ほう?どうなるのだ?」



 低い声がして、鍵を閉めたはずの扉が鈍い音を立てた。鍵ごと扉が壊され、外からは大男が身を屈めて部屋の中を睨み付けていた。


“誰かからのスキル干渉を受けました。『状態』に恐怖心が付与されました。”


 大男は中にいる俺ごと何らかのスキルを発動させ、全員に恐怖心を植え付けた。俺はなんとか耐えていたが、他の全員は恐怖の表情のまま、身体を硬直させていた。大男は身体を折り曲げて小屋の中に入り、俺に突き付けられたナイフを取り上げた。


「うっ…うあっ…!!」


 狂信者共は何かを言おうとして言葉にならない声をあげていた。


「ようやく証拠を掴んだな。伯爵の許可証を盾に好き放題してくれやがって…。儂がその許可証に怖気づくなんて大間違いじゃ。証拠を揃え、伯爵に報告すれば貴様らの処分など簡単にできる。」


「うっ…あっ…!あうあ!!!」


 狂信者リーダーは何か言い訳しようと口を開いたが、まともな言葉は聞き取ることができなかった。


「余計なことは言わん方が身のためじゃぞ。儂だけの処分では済まされなくなるぞ。」


 大男は、手に光る輪を作って、一人ずつ両手を拘束していった。男たちは観念したのか、おとなしく拘束されていった。やがて兵士たちが駆け寄り脳筋冒険者たちを小屋から連れて行った。俺はその様子を見ながら、ゆっくりと立ち上がった。ようやく『恐怖心』の状態から解放され、身体の自由が戻った。俺は身体に着いた埃を払いながら、ギルドマスターを見やる。ギルマスのヨウケンは笑っていた。…その顔は笑ってるとは言い難いのだが。


「しかし、儂の【威圧】を受けて動けるとはよほどの能力を持っておるのじゃろう…ヘレイナ!このひよっこのプレートを持ってこい!」


 小屋の外からは~いという返事が聞こえ、しばらくすると、服の中のたわわな何かを上下に揺らしてエルフお姉さんが走ってきた。ギルマスはお姉さんの持っていたプレートをひったくり、握りしめて中身を確認していた。


「なんじゃこりゃ!こんな偏り過ぎのよわっちい能力で囮をやったのか!ったく!うまくいったからよかったものの!」


 何故か俺は怒られた。理由はなんとなくわかるが、ここはわからないふりをしておこう。俺が小首を傾げてわからないふりをしていると、ギルマスは舌打ちして、プレートを俺に放り投げてきた。俺は不格好な仕草でそれをキャッチする。


「ひよっこ!お前…自分の能力値を見たことがあるのか?普通の人よりも弱いぞ。」


 俺もギルマスがやったと同じようにプレートを握りしめる。すると視界の中央に俺のステータスが表示された。


【ハウリングス】

 種族:ヒト族

 年齢:16歳

 性別:男

 職業:冒険者(見習い級)

 LV:1

 取得能力:【体力強化.9】

      【双剣術】

      【気配察知.1】

 体力 :16

 生命力:16

 知力 :30

 筋力 :10

 耐久 :4

 敏捷 :4

 器用 :6

 魔力 :101

 精神力:99

 運  :99

 攻撃力:10

 防御力:4

 回避力:4



 表示されたステータスは自分でステータスを見た時といろいろ違っていたが、これを見れば誰でも俺の弱小具合を言って来てもおかしくはない。俺も「弱っ!」て思ったくらいだし。



「ギルドマスター殿。」


 俺は受け取ったプレートを【有限ストレージ】に仕舞い込むとニヤリと笑った。その様子をギルマスは訝しげに見た。


「…なんだ?」


「俺はもう……ひよっこ(・・・)じゃありませんので。」




 ヨウケンは俺の言葉を聞いて大笑いした。そしてひとしきり笑ってから、真剣な表情に切り替えた。


「冒険者は、弱い人間が続けられるほど、甘い世界じゃねぇ。己の力、技、心を鍛えて強くなり続けなければ死んでしまうやもしれん。」


 ヨウケンは俺のケツを叩いた。本人は軽くのつもりだろうが、俺は前に吹っ飛ばされ、前に立っていたヘレイナ姉さんに抱き付く格好になった。


「ガハハ!ヘレイナ!まだ登録が終わっただけじゃろ?いろいろとこの若造(・・)に教えてやれ!儂の【威圧】を耐える男じゃ。多少無茶をさせても構わん!」


 そう言うと笑いながらのしのしと歩いて行ってしまった。小屋に残された俺とエルフお姉さんはきょとんしてしまったが、


「んふふ~坊や…いつまでお姉さんに抱き付いてるつもり?」


 と言われさすがに動転した。


「あ、す、すいません!なんかいい匂いだったので。」


 恥ずかしそうに答え、俺は離れようとしたが逆に俺はお姉さんに抱きしめられた。


「坊やは可愛いねぇ!……お姉さん、いろいろと教えちゃおうかしら?」



 これは唯のラッキースケベなのか、それとも次のイベントの始まりなのか。俺はどうしていいのか困った表情で呆然としていると、肩に乗るくそ妖精がキャキャと笑い出した。


「ハウル!やったね!晴れて冒険者登録だ!」



 周りの景色が、灰色に包まれた。俺を抱きしめるエルフお姉さんが妖艶な笑顔のまま石の様に動かなくなり、俺の五感が急に失われていった。



 ぱーん…ぱぱぱぱーん!ぱぱぱぱーん!ぱぱぱぱんぱんぱんぱんぱっぱぱーん!



 けたたましいほどのファンファーレが鳴り、フルオーケストラの様相で音楽が流れ始めた。俺はお姉さんとの頬ずり状態のまま、一体何が起こったのかわからず、キョロキョロしていると、左上のメッセージ君がゆっくりとメッセージを流し始めた。


“突然剣と魔法が制する世界に転生した日本人、洲丸侑波(すまるゆうは)は、悪戦苦闘しながらもなんとかアルデガンドのギルドにて冒険者登録を行った。だが、彼はまだ右も左もわからない見習い冒険者。これから待ち受ける数々の困難を乗り越え、力を蓄え、仲間を揃え、魔王に挑まなければならない。…そう、彼の冒険はここから始まって行くのだ。”


 ぱーん…ぱぱぱぱーん!ぱぱぱぱーん!ぱぱぱぱんぱんぱんぱんぱっぱぱーん!



 ファ、ファンファーレがうるさい!しかも音楽が鳴り続けてるし、なんか俺の過去の死亡シーンが走馬灯のように流れてるし!何コレ!?おいグレム!説明してくれ!



 俺の肩に泊るグレムは、俺の死亡シーンを見て腹を抱えて笑っていた。



 俺はコイツを絞め殺そうと思ったが、生憎爆乳エルフお姉さんに抱きしめられた状態で一時停止している為、どうにもできず、憎しみを込めて睨み付けるだけになっていた。



 ぱー…ぱーぱぱぱ、ぱぱぱぱぱー…ぱーぱーぱー、ぱ-----ぱ-----ぱ-----!!


 長いフルオーケストラの音楽も終わり、俺の死亡シーンも終了して、ようやく次のメッセージが流れた。



“貴方の拠点となる宿屋を決めて下さい。契約をすることで、拠点としてセーブポイントが設定されます。”





 なん…だと!?





 メッセージの終了と共に周りの世界が動きだし、お姉さんの芳醇な香りが鼻の中を蹂躙した。一瞬我を忘れかけたが、メッセージ君が流した『セーブポイント』という言葉をすぐに思い出した。これがあれば、死に戻りで最初からやる必要はなくなる。もしかしたらログアウトもできるかも知れない。俺は今すぐにでも宿屋を探したかった。…だが、


「じゃあお姉さんと二人っきりで会議室に行きましょうねぇ!」


 エルフのお姉さん、ヘレイナさんは俺に爆乳を押し付けるように腕を組み、俺と一緒に裏口からギルドホールの方へ戻った。俺はその間さっきまで起きていた状況を整理しようとするのだが、俺の右腕を包み込む柔らかな物体に全ての意識が集中し、その触感を忘れることができぬように記憶しようと視線までもが釘付けになっていた。


「…ちょっと坊や…、目が怖いわよ。」


 視線に気づいたお姉さんが、下から見上げる表情で話しかけられた。


「あ!あの、いやそ、それは…すいません。」


 俺は言い訳しようと思ったが、無理だと判断し素直に謝った。


「はい。素直でよろしい。」


 俺はヘレイナさんにいい子いい子されて照れた表情のまま、訝しげにする兵士の横を通って階段を昇り、小部屋へと連れて行かれた。そして部屋に入ると鍵を閉めて俺を椅子に向かって押し出し、扉を背にしてぺろりと舌なめずりをした。


「ふう…やっと二人っきりになれたわね。」


 ヘレイナさんは呆然とする俺を見つめながらテーブルの反対側に回り、椅子に座った。拗ねたような怒った顔をしている。さっきまでとは全く違う雰囲気だ。


「まずはその呆けた顔を止めなさい。それから、私の身体や仕草を見てだらしない表情をするのもやめなさい。」


「…やっぱりわざとですか。」


「当たり前よ。誇りあるエルフが易々と弱い男に体を預けるモノですか。私の専属を得たいのなら強くなることね。」


 強い男には易々と預けるのですかというツッコミは飲み込んで話を続ける。


「なるほど。…では貴方が想う“強さ”とはなんですか?」


ギルド(・・・)は個人の強さ何て求めてないわ。ギルドに貢献できることを冒険者に推奨してるの。」

 ヘレイナ姉さんの好みを聞いたつもりが、ギルドの方針に話をすり替えられた。これはもう今はお姉さんの情報を収集することは無理だと諦め、素直にお姉さんの話を進める事にした。隣でケタケタ笑ってるクソ妖精は後で絞め殺すことに決めた。


「…具体的には?」


 ヘレイナさんは身を乗り出した。


「まずは、ギルドの言うことをしっかりと聞くこと。ギルドは、安定した素材、食材、宝石を手に入れられるよう注意を払って冒険者を動かしているの。手足となる冒険者が統率を乱す行為に及べばそれはギルドの品質や価値をも乱してしまう恐れがあるわ。良い冒険者は、ギルドの判断に従い、論理的な意見を述べることができ、仲間と協力することができる人のことを言うのよ。…アナタはまだそれがなく、これから構築していかなければならないの。」


「……。」


「何?どうしたの?」


「いえ、俺が想像していたギルドとは違っていたので。」


「どこの街の冒険者ギルドと比較して、どう想像していたのかは知らないけど、アルデガンドのギルドは最高の生存率で最大限の利益を追求するのが理念なの。そこは理解してほしいわ。」


「わかりました。俺にその心得を教えてください。」


「いい返事ね。でも、あまり調子に乗らないでね。」


「はい。……でもまずは何をすれば…?」


「そうね。さっきも言ったけど、まずは拠点とする宿屋を決めて。そしてそれを報告して。依頼の受注はそれからよ。あと最初は採取依頼しかできないから。そして優遇なんてしないから。」


「わかりました。」


 俺の返事を聞いて、ヘレイナさんの表情が柔らかくなった。


「素直な坊やね。宿屋が決まったら報告してね。その時に今回の事件解決への協力報酬を出すから。」


「俺、何もしてませんけど。」


「…囮も命を懸けた立派な協力よ。それに対して無報酬なんてやったらギルドの信頼に関わるわ。」


「…は、はあ。」


 俺は表紙の抜けた返事をした。その後は、お姉さんに小部屋を追い出されてしまい、ギルド会館を後にする。掃除のおばさんにもお礼を言いたかったけれど、既にいなくなっており、ここには用事もない。


「ハウル!宿屋を探しに行こう!」


 空気を全く読まないグレムがまた元気に次の行動を示しているが、さっきの事件の整理が終わってないのでいまいち乗り気になれなかった。


「何言ってんの!そんなのは夜にベッドの上で考えればいいんだよ!」


 俺はグレムの押しに負け、宿屋を探すことにした。大通りを宿屋街のほうへ移動しながら、俺は良い宿屋の条件を考えた。


 俺の考える良い宿屋は…


1.安い

2.美味い

3.看板娘がいる

4.宿泊客に美人冒険者がいる


 俺はこの条件に合う宿屋を求めて、片っ端から訪ねて回った。多少部屋が汚くてもいい!俺はいろんな期待を込めて宿屋を探し、やがて薄汚れた通りへと進んでしまっていた。


「ハウル…戻った方がいいよ。なんかこの通り汚いよ。」


 ん?…そうだな。多少汚くてもいいとは言ったが、これは我慢できる範囲を超えている。それにさっきから左上のメッセージ君が警告メッセージを流していた。


“誰かからのスキル干渉を受けました。”


 何度も同じメッセージが流れている。どこからか俺の行動を監視しているようだ。


「グレム…ここって…貧民街なのか?」


 俺は気づいたことを口に出した。グレムはワザと怯えた表情で答えた。


「そ、そうだよ。早く帰ろうよ。」


 …そうだな。何かされないうちに離れた方がよさそうだ。そう感じて、元来た道を戻り始めたところだった。



“誰かからのスキル干渉を受けました。貴方の持ち物が相手に知られました。”


 これまでとは違う警告メッセージが聞こえた。俺はすぐにグレムに質問する。


「グレム、相手の持ち物を盗み見るスキルってあるのか?」


「…あるよ。ストレージの中までは見れないと思うけど。」


 俺は自分の持ち物を確認する。ストレージに入れてないものは…銀貨束と鉄板プレート。…ヤバい。金を持っていることがバレた。これは急ぐ必要がある。


「グレム!ダッシュで逃げるぞ!」


 俺はグレムの頭を掴み汚い通りを全速力で走った。元来た道の通りに道を曲がった。だが曲がってすぐのところで、俺は何かに躓き、豪快に転んだ。そしてその上に伸し掛かられて、俺は這いつくばった状態で身体を抑え込まれてしまった。


「ああ!だから言ったのに!」


 グレムが嘆く様な仕草で大げさに言うが、お前も言うの遅いと思うんだけど!


 ああ、ヤバい!これは銀貨束を取られて殺されるパターンだ!今回はちょっと死に戻りたくない!俺が悪かった!もう適当な宿屋でいいから!おいグレム!助けろよ!


「…なんで?」


 そうでした。貴様はアドバイザーでナビゲーターでリセッターででしかありませんでした。俺の命を助けると言う行動パターンはないんですよね!…あ、銀貨束を見つけられた!ああ!ヤバい!殺される!








“貴方は貧民街のチンピラに持ち物を奪われ、殺されました。”






 無情な左上のメッセージ君のメッセージが暗転した視界に流れ、俺の思考はまたもや停止した。




ハウル:ああ!せっかくテンプレクリアしたのに!

グレム:ちょっとは素直に行動して見たら?

ハウル:こんなに素直に俺は行動してるのに!?

グレム:(危険なトコに入り込んでるのも気づかないなんて・・・欲望に忠実すぎるんですよ)

ハウル:え!?何?何か言った?

グレム:・・・いえ、何も


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