0-5 褒美
ハウル:エルフって珍しいの?
グレム:う~ん・・・冒険者としては珍しいかな?
ハウル:でもあのお姉さん、職員さんだぞ?
グレム:え?けっこう強いよ?体格もいいし
ハウル:何でわかるの?
グレム:僕、【鑑定】と【透視】持ってるもん
ハウル:・・・【透視】の取得方法を教えてくれ!
グレム:・・・何に使うの?
ハウル:・・・・・・。
グレム:皆さん!ここに変態さんがいます!
右下には★‥とあり、死亡回数であることを確信した後、視界が開けた。
雲一つない青空と……何度も耳にこだました感想を経てゲーム開始。特別ガチャを回してグレムの表情にイラつきを覚えてからアルデガンドの街まで街道に沿って歩いて進み、途中で立ち往生している髭面商人を助けてご贔屓になることを約束して一晩過ごし、翌朝お金を貰ってバイバイ。ここから真っすぐ塔に向かって歩いて人の出入りの激しい建物に入って何となく視線を浴びるところまで来た。
問題はここから。
妖艶爆乳エルフに話しかけて冒険者登録するのは正しい道筋だが、その過程において何かが不足しているため、前回はそのまま外に連れて行かれてスイカ割の刑だった。あるいは外に連れて行かれた後のフラグ不足なのかもしれない。
俺は何かヒントが無いものかとカウンターへ向かう前に辺りを見回した。一番暗がりのところにいる四人組が俺を死に戻りさせる脳筋モブ。他にはカウンター越しに受付のお姉さんが3人。他には俺をチラチラ見て値踏みをしている冒険者風が4人。ここは手当たり次第に話しかけるのがベストと思い、まずは冒険者風の方へ足を運んだ。
「あ、そっちは危険だと思うよ。」
1歩踏み出しただけでグレムの間違ってるコールが出た。しかも死に戻り臭がプンプンする単語。死ぬのは構わないが何の手がかりもなく死に戻るのは避けたい。という訳でしぶしぶカウンターにお姉さんに話しかけてみることに。
「すいません、冒険者登録をしたいのですが。」
まずは一番近いところにいた猫耳のお姉さんに話しかけた。だがお姉さんは笑顔でテーブルに置かれた木の板を指さした。
“買取カウンター”
木の板に書かれた文字が、お前の来るところでない、を示している。
「…し、失礼しました。」
俺はそそくさと撤退した。ちくしょう。勇気を出して声を掛けたのに、無言で追い返された。いつかあの耳をモフモフしてやる。次だ。
「すいません、冒険者登録をしたいのですが。」
俺は隣の年配お姉さんに話しかけた。年配お姉さんは俺の容姿を上から舐めるように見て、
「坊や、ここにこるのは初めてかい?まずは一番奥のヘレイナって娘に声かけな。」
と奥の方を指さされた。どうやらここも違うカウンターらしい。見ると“依頼受付カウンター”と書いてあった。…無念。
冒険者風は死亡臭。カウンター娘はヘレイナ以外会話終了。後は、脳筋モブとお掃除おばさん、2階に通じる階段下の兵士くらい。
よし、登録作業後にフラグがあることを期待しよう。俺は妖艶エルフに話しかけた。
「坊や…こんなところに何の用かしら?」
前と同じく妖艶な口調で話しかけられ、前に経験しているから大丈夫と想いつつもその香り、艶、眼、声、あらゆる刺激が俺に降りかかり、俺は更に年上好きのほうにベクトルが動き、加速度的に煩悩が駆け巡ったかと思うとうっかりテーブルにもたれ掛る2つのマシュマロにまたもや視線を移してしまい、一体服の中でどのような状態になっているの想像し始めると、やはり姿勢は前かがみに
「お姉さんの話聞いてる?」
「あ!は、はい。あの…冒険者に…なりたくて」
…このくだりだけは何回でも…いい。
何とか羊皮紙に記入してプレートと一緒に手を握ってもらったあと、お姉さんが退出する。と同時に脳筋モブが近寄ってくる。
「小僧。誰の許可貰って俺のヘレイナに近づいてんだぁ?」
脳筋は前と同じセリフで俺に絡んできた。
「すいません、先に言ってもらえれば。次回からはそうします。」
「てめぇ、オレ様を馬鹿にしてんのか?」
何となく、ここはどう応えても『脳筋冒険者を馬鹿にしている』判定に掛かるようになってる気がする。そして案の定仲間の脳筋に囲まれて裏口から外に出され、小屋へと連れて行かれた。俺は素早く落ちている棍棒の上に立った。これで棍棒は使えないはずだ。…と思っていたら、仲間の一人が弓を構えていた。
「おい、一発で仕留めろよ。」
脳筋リーダーがニヤニヤしながら言った。次の瞬間俺は腹に激痛を覚えた。見ると矢が突き刺さっていた。
「おいおい…どこ狙ってんだ?」
「狙い通りっすよ。毒塗ってあるんでね。でも効果がわからないんでさ。ちょうどいいでしょ?」
俺は痛みに耐え兼ね両膝をついた。矢を射った男が近づき腹に刺さった矢を強引に抜いた。俺はその勢いで後ろに仰け反って倒れた。
ヤバい。手足がしびれてる。一体何の毒だ?…い、いやそれよりも痛い。苦しい。ダメだ、何かが込み上げてくる。
「ガハッ!!」
俺は仰向けのまま血を吐いた。吐いた血が俺の顔に掛かり視界を失った。目に入った血を拭うこともできない。痛いのに。苦しいのに。思考だけがはっきりしている。
「おお、いい感じだね。何の毒だ?」
「そうだな…モヒネ草の血管破壊毒のようだ。」
脳筋モブ達は俺の周りに集まり楽しそうに見物してる。…だめだ、声も聴こえなくなった。息苦しい。早く死んでくれ。腹の痛みもひでえ。声が出ない。
「ねえ、苦しい?苦しそうだね。でもこれは冒険者になるための試練だから、どうにかして回避しないと。…ああ、もうそろそろ死んじゃうかな?」
そんな言葉を最後に俺の視界はやっと暗転してくれた。
一応、右下は★∴となっている事だけは確認した。
死ぬときは極力即死を選びましょう。じわじわ系は絶対トラウマになります。
視界が開けた後、俺は暫く考え込んだ。
暗転間際に聞いた声はグレムだった。アイツはぼやかしてはいるが嘘は言わない。つまり、このテンプレイベントを回避する方法がどこかにあるということだ。そしてあの言い方だと『小屋に入れられるのを回避する』か『外に連れ出されるのを回避する』という意味なんだろう。要は連れ出されたら死亡確定。それまでに回避フラグを立てておく必要があるってことだ。ではそのフラグはいったいどこに…?
俺は自分の知識の中の冒険者登録あるあるからいろいろと想定してみた。
まずは、あの妖艶エルフのお姉さん。…ヘレイナって名だったか。あのお姉さんとの会話の中でフラグを立たせる。…でもあの会話の中では別のところが立ってんだが…い、いや何でもない。
次にいまだ未登場のギルドマスター。いくつかのラノベで主人公が絡まれた時にギルマスが登場して蹴散らすみたいなのがある。となるとあの2階に通じる階段に立ってる兵士が怪しい。
後は、ライバルの登場。よく最初にライバルに助けてもらって、その男を目指して強くなる的なストーリーがある。あの中にはそんな雰囲気の冒険者はいなかったから、外から入って来る的な登場なんだろうか。その場合は、お姉さんに話しかけるタイミングをずらしたらどうだろうか。
よし。まずは、冒険者登録をせずにしばらく様子をみる。そして兵士に話しかける。で妖艶エルフにいろいろ試してみる。…これで行こう。
雲一つない青空と……何度も耳にこだました感想を経てゲーム開始。特別ガチャを回してグレムの表情にイラつきを覚えてからアルデガンドの街まで街道に沿って歩いて進み、途中で立ち往生している髭面商人を助けてご贔屓になることを約束して一晩過ごし、翌朝お金を貰ってバイバイ。ここから真っすぐ塔に向かって歩いて人の出入りの激しい建物に入って何となく視線を浴びる…。よし、このまま暫く待機だ。俺は空いているテーブルに向かい、椅子に腰かけた。
「…ねえハウル。冒険者登録…しないの?」
なん…だと?
グレムは冒険者登録するように言いやがった。つまり、ここで誰かが入ってくるという行動は誤ルート。となると時間をずらしてライバル出現的な話しは消えた。…いや、何かフラグを立てれば途中でライバル出現て可能性もある。よし次の行動だ。
俺は椅子から立ち上がり2階へ上がる階段に近づいた。そして2階に上がろうとしたところでその兵士に止められた。
「何だ貴様?」
「え……と、階段を昇ろうかと。」
「知らんのか?これより先は上級以上の冒険やじゃなければ入れん。」
男は階段の前に仁王立ちになり、帰れと言わんばかりに俺を睨み付けた。
くそ…そうなのか。と言うことは、ここから誰か降りてこないと俺は会えないのか。
「すいません、知りませんでした。あ、あの、ギルドマスターにお会いしたいのですが。」
「あ?ギルドマスターに何の用だ?」
「えと、冒険者登録についてお伺いしたいことが…。」
「冒険者登録のことならば、カウンターにいるヘレイナ嬢に聞けばよい。それに、ギルドマスターは今はここには居られん。」
おっと。そうなるとギルマスがここから登場というパターンはないか。仕方がない。爆乳エルフに話しかけるか。俺は脳筋モブ集団を大きく迂回して妖艶爆乳エルフに話しかけた。
「坊や…こんなところに何の用かしら?」
3回目ともなると多少心に余裕ができてくる。このお姉さん、俺の事なんか全然眼中にないわ。ただふれあい系スキンシップが好きなだけで、むしろ私に色目を使っても無駄よ的な雰囲気がある。それでいて無防備な男を拐かす特技を無意識発動させている。こう見えても俺は学校で友達が少ないせいもあって人物観察に長けているから
「お姉さんの話聞いてる?」
「あ!は、はい。あの…冒険者に…なりたくて」
そこからは淡々と話を進め、羊皮紙に記入してプレートと一緒に手を握ってもらったあと、お姉さんが立ち上がり退出しようとした。
「あ…ま、待って。」
俺が慌てて呼び止めると爆乳エルフは優雅に振り返った。
「なあに?」
「あ、あ、あのお姉さんのことを、な、何て呼べばいいですか?」
俺の質問に彼女はフフフと笑い、大きな胸を揺らした。そして俺の鼻に指を近づけ、コツンと弾いた。
「そういうのは、私の“専属”になってから言いなさい。」
……なんだそれは?新しい単語だ。俺はすばやく喰いついた。
「専属…てなんですか?」
「冒険者ギルドではね、優秀な冒険者に優先的に良い依頼を斡旋できるよう“専属契約”という制度があるの。専属となった受付担当はその冒険者の実力に見合う依頼を常に提供する。冒険者はその依頼で得た収益の一部を受付に支払う。そうやって効率よく依頼を消化させるのよ。」
それって…癒着とか裏取引とか言うんじゃないだろうか。…いや、制度化してオープンにすることで不正を防ぐことが目的か。
「どうすれば専属契約結べるんですか?」
「フフ…。まずは中級以上にならないとね。それから専属にする優位性を示してもらわないと。…じゃ、プレートを確認してくるから。」
そう言ってお姉さんは再び立ち上がった。
「じゃ、せいぜいお姉さんに実力を示してね。」
お姉さんは色っぽく言葉を吐いて奥へと言ってしまった。新しい情報を手に入れたが、その内容と過程が非常にまずかった。会話を全て聞かれているので、後ろに控える脳筋モブ達はおかんむりだ。見るとグレムがわくわくした目で俺を見ていた。…コイツはこの後の俺の運命を絶対知ってるわ。
そして俺は背中からナイフを思いっきり刺された。激痛があったが、直ぐに暗転した。
右下は★::となっていた。
あいつ…爆乳エルフ教の狂信者だ。ああやって毎日あそこでお姉さんに話しかけるひ弱な冒険者を襲ってるんだ。そうに違いない。じゃなきゃあんなところでいきなり人を襲ったりしない。…くっそ。あの脳筋モブもとい狂信モブをどうやって回避するんだ?
俺は次はどう攻めるか考えながらゲームを開始して特別ガチャを回した。
【ちゅうとりある】
【聖剣:王者の剣】
【聖鎧:王者の鎧】
となった。
俺はグレムを見た。流石のグレムを引いてた。てことはかなりのレアだ。
【王者の剣】は全ステータス50%上昇し、攻撃時には相手の弱点属性での追加ダメージを与えられるシロモノ。そして【勇者の号】というスキルを持ってないと装備できない。
【王者の鎧】は全属性攻撃を50%カットし追加ダメージの無効化と弱体化攻撃の無効化まで付いているシロモノ。もちろん【勇者の号】がないと装備できない。
…もったいない。これがあればいきなりチートだ。でも装備できない。でももしかしたらあっさり【勇者の号】を取得できるかもしれない。…問題は、今ハマってると言うことだ。あの狂信モブをどうにかしないとせっかくの超激レアアイテムも失ってしまう…。
しかし、グレムのお蔭でいい情報を得たぞ。コイツはガチャの当たりを操作できない。さっきの表情が証拠だ。ここはなんとしても先に進まねば!
と思っていたけど無理でした。
アルデガンドの街まで街道に沿って歩いて進み、途中で立ち往生している髭面商人を助けてご贔屓になることを約束して一晩過ごし、翌朝お金を貰ってバイバイ。ここから真っすぐ塔に向かって歩いて人の出入りの激しい建物に入って何となく視線を浴び、妖艶爆乳エルフに話しかけて鉄板プレートを作ってもらい席を離れるのを何とか食い止めようとあれこれ手を尽くしたが逆にプンスカ怒らせてしまい、さっさとカウンターの奥へ行っちゃって…その後はご想像にお任せします。
ああ~…。俺の【王者の剣】が~……。たぶんあれは二度とお目にかかることはないでしょう。ちくしょう…このイベントの攻略法が全然わからん!
暗転した視界の右下が★★になっていることを確認して、俺はため息をついた。
ぱらぱぱぱ~ん。
“死亡回数が10回になりました。貴方が所有する固有能力【褒美のガチャ】が発動します。”
……なにそれ?
ハウル:はぁ~【王者の剣】・・・欲しかったなぁ・・・
グレム:【王者の剣】と【透視】とどっちが欲しい?
ハウル:・・・・・・。
グレム:皆さん!やっぱりここに変態さんがいます!!
ハウル:ふふふ。お前の声は俺にしか聞こえない。いくら大声を出しても誰にも聞こえないさ
グレム:大丈夫!僕は自分の意思で実体化もできるから!
ハウル:ちょ!