1-1 依頼
長らく更新が止まっておりましたが、ようやく執筆再開です。
読んで頂けると幸いです。
ハウル:まだヒロイン出てねえな。
グレム:ひろいん?
ハウル:あ、お前じゃないから。
グレム:僕、ひろいんなのか・・・!
ハウル:いや、違うって言ってるし。
グレム:で、なにをひろうの?
ハウル:(怒)
……全く散々な目に会ったと俺は思う。
いきなりゲームが始まり状況も仕様もわからないまま冒険者登録を目指して物語が進められた。
俺のゲームのやり方と合わないのか、ちょっと脇道にそれただけでバッドエンドを迎える仕様になっており…かなりやり辛い。特にこの全身毛むくじゃらでパッと見は愛らしい妖精(導きの妖精というらしい)が俺の行動を監視するかのようなキャラで、コイツのお蔭で死んだ回数も多い。
「ハウル!早く冒険者ギルドに行って報告しなきゃ!早く!!」
…こんなふうに休む間もなく次の行動を俺に要求する。
少しは休みたい。…いや寝ても次の瞬間には起きて時間経過しているから、休んでも休んだ気にならないのだが。それでもぼうっとして頭を休めたいと思う。
「早くエルフのお姉さんに報告に行こうよ!ねえ!ねえ!」
だが、このクソ相棒はそれを許すまじと次の行動をせがんでくる。こいつのせいで俺の舌打ちの回数は飛躍的に増加していることは確実だ。
昼飯の時間まではまだ十分あるので、俺は冒険者ギルドへと向かった。カウンターでは、ヘレイナ姉さんがお色気ムンムンで若い冒険者の応対をしていたので、それが終わるのを待ってから声を掛けた。
「あら、坊や。宿屋と契約は終わったのかしら?」
ヘレイナ姉さんは見せかけのモーションで俺を誘う様な仕草を見せてきたが、既に俺は動じない。…はずだったが余りある元気を持つ俺の一部分は、やはり俺を前かがみにさせた。わかっていてもこの爆乳エルフの身体は俺の想像力を豊かにさせる。
「はい、『アーブットの宿』と契約しました。」
「へえ…何日契約したの?」
「一先ず10日間です。」
「手ぶらで村を追い出されたって割には日数長いじゃない?…お金はどうしたの?」
「実は…」
俺は、街に入るまでの経緯を説明した。ヘレイナ姉さんは妖艶な笑みを見せていたが、真剣に聞いてくれていたようで、俺の話を聞いて忠告をしてくれた。
「商人は利がないと見なすと、手を引くのが早いからね。しっかり存在感を示しなさいよ。」
要はギルドに貢献していることをアピールしろってことか。そのためには、コンスタントに依頼をこなす必要があるんだろうな。
「ヘレイナさん、“依頼”について説明してくれませんか。」
俺の真面目そうな態度に嬉しそうな微笑みを見せ、ヘレイナ姉さんは依頼の説明をしてくれた。
ギルドの“依頼”は2つに大別される。
1つは“採取”。薬草や香木など、自然の素材を採取するモノや、魔物を殺してその皮や肉、内臓などの素材を採取するモノがある。ギルドが主体として常時依頼が出されている素材と特定の人物が必要に応じて依頼するとあり、採取された素材は街の職人や商人に安く提供され街に潤いをもたらしている。
もう1つは“討伐”。これは領主、もしくはギルドが出す依頼で、そのほとんどが魔物の習性で定期的に発生する魔物の間引きになる。ゴブリンや、オーク、ウルフ系の魔物討伐は比較的短周期で依頼が出される。偶に、個々でで突発的に発生したはぐれモノの討伐なんかもあるらしい。
「…坊やはまだ“鉄板”級(見習い)冒険者だから、討伐依頼を受けることはできないから。最初は近場でできる採取をしっかりやってね。」
ヘレイナ姉さんは入り口の左右に張り出された依頼掲示板の左側を指さした。右側が討伐依頼で、左側が採取依頼らしい。
「どうする?最初は香木の採取をこなして周辺地形の把握するのが常套よ。」
ヘレイナさんのお勧めに、俺は肩に乗るグレムを見た。俺の行動指針はグレムの反応を見ないと決定できないからな。
「ん?どうしたのハウル?早速依頼を受けようよ!」
グレムの示す次の行動は“依頼を受ける”のようだ。俺はしばし考える。そして決断する。
「ヘレイナさん、ありがとう。まずは支度を整えるよ。」
「え!?見習い冒険者でも簡単な採取は手ぶらでもできるわよ。」
うん、そうだと思う。だけど俺は慎重派なんだ。ちゃんと装備を整えたい。
「え~!?依頼を受けようよ!」
よし、グレムが何か言ってる。これは無視し続けると落雷を受ける系だ。…でも構わない。だって死んでもセーブポイントに戻れる。つまり、すぐここまで戻って来れる。今の内に街中を見ておく方が有利だ。あの髭面商人の店にも行って見たい。
俺はヘレイナさんにお礼を言って、ギルド会館の外に出た。直ぐ近くに塔があるので、その真下まで行く。ここを中心に大通りが伸びていて、俺は4方向を順番に見た。ちょうど俺達がやって来た城門がある通りの上に日が昇っているのでこの通りを東通り(仮)と呼ぶ。ギルド会館は東通りの一番塔寄りの位置にあり、建物の大きさも一番ある。そこから城門に向かって大きな建物が並んでいる。たぶん有力商人の店が並んでいる感じだな。北通り(仮)は宿屋が多く並んでいるが、俺の泊っている『アーブットの宿』はそこから2本西側に通りを入ったところ。恐らく大通りに近ければ近い程宿ランクが上がる感じだ。更にその奥…北西の方角は街並みも崩れていき、貧民街へと繋がっている。で、南通り(仮)には小さな店がたくさん見えた。見習い冒険者の俺が行く方向はこっちか。俺は南に向かって大通りを歩き始めた。
「ハウル~!依頼!依頼を受けてみようよ!1つじゃ心細いから2つくらい受けて~。」
うるさいな。後から受けるから。
俺はグレムを適当にモフモフして宥め、手前の店から店内に入った。
「…いらっしゃい。」
最初の店の男は俺を胡散臭そうに睨んだ。まあ、冒険者登録したての16歳では、そう見られても仕方がないが。
店内は皮製のアイテムがずらりと並んでいた。靴、ズボン、上着、マント、リュック…。俺は店内をぐるりと見渡したが、どの商品にも値札が付いておらず、見るだけでは値段の把握ができなかった。俺はいくつか見回り、肩からたすき掛けするようなバッグを手に取った。
「小僧…それを買う気か?」
店の男が脅すような声で俺に話しかけた。見れば睨み付けるような目で俺を見ている。
「いくらですか?」
「銀貨3枚だ。」
「…高いですね。」
宿屋に1泊銀貨1枚で泊まれるのに、こんな皮のバッグが3枚と言うのは高すぎる。
「だったら帰んな。」
店の主人はそっけない態度で返答し、俺にバッグを置くよう目で脅した。…あきらかに俺を客として見ていなかった。俺はポケットから鉄板プレートを取り出した。
「…俺は冒険者なんだけど?」
店の主人は俺の取り出したプレートを見て鼻で笑った。
「ふ…だから?見習い風情で俺の店と取引しようという気か?貴様なんぞに売るような商品はここにはねえ。早く帰って母ちゃんのおっぱいでも吸ってな。」
俺はこのプレートでは全く効果が期待できないことを1件目で理解し、店を出た。
「だから先に“依頼”を受けようって言ってるのに!」
俺の側でグレムがぷりぷり怒っていた。
「…この街じゃ、見習い冒険者に対してはこんな感じなのか?」
「知らない。そんなことより依頼!」
また依頼か…しつこいな。俺はグレムの忠告は無視し、次の店に入った。…そして次の店、次の店と入っては追い出され、入っては追い出されを繰り返した。だが、めげずに俺は店を回る。そしてそのうちにあることに気づいた。
街の中心から遠ざかるほどに店の質が下がっている…気がする。考えてみればそうか。人通りの多い場所の方が商売も繁盛しやすい。つまり、この街の中心である塔に近いところに店を構える商人の方が、名のある商人なのだろう。と言うことは一番南の奥から順々に見て回った方が早いはず。俺は走って大通りを南へと向かった。
だが、気付くとグレムが俺の前に立ちはだかっていた。……やばい。このシチュエーション前にもあった。後ろに残して来たと思ったのにグレムはいつの間にか正面で俺が来るのを待ち構えていた。そしてその後血が沸騰する落雷を浴びている。
「や、やあ…グレム…。」
「…。どうして“依頼”を受けないの?」
目が怒ってる。そしてその理由がわからない。恐らく先に依頼を受けることで発生するイベントがあるんだろうが…それって重要なのか?ヤバい!クソ妖精が両手を挙げた…。
「冒険者なら冒険者らしく行動しろーーー!」
「あばばばばばば!」
……。
今一つ、このクソ妖精の行動理念が見えない。
重要イベントに遭遇できなかった場合、その先には死亡フラグしかない場合、で殺されるのはわかっている。だが、どこにどういう風に重要イベントが用意されてるか全くわからん。これって初見殺しの無理ゲーなんじゃねえか?…あ、メッセージ?
“どこからやり直しますか?”
“1.最初から”
“2.セーブポイントから”
なるほど。選択できるのか。だが、最初からなんてもうおご免だ。俺は迷わずセーブポイントを選択した。次の瞬間、急に視界が開け、ベッドに突っ伏した状態で俺の意識が戻った。…確かにセーブポイント作った時はこんな格好してたっけ。
「やった!セーブポントができたって!ハウル良かったね!……で、セーブポントって何?」
すぐ側でクソ妖精がはしゃいでる。…そういえば、こいつが勝手にポチって押しやがったんだ。思い出すとムカムカしてきた。…まて、この先俺は死に戻りする度にこいつの「で、セーブポントって何?」を聞く破目になるのか!
俺はギロリとクソ妖精を睨み付けた。グレムは動じた様子も見せず「なに?」って顔を返している。
「じゃあハウル!早く冒険者ギルドに行って報告しなきゃ!早く!」
既にグレムは次の行動をせがんできた。ムカムカしている俺は、グレムのことは完全に無視して、部屋を出た。「ギルド!ギルド!」と楽しそうに連呼しながらグレムはついて来るが、俺はその声が聞こえないふりをして、南通り(仮)へと向かった。
「あ!どうして!?そっちはギルドじゃないよ!」
クソ妖精が案の定噛みついてきたが、俺は無視をして南通り(仮)をズンズン歩いて行った。そして、半分ほど来た辺りで俺の進行方向にグレムが怒りの表情で浮いているのを発見した。
「…。どうして“依頼”を受けないの?」
俺はグレムの行動を考え直した。ゲームバランスを考慮して行動制限を掛けるのはわかるが、正しい道筋以外を徹底して排除するようなやり方がどうも理解できない。
「グレムは何故…俺の行動を邪魔する?」
「それは、君の取った行動が道筋から外れてるからだ。」
「多少外れても問題ないのではないか?」
「英雄への道は狭き門!…少しでも外れることは許されない。」
「だが、ここまで制限するとゲームとしては全然面白くないぞ。」
「…君の言ってる意味がよくわからないが、僕は君を英雄へと導く為にこの世界に顕現している!」
「お前こそ何を言ってる?プレーヤーが楽しめてこそゲームだ。」
「全く意味わかんない!君はこの大陸を救う運命だよ!それを受け入れ、僕と共に正しき道筋を歩むべきなのだ!」
グレムが両手を挙げた。次の瞬間には【死の落雷】でジ・エンド。だが、俺にも意地がある。
「…お前が俺の奴隷ではないように、俺もお前の奴隷ではない。…気に入らなければ反抗するし、サボタージュもする。それでも俺を英雄へと導くつもりか?」
「…君が最後の希望なのだ!」
「…たかがゲームだろ?」
「一体何を言ってる?この世界が僕の中では唯一無二だ。」
おかしい。ゲームの話にすると途端に話がかみ合わなくなる。まるで、クソ翻訳機と会話しているみたいだ。だが、これだけは確信して言える。
「道を踏み外せば、俺を殺してやり直させる。お前は俺の過去の足取りを覚えてるだろ?」
「……。」
グレムは答えななかった。そのかわり、落雷が俺を貫いた。余りにも一瞬過ぎて、痛みを感じる間もなく俺の視界は暗転した。
…どうもおかしい。
ゲームの設定として、アイツの存在は違和感がある。左上のメッセージ君は、ちゃんとメッセージの中で「ゲーム」という言葉を使っていたのに、グレムは一切使わない。…どう言やいんだろ?アイツはゲームの進行役みたいに考えていたのだが……完全にこの世界の住人、つまりゲームキャラとして登場している。そのくせ、【死の落雷】という死に戻りをさせるスキルを持っていて、俺が正しい道筋で行動するよう制限を掛けてくる。どちらかに寄せて欲しいと思う。…ああ、またベッドの上からか。…グレムが俺を睨んでるわ。
「やったぁ…セーブポントができたって…へえーハウル良かったね……で、セーブポントって何?」
何その棒読み?明らかにさっきの感情を引きずってるその表情。それでいて死に戻りの記憶は知らんぷりかい?
俺はグレムを睨み付けた。グレムもずっと俺を睨み付けている。…はっきりって信頼関係は最悪だった。いや、ゲームキャラ相手に信頼関係とか考えるのもおかしい気がするが、明らかにコイツは俺に対して不信感を持って接していた。
くそっ…。一旦頭を冷やしたい。休憩したい。既に何十時間もゲームを続けている。未だにログアウト方法がわからん。
…ひょっとして、クリアするまで戻れない系?
そうだとしたらグレムの「運命」という言葉も意味がある。いや、そうに違いない。おのれクソ運営!こうなったら絶対クリアしてこのクソゲーのクソ具合を拡散させてやる!
「グレム、ギルドへ行くぞ!ヘレイナさんに宿屋の報告をして、依頼を受けるぞ!」
グレムの表情が変化した。怒りに目をつり上げていたのに、一瞬呆けた表情をして、次に笑顔を見せた。
「やったぁ!」
さっきまで怒っていたのにご機嫌の仕草で俺の肩に乗った。…別にお前となれあう訳じゃないんだがな。気良くしてくれるんだったら何も言わん。俺はグレムの頭をポンポンと叩いてギルド会館へと向かった。
ギルド会館のカウンターでは、ヘレイナ姉さんがお色気ムンムンで冒険者の応対をしていた。前々回と同じ光景で、俺はそれが終わるのを待ってから声を掛けた。
「あら、坊や。宿屋と契約は終わったのかしら?」
「はい、『アーブットの宿』と契約しました。」
「へえ…何日契約したの?」
「一先ず10日間です。」
「手ぶらで村を追い出されたって割には日数長いじゃない?…お金はどうしたの?」
「実は…」
俺は街に入るまでの経緯を説明して、お姉さんの忠告を受けて、“依頼”についての説明をしてもらった。
「…坊やはまだ“鉄板”級(見習い)冒険者だから、討伐依頼を受けることはできないから。最初は近場でできる採取をしっかりやってね。」
俺はヘレイナさんの指さしたギルドの入り口左側の掲示板に迷わず向かって行った。張り出された依頼書を見ながらグレムに話しかける。
「どれを受けたらいい?」
「2つ受けてみようよ!」
「…俺の質問に答えてくれ。依頼は適当に選んでいいのか?」
「わかんない!…でもお姉さんの話をもうちょっと聞いて見ないと…。」
ちっ…。ヘレイナさんとの会話がまだ残っていたのか。
俺は素早くカウンターへと戻る。
「んもう、話の途中でさっさといっちゃって…。」
「すいません、どんな依頼があるのか見て見たくて…。最初は何を受けたらいいですか?」
「最初はやっぱり香木集めよね。」
「香木?」
「西門から出てすぐの森はね、適度な環境を保った場所が幾つもあってね。香木として変化した枯れ木が数多くあるのよ。…まあ、香木によって品質は様々だけどね。用途も多いからギルドから常時依頼を出してるの。最初はそれね。」
「なるほど。わかりました、それを受けます。」
「じゃあ、プレートを出して。受注の書き込みをするわ。」
俺がプレートを取り出すと、ワザとらしく手に触れてプレートを受け取り、カウンターの下でごそごそして俺に返してきた。
「一応確認してみて。」
俺はプレートを握りしめて確認する。
【ハウリングス】
種族:ヒト族
年齢:16歳
性別:男
職業:冒険者(見習い級)
LV:1
取得能力:【体力強化.9】
【双剣術】
【気配察知.1】
受注依頼:香木の採取
「はい、大丈夫です。」
俺は受注依頼に書き込まれた内容を確認して笑みを返した。そしてヘレイナさんにお辞儀をして出て行こうとした。
「あ!ちょ、ちょっと!坊や…何か得物は持ってるの?」
「え?」
「んもう…素手で香木を取る気?」
俺はグレムを見た。グレムはにんまり笑ってる。つまり、道筋は間違ってない。でも得物もない。どうしたらいいのかとお姉さんを見つめていたら、ため息をつかれた。
「はぁ…。ちょっと待って…はい、これ、貸してあげる。」
お姉さんはため息をついて言いながら、ポケットからナイフを取り出し俺に渡した。皮の鞘に納められた年季の入ったナイフだった。俺はグリップの部分を握り鞘から出してみる。随分と刃の短いナイフだった。グリップより短い。俺はその形にバランスの悪さを感じ、お姉さんを顧みた。
「ん~やっぱりおかしいと思った?…実はね、このナイフお姉さんが初めて手に入れた得物で…ずっと大事に使ってたの。何度も何度も歯を研いでいるうちにね、こんなになっちゃったの。」
「あ、あの!そんな大事な物なんて!」
俺は慌てて返そうとしたがヘレイナさんは俺の手を優しく握りしめて押し返した。
「あげるとは言ってないわ。自分の得物を手に入れたら…返してちょうだい。」
結局、俺はお姉さんに押し切られナイフを貸してもらった。グレムは俺に対して満面の笑み。つまり、このナイフを貰うイベントを発生させるために、「依頼を受けろ」と言っていたようだった。
だが、俺はヘレイナさんに両手を握りしめられ舞い上がっていたのかも知れない。
グレムは言っていたのだ。
“2つ受けてみようよ!”
俺はそのことを失念して、ギルド会館を出て西門へと向かってしまったのだった。
ハウル:依頼って複数受けられるんだな。
グレム:そうだよ。多くの冒険者がやってるよ!
ハウル:…なんでそれを言わねえの!?
グレム:だって聞かれなかったし。
ハウル:…そうだね、そうでしたね!(怒)