星に愛されたもの
――君を連れ去ってしまいたい。
遥か銀河の向こうまで。
夜空を駆けるその人は僕にそう言った。
でも僕は彼の手を握らなかった。…ううん、握れなかった。
この星を出るなんて、考えることさえ許されない。
僕はこの星の一部で、星を支えるもの。
外の世界に行ってみたいと…思うことはあるけれど。
「ルイチオルド様、皆様がお見えです」
出窓を閉め、扉に向かって体を向ける。
観音開きの扉の向こうには、四人の星の守護者たちが控えていた。
皆、恭しく僕に頭を垂れて跪く。
「《星に愛されたもの》にお会いでき、我々は光栄の極みでございます」
用意されたドレスも、最初は気慣れなかったけれど。
今では普段着のように感じている。
星の守護者で唯一僕と口をきくことを許されている《赤き星の光》と呼ばれるリヴィルは、澄んだ瞳で僕に笑いかけた。
「我々が来るべき時に備えて、お傍に控えることをお許しください」
僕は返答もせず、柔らかな笑顔をたたえたまま、彼らの誓いのお辞儀を見守った。
これが儀式。
《星に愛されたもの》として新しい星の守護者と契約するものだ。
《黒き嵐》という星を食う正体不明の敵と戦うために、この星の誕生からずっと行ってきた。
どうして星を食うのか分からない。
しかし星を食われたせいで、故郷を失った移住民がこの銀河中に多数いることは事実。
僕はこの星の主エネルギーたる《星に愛されたもの》として、星を管理する。
メカニズムは分からない。だが、僕はその為にこの星に生まれて、この城の特別な部屋に住んでいる。
「ルイチオルド様、如何なされましたか」
執事が僕の様子をうかがう。
星の守護者が部屋を出て行っても、出窓を眺めたまま…ぼうっとした僕を怪訝に思ったのだろう。
心は揺れ動いていない。
僕はこの星の為に生き、この星を捨てることは絶対できない。
でも――あの声が、耳から離れない。
『君を連れ去ってしまいたい。』
『遥か銀河の向こうまで。』
僕を連れ去ったら、僕は何処へ行けるのだろう。
「なんでもありません。今日は空が綺麗だから」
急に出窓からやってきて、黒い影を引きずって、僕の手を優しく握ったあの人。
もう一度現れて、手を握られたら。
僕は逃げないかもしれない。
出窓から離れる。でも、
―――鍵は、開けたままで。