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2人で歩んだ、人生

作者: 水那月

「眞子。驚かないで聞いてくれ。俺はあと1週間以内に死ぬらしい。」

彼はそう言いながら悲しそうにしかし、笑いながらこちらを見つめていた。

「………拓真…なんで言ってくれなかったの?」

ボロボロと涙を流しながら聞く私に歩み寄り、そっと私の濡れた頬に手を当てながらゆっくりと話し始めた。

「だって、眞子は泣き虫だから教えたらさ、ほらこうやって大泣きするから……。」

頬に触れている手を動かし、涙を掬い取りながら彼は言った。

私は、ただただ小さく首を横に振ることしかできなかった。

「眞子。俺……癌なんだって。」

「ガ………ン…………」

「そう。癌。」

「まだ、助かるでしょ?手術とかで摘出を…」

そう言いよると、彼は力なく首を横に振った。

「それが……もう手遅れだって……。」

「そんな………じゃあ、拓真は………」

「うん。死んじゃうよ。だから眞子に逢いに来たんだ。」

「拓真……嫌だ…嫌だよ……。」

「………さぁ、俺なんかの為にもう泣かないで。」

そう言いながら彼は優しく私の頭を撫でた。

「お薬は………?進行を遅らせるくらいできるでしょ!?」

「飲んでないよ。」

「なん……で?」

「眞子にかっこ悪い姿見られたくないし。でも鎮痛剤みたいな薬はたまに飲んでるよ。」

「自分の……自分の体を優先して考えてよ…。」

「ちゃんと、考えてるよ。薬だって完全に治る薬じゃなくて、ただ単に進行を遅れさせるためだからね。先が短い俺が飲むのはもったいないしな。」

「入院とかしないの?」

「するよ。一応ね。」

「そっか……お見舞いに行くね。」

「ありがとう。大好きだよ眞子。愛してる。ずっとずっと離れたくない。」

「私も…私も拓真のこと大好き……私だって離れたくない……。」

彼は私の頭をいつもより少し強めの力で撫でて、帰っていった。

その日の彼の背中は、なぜだかいつもより小さく、弱く見えたのだった。

それから彼の入院生活が始まった。

やはり、薬を飲まないというのは大分辛いらしく、よく鎮痛剤を服用していた。

彼の病室へ行くたびに増えていく薬の量を見るたび私は泣きそうになった。

しかし、彼の前で泣いて余計な心配をかけたくないので、毎日こっそりと家で泣いていた。

そんなある日、彼の病室へ行くと彼はなぜか泣きじゃくっていた。

「!!拓真!どうしたの?何かあった?」

「眞子……もうすぐ俺………死んじゃうよ……。」

「まだ死なないよ。」

「まだ死にたくないよ…俺、もっと眞子と一緒に生きたかった。」

「………。」

「もっと眞子と一緒にいたかった…。もっと一緒にいろんなことしたかったし、いろんなとこ行きたかった……。」

「うん。そうだね……私も拓真とまだ一緒にいたい。だからさ、もっと一緒にいよ!?今よりもっともっといろんなこと話そ!?」

私は、泣きじゃくっている彼の手をそっと握りながら言った。

彼の泣きじゃくっている姿は初めてではないが、見るたびに心が重くなっていった。

まるで、心の上に彼が泣いている姿を見るたびに重りを1個また1個とのせていっているようであった。

彼が目の前で苦しんでいる、悲しんでいる。

私はそれを分かっていながら何もできなかった。

彼を助けることも、上手に励ますことも出来ないもどかしさが私の全身をいつの間にか包んでいた。

ただただ、彼が泣きやむのを手を握りながら待つのみの日々だった。

そんなある日彼がいきなり病室を出て屋上へ行こうと切り出した。

私は、彼が行きたいのならと賛成し、彼がベッドから起き上がるのを手伝おうとした。

しかし彼は私の差し伸べた手を無視し、一人で大変そうに立ち上がった。

その後も、私の力を借りようとせず、一人の力だけで屋上へ向かって行った。

そして、やっと屋上へ着くと彼は近くにあるベンチへと腰を下ろした。

「拓真……どうして頼ってくれないの?一人じゃ大変でしょ?」

「…………なぁ、眞子…………もう、終わりにしないか?」

いつもと違う少し真面目そうな彼の口から出た言葉を私は信じたくなかった。

「終わりに…………って…………」

「つまり、俺は眞子と別れたい………ってこと」

「そん…………な…………ねぇ拓真……嘘……だよね?」

「嘘じゃないよ。俺は眞子のこと嫌いになったんだ。だから別れよう。」

「…………………。拓真は本当に私のこと嫌いになっちゃったの?」

「…………そうだよ。」

「……あのね…私…拓真のこと好き………拓真が私のこと嫌いでも……私は拓真のことが好き………。本当だよ。だからね……別れるなんていやだよ。」

「…………。」

彼は、こちらを静かに、しかし悲しそうに睨んでいた。

私はそんな彼を見ながら話を続けた。

「あのね、拓真がね…くれたネックレス今も大切にしまってあってね……最近はずっとつけてるんだよ。拓真の前でしか使わないことにしてるんだよ………。私ね、拓真のお嫁さんになりたかった。このまま幸せでいられるって信じてた……。なのに拓真に癌が見つかって……私はどうしていいかすごく迷ったの………でも、拓真のこと好きだから……愛してるからずっと拓真が傍で笑っててくれるまで隣にいようって……考えててね……今まで……泣かないように……泣かない…ように………」

話の途中でボロボロと涙がこぼれ、嗚咽が止まらなくなった。

そんな私を見て、彼はさっきよりも悲しそうにこちらを見ていた。

そして、泣いている私の頭を撫でながら小さな声で話し出した。

「俺が……俺が死ぬとこ見せたくないんだ……。」

「………………。」

「ごめん。本当は俺だって……眞子のこと好きだし……愛してる………。でも今別れないと……辛くなるのは眞子だから………だからお願い………俺のこと忘れて……別れて………。」

「忘れるなんて……できない。別れたくも……ない。最後の時まで一緒にいたいの………。」

「眞子………。」

拓真は、涙で顔がぐしゃぐしゃの私の顔を見つめ、そして抱きしめてきた。

私は、拓真の背中に腕を回し、驚いた。

入院する前の彼より明らかにやせ細っている気がするのだ。

「拓真……大好き。私は拓真と別れたくない。」

「ごめん……ごめんな眞子……俺も…俺も眞子と別れたくないよ……。」

「ありがう。さあ、もう戻ろう?あんまり外にいると風邪ひいちゃうよ。」

そう言って、立ち上がり彼に手を差し伸べた。

彼はその手をそっと握って立ち上がった。

帰りは、行きのように自力でではなく2人で協力して病室まで戻った。

喉が渇いたと言うので、私は1階の自販機に飲み物を買いに向かった。

2人分の飲み物を買い、病室へ戻る手前の廊下で医師と看護師が彼の病室前で走っているのが目に入った。

私は、胸騒ぎがして急いで彼の病室へ行ってみると、彼を数人の看護師と医師が取り囲んでいた。

1人の看護師がこちらに気付き、私を呼んだ。

「あの、貴女は山田さんのご家族の方ですか?」

「彼女です……。なにかあったんですか?」

そう聞くと彼女は苦虫をつぶしたような顔をして「容体が急変したんです」と消え入りそうな声で言った。

私は、その場に買った飲み物を落とし彼のベッドのすぐ横まで駆け寄った。

「拓真!!拓真!死なないで!まだ逝かないで!置いてかないでよ!拓真!さっきまで…さっきまで…………。」

私は布団の中で苦しそうに酸素マスクを付けて眠っている彼の手を握りながら叫んだ。

医者が静止するのも聞かずに彼のそばで叫び続けた。

彼の体は苦しそうに上下に動くだけで、私には反応してくれていなかった。

暫くすると彼の目が開き、あたりを呆然と眺めていた。

そこに私がいないかのように…私に気付いていないかのように彼の眼は空中を泳ぎ、何かを必死に探しているようであった。

彼はマスクをつけたまま、か細い声で私の名前を呼んだ。

「眞子……どこにいるの眞子………。」

私はその問いかけになぜか少しの間反応できないでいた。

ただ、ただ彼を見つめるだけになってしまった。

しかし、私はハッと気付き彼の手を両手で強く握った。

「拓真!拓真!私は……私はここにいるよ……拓真のそばにずっといるよ!」

「………眞子……。今までありがとう。眞子に出会えてよかったよ………。一生俺の自慢の彼女だよ……。ごめんね………。」

「拓真!謝らないでよ!私だって……私だって拓真に出会えてよかった!私の自慢の彼氏だよ!だから謝らないでよ!」

「………。」

拓真は泣きそうな顔で弱々しく笑うと、私の顔の横にそっと手を添えた。

「………眞子………ごめ……ね…………ばいば―――。」

添えられていた彼の手が静かにベッドへ落ちた。

まるで眠っているかのように静かに息をしなくなった彼に向かって私は涙を流しながら決意を述べた。

「………拓真…あのね……私、拓真が死んでも絶対一生忘れないから!私決めたんだ!拓真がいなくなっても頑張るって!だから……だから安心して……。」

すると、目の前で静かに眠っている彼が少し笑った気がしたのだ。

その顔をよく見ようと彼の顔に顔を近づけると死んだはずの彼から声がした気がした。

『眞子。ありがとう。頑張ってね。俺は上から見守ってるからね……。』

私は、その声を聞くと、静かに立ち上がり会釈を一つしてその場から去って行ったのだった。

それから数日後、彼のお葬式を無事に済ませ私は彼の遺体を見送るとそれまでの思い出と共に新しい道に進み始めたのだった。


使い方とか、なんか知っていることを粗削りで使ったんで意味が違ったりしてたらまぁ…そう言う時もあるよね的な感じでスルーしてください。

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