寛樹の過去
寛樹には消し去りたい記憶があった…それは、記憶を取り戻して再び悪夢として思い出されている…
それは、寛樹が6歳のころの話…
「ラナ~行くよ~早く~」
寛樹がラナを呼んでいる
「お待ちくださいよ。マスターもうすぐお弁当が出来ますからね」
ラナが調理しながら寛樹に答える
「お兄ちゃん~どこ?」
ミストが寛樹を探してあたりを歩きまわっている
「うん?ミスト~厨房だよ~」
厨房から顔を出してミストに答える
「あっ!お兄ちゃん~」
寛樹に飛びつき抱きつく
「ミスト…」
ちょっと困惑した表情をする
「ふふ…仲がよろしいことで」
お弁当を弁当箱に詰めて布で包んでいる
「うん!私、お兄ちゃん大好きだもん」
寛樹に抱きつきながら話す
「それより、ラナ。早く行こうよ!!」
寛樹がラナをせかす
「はいはい。わかってますよ。マスター」
バスケットにお弁当などを入れる
数分後…
「あっ!お兄様。お待ちしておりました」
一人の少女が寛樹の姿を見て丁寧にお辞儀する
「そんな堅苦しい挨拶しなくていいよ。僕たち幼馴染なんだからね?」
「かしこ…わかった…よ?」
ちょっと困って不思議そうに言う
「うん。そんな感じ。さぁ行こ?」
「はい。」
「それでは、ラナさん。娘のことよろしくお願いしますね」
少女の母親がラナに話す
「かしこまりました。」
ラナは丁寧にお辞儀をして返答する
「早く、ラナ行くよ?」
寛樹と少女とミストが先に森に入ろうとしていた
「わかってますよ。それでは、行ってまいります」
寛樹の両親に会釈して寛樹たちを追いかけるように小走りで森に入る
小鳥のさえずりが周りから聞こえる
「お兄様。ここはいいところですね」
少女がとなりで歩いている寛樹に話す
「そうだね。また堅苦しい言葉を使った~」
「あぅ…もうしわけ…ごめんなさい」
「うんうん。別にいいよ。レナが好きなように話せばいいよ」
「はい」
にっこりとほほ笑んで寛樹に返す
「お兄ちゃん。ほら見えて来たよ」
ミストが森の奥にある湖を指さして言う
「それでは、あそこでお昼にしましょうか?」
ラナが寛樹に聞く
「うん、そうだね。」
湖について昼食をとってから数時間後…
「それでは、そろそろ帰りますよ」
ラナがバスケットにかたずけながら言う
「はぁ~い」
3人でそろって返事をする
寛樹の家の近くまで数分後…
「きゃぁ!」
いきなりレナが悲鳴を上げる
「レナ!?」
寛樹がレナのほうを見ると…
「おっと…そこのメイドさんは動くなよ?動いたらこの娘がどうなるかわかるよな?」
「くっ!!」
「それでいい。さてと…ぐはぁ!?」
レナを捕まえていた山賊がいきなり倒れる
「なんだ!?」
他の山賊に動揺が走る
「…『我が求めるは悪しきものを裁く雷…ホーリー』」
寛樹が詠唱するとまた違う山賊が白い雷に打たれて倒れる
「こいつ!!」
寛樹の近くにいた山賊が剣を振りかざす
「危ない!!」
ラナが身を挺して寛樹をかばう
「ラナ?」
寛樹が一旦詠唱をやめてラナを見る
「だいじょ…ぶですか…マス…ター…」
息も絶え絶えながら話す
「僕は大丈夫だけど!!ラナが!!」
ラナの傷口を見て言う
「これくらい大丈夫です…よ?…私は…マスターの使い魔ですよ?…マスター…の魔力がつき…ない…かぎり…死にませんから…ね?」
「それはわかってるよ!!でも…」
寛樹の眼に涙がたまる
「ふふっ…だいじょ…ぶ…ですよ…マス…」
ラナがぐったりとする
「ラナーーーーー!!!!」
寛樹が泣き叫ぶ
「ラナさん!!!」
ミストは泣いてはいないがさすがに動揺している
「ラナ様…」
レナも同様だった」
「…うわぁぁぁぁぁ!!!!」
寛樹のまわりに光が集まる
「おい!これ、やべぇぞ!!!」
山賊が一斉に逃げようとする
「…逃がさねぇよ…ゴミどもが!!」
山賊の数人が塵となって消えた
「ひぃ…」
いきなり仲間が塵となったことでおびえている
「…貴様らも…消えろ!」
山賊が残らず塵となって消えた
「…」
ミストは強大すぎる魔力に触れたせいで気絶している
「お兄…様?それは…一体…」
レナがおびえて寛樹を見る
「…」
寛樹の眼には朱の五芒星が見えていた
「…っ…それは…複写眼…レナ様…危険…ですので…早くお逃げに…なって…ください…」
ラナが力を振り絞ってレナを逃がそうとする
「ラナ様!傷のほうは大丈夫なのですか!?」
レナがラナに駆け寄る
「はい…なんとか…今のマスターは理性が切れて…ただ破壊する…だけの衝動に…かられています。…止めるには…マスターに近い人が呼び掛ければ理性…を取り戻すはず…でも…それは…自らの死…ぬ…ということでも…あるので…レナ様は…お逃げに…ごほっ」
ラナがせき込む
「ラナ様!…私がやります」
レナが決意する
「レナ様…その…役目は私が…私なら…マスターの魔力と契約の証しが…あれば…何度でも…」
「いいえ…お兄…寛樹さまは私の許婚です。寛樹さまの妻として、私が止めます」
「レナ様…わかりました…私が全力でサポートいたします」
ラナが詠唱するとレナのまわりに見えない風の幕が出来る
「お兄様!!どうか…どうか…目をお覚ましになってください!」
レナが必死に呼びかける
「…」
寛樹が無言でレナに黒い雷をぶつける
「きゃあ!」
しかし、レナは無事だった
「くっ…この魔力の量は…」
ラナがつぶやく
「お兄様!!」
レナの近くに寛樹が近づく
「お兄様…うっ!?」
レナの腹部に鋭い痛みがはしる
「…」
寛樹が無言で黒い雷でレナを貫いていた
「お…兄…様…」
痛みをこらえて寛樹に抱きつく
「…!?」
一瞬だが寛樹が動揺する
「…お兄…様…寛樹さま…だいじょ…ぶ…ですよ…もう…何も…怖い…こと…ありませんから…」
「…レ…ナ…?」
寛樹がレナの名前を口にする
「はい…私はここに…おりますよ…ごほっ…寛樹…様の…おそばに…ずっと…」
レナが…寛樹の腕のなかで息途絶えた…
それから、間もなくして寛樹も気絶して寛樹の両親が様子を見に来て驚いていた
事情を聴いたレナの両親はレナを失った悲しみと夫になるはずだった寛樹を助けた誇りの二つに板挟みになっていた
…それが、寛樹の忘れたくても忘れられない過去…消し去りたくても消えてくれない悪夢だった