第五話 grave
弥生は誰もいない教室から鞄を取ると、急いで家に帰った。
家に帰っても明かりは点いておらず、誰もいないことに嘆息する。
―――相変わらず二人とも忙しいらしい。
透は県大会が近いと言っていたし、夏紀は秋物の撮影がもうすぐ始まると言っていた。それでなくとも二人からは避けられているのに、一体どうすればいいと言うのか。
弥生は家の中に入ると、いつものように自分の分だけご飯の用意をして食べる。他はラップをかけて置いておく。二人が帰ってきたときに自分たちで温められるようにだ。
弥生は自分の部屋に戻ってパソコンの電源を入れる。
”一条優”の名前で検索してヒットしたうちの一つを開く。
『一条優氏、西鴬学院でピアノ演奏!?』
開いてすぐに大々的に書かれている文字に溜息を付きながら画面をスクロールする。
『7月9日、一条優氏が自身のブログにて以前よりオファーを受けていた西鴬学院の文化祭でピアノ演奏をすることを明かした。なお、当日は代表生徒の伴奏も務めるとのこと。年に一度しかコンサートを開かない一条氏のファンはこの文化祭に大勢訪れる模様。代表生徒の名前は―――』
思わず大きな音を立てて椅子から立ち上がった。
「何で・・・・・・もう、広がって・・・」
余りのことに弥生は呆然と呟くことしか出来なかった。
『―――代表生徒の名前は、普通科四年 浅見弥生さん』
弥生はこの間会ったときに言っていた一条さんの言葉を思い出した。
『俺は俺の持つ権力を使ってでもお前を引きずり出してやる』
何でこんなことをするの・・・?
◇ ◇ ◇ ◇
翌日、弥生は学校についてすぐ学院長から呼ばれた。
「―――いやあ、すまないね。まさか一条さんがあんな手を使ってくるとは思わなかったよ」
「・・・・・・学院側はこの話をどうするつもりですか」
そう。学院がこの話を否定すれば弥生は出なくてもいい。だが――。
「学院としてはこのまま君が代表として出る、ということにしたいと考えている」
「っ・・・!」
予想してはいたが認めたくなかった言葉に弥生は息を詰める。
学院にとって普通科の生徒が出るだけでも周りがうるさいのに、これでさらに否定すればマスコミまで駆けつけてきそうな勢いだ。ここは、弥生が出ることで一応は丸く収まるのだろう。
「すまないが、出てくれないだろうか。君が頷けば、私たちは全力で君を守ることを誓おう」
「・・・・・・・・・今日一日、考えさせてください」
それ以外に言える言葉が見つからなかった。
教室に戻って一斉に周りの視線が向いてきた。だが、今はそれに反応することすら出来ない。
全てから目を背けるように机にうつ伏せる。
・・・何を考えればいいのかすら分からなくなった。
どうすればこの騒ぎが静まるのかも、これからどうすべきかも考えることが億劫に感じてきた。
「・・・浅見さん」
不意に上から声がかかってきた。面倒だと思いながらもゆっくりと顔を上げる。そこには、クラスの委員長と数人の女子が集まっていた。
「あなたが代表生徒になるって本当なの?」
「・・・・・・まだ決まってない」
「でも、一条さんがあなたがそうだってブログに書いてたよ」
「あれはあの人が勝手に書いただけ。学院もさっき本人に抗議の電話を入れるって学院長が言ってた」
「・・・あなたは出ることに納得してるの?」
委員長のその質問に、何故か突然怒りが沸いてきた。
「だれが!・・・何で私が金と権力で相手を無理に従わせられることを納得しないといけないの!」
怒鳴り声は教室中に響き、全員が静かになった。
はっとして自分が何を言ってしまったのかを自覚して居心地が悪くなる。
「っ・・・ごめん。一人にさせて」
椅子から立ち上がって教室を出ると、人気のない場所を探して歩き始めた。
教室に残された人たちは、呆然としてそれを見送った。
遅くなって、申し訳ありませんでしたーーー(泣
これからどうしようかな、なんて考えてたらこんなに経ってました・・・
次からはなるべく早く更新できるようにしたいと思いますが、いろいろとやることが多いのでいつになるか分かりません。
こんな作者でよかったら、温かい目で見守ってください!!(泣)