プロローグ
少々短めになってしまいました。
六月下旬。
西鴬学院では一学期の期末テストも終わり、生徒たちは間近に迫りつつある長期休暇に心浮き立たせていた。
西鴬学院は、文学科・スポーツ科・芸能科・音楽科・普通科の五つの学科を持つ中高一貫校である。多くの成功者を輩出し、今は次世代の才能の発掘と育成に力を入れている。
その学院では今、世間にもそれなりに名の知れた兄弟がいる。
学院の生徒は彼らを『浅見兄弟』と、尊敬と羨望の念を込めて呼んでいる。
とはいっても、そのうちの一人―――長兄・浅見春人は昨年学院の文学科を卒業し、現在は天才小説家の名を馳せてテレビにも出ている。
その四つ下の双子の兄妹―――浅見透と浅見夏紀は、スポーツ科と芸能科の三年だ。透はバスケットで自身の運動能力の高さを示し期待のエースとなり、夏紀は街でスカウトされた雑誌のモデルとなり人気を博している。
この三人に共通することは唯一つ、世界的に有名なヴァイオリニスト・浅見万理の美貌を精確に受け継いだ、日本人離れした整った顔立ちをしているという点だ。
それ以外の性格、趣味、価値観はまったくと言っていいほど違う。
―――けれど、何事にも異分子と呼ばれるものは存在する。
もちろん、浅見兄弟も例外ではない。
彼らにとっての異分子とは、何一つ目立つ要素を持たない浅見家の長女・浅見弥生だ。
弥生は普通科四年で、黒のフレームの眼鏡をかけ長い髪を一つに括っているだけのどこにでもいる少女だ。
学院の中で彼女が浅見兄弟の一人であると認識している生徒は片手で足りるほどしかいない。
弥生自身も目立ちたくないという考えで、学院内では極力気配を消して過ごしているという徹底ぶりだ。
けれど、何故弥生がそこまでして自分を平凡に見せようとするのか、その理由を知る者は誰一人としていない。