真祖討伐作戦会議
便利屋ウルフェンリートから選抜されるメンバーは自ずと絞られる。
まずユウコは確定。理由は吸血鬼の探知が可能な唯一の人材だからだ。
次にエヌラス。護衛かつ、真祖同様に危険指数「黒」とされる実力者。
そして最後に──自由枠だが、ここにファングはスロウドを選んだ。
「俺ェ!? なんでぇ!?」
「たまには外出ろ」
「ヒャッハー数ヶ月ぶりのシャバの空気だー!」
……不安だ。
「なぁファング、他の奴誰かいないのか?」
「いるにはいるけど今はいねぇしなぁ」
「スロウドの奴に任せて本当にほんっとうに大丈夫なんだろうな!」
「そう簡単に死にゃしねーからへーきへーき」
──不安でしかない。
エヌラスの心配を他所にスロウドは(ひとりで)盛り上がっている。
「ウッヒョー何持っていこっかなー! やっぱさぁ城攻めするならさぁ破城槌とかロケランとか爆弾とか大量に持ち込んだ方がいいかなぁ! 火薬は300トンまで!!!」
「文化財だよ!!!」
「でも本拠地吹っ飛ばしたら絶対帰ってくるじゃん、ドラキュラ」
「人の心とか無いんかお前???」
探し方が野蛮過ぎるだろう。
「それで、どうやって捜索する? 馬鹿正直に本拠地乗り込むならマジでコイツが爆弾魔と化すけど」
「そこはユウコ頼みだしなぁ」
「いや。少し待ってくれ」
淡々と話を進めようとするファングに、ホーウェンから制止の声がかかる。
「まさかとは思うが、そのまま行くつもりか?」
「俺はこのまま送り出すつもりだったけど。なんか支給してくれんの?」
「対怪異装備の支給を考えていた」
「いーよ、民間企業にそんなん譲ったら後が面倒じゃん。でも「FF2プロトコル」部隊に正式採用されてる奴はコイツが喜ぶ」
ワクワクそわそわしているスロウドの視線は、ホーウェンの傍で待機しているアンダーシックスの持つ銃に向けられていた。そしてそれは財団の機密保持という建前上、便利屋ウルフェンリートで話すことではない。
つまりファングが何を言いたいかと言うと──「よそでやれ」ということだ。
◆
真祖討伐作戦にあたるに際し、メンバーの顔合わせも兼ねて財団極東支部の作戦室に集まる。
プロトコル部隊──対怪異特殊作戦に出動される精鋭達は、互いの名を明かさず、顔も知らず、素性も定かではない。ただ財団内で積み上げた戦績によってのみ選抜される。
顔を覆う鋭角なフルフェイスヘルメット。全身を包む黒の戦闘服には緑の蛍光ラインが目立つ。一見SF世界から飛び出してきたような近未来的な装備だが財団が用意できる技術の結晶だ。
割り振られたナンバーはそれが彼らの名前であり、身分証だ。
エヌラス達の前に立つのは、「Ⅸ」と書かれたタグを左肩に提げている。
「俺は「FF2プロトコル」部隊長のクロックナイン。今回の真祖討伐作戦における前線指揮を務める」
「前線指揮? 隊長が最前線に出るのか?」
「作戦指揮はそこのデカいの。「ファットトゥエルブ」が後方から行う」
巨漢。縦にも横にもデカい。力士のような体型に、しかし特殊戦闘服は合わせられていた。特注品だろう。こちらのヘルメットは丸みを帯びており光学機器が載せられていた。
「俺は主にドローン飛ばしたり周囲の索敵。特務装甲車両の運転も俺の仕事だな。安全運転なら任せとけ」
「小柄なのがフォックステイル。遊撃手だ。アンダーシックスは狙撃手として同行する」
アンダーシックスは軽い会釈に留め、フォックステイルは元気よく手を振る。
今回の作戦に同行する四名だ。
「君は魔術師だそうだな。俺はそうしたオカルトに詳しくないが、探知機のような魔術はないのか?」
「あるにはあるが、動体探知やソナー、熱源感知の代わりみたいなもんだ。そっちの技術と大差ない」
「なるほど。人間か吸血鬼かは判別がつかないか」
「専門家ならともかく、俺は戦闘専門だ」
「野蛮人」
スロウドの膝裏から鋭い音が爆ぜる。すぱぁん! 途端に崩れ落ちるバカ。
「い〜んひんひん……これって労災に入りませんか?」
「……すまないが」
財団の信号塔の範囲内ならば怪異かどうかの判別は可能だ。となると、やはりユウコの能力次第となる。設置されているのは新都、その周辺に限られるからだ。
「闇雲に探したって仕方ねぇ。ひとまず吸血鬼関連の事件から追っていこう」
「ハイハイハーイ! 俺に提案があるので聞いてクレメンス!」
「却下黙ってろ」
「ぃひーひひひん」
いななくな。
エヌラスとクロックナインが財団のデータベースを活用して吸血鬼の分布図をモニターに書き加えていく。
ユーラシア大陸のほとんどで吸血鬼と思わしき事件が引き起こされていた。毎月数百件はあろうものは時間も相手も人数もバラバラ。統計情報だけ見てもめまいがする。
時系列順に並べてもどれも共通項が見当たらない。真祖と使徒の引き起こす事件の中には、現地人と協力して行っているものまで出てきた。
フォックステイルは飽きたのかあくびをこぼす。
アンダーシックスは黙々と丁寧にデータベースから索引した情報を並べていた。ファットトゥエルブも手伝っている。
クロックナインとエヌラスは段々ヤケクソ気味になってきていた。
作戦会議開始から3時間が経過──。
「駄目だぁ、休憩! 昼飯食おうぜ!」
「よーっしこれより1時間の昼食休憩とする! 一時解散!」
進捗まるで無し。
◆
財団の食堂で昼食を終えた面々が再び作戦室に集合する。そこではすでにスロウドが一足先に戻ってきていたのか、財団のデータベースをゲストログインで覗き見ていた。
「お前は何してんだスロウド」
「え? クラッキング」
「今すぐやめろボケナスビ!」
「冗談ですよーぅデュフヌポォ」
「きっしょ」
クロックナインが席に着くよう促そうとしたが、画面を見て首を傾げる。
「ちょっと待ってくれ。スロウド君、君は何を調べていた?」
「え? なにって。ルーマニア企業の金の動き」
「なぜそんなものを?」
「世の中金ですよ。ねぇユウコさん」
「そうだよ金だよリアルマネー現金大好き! で、なんでまたそんなの調べてたの?」
「だって吸血鬼って人間社会に馴染まなきゃ村八分で飢えて死ぬ社会性の高い怪異なんだから人間社会に馴染む努力するの当たり前じゃないですか。だから吸血鬼って人間依存の怪異なんすよ。真祖であっても例外じゃないし。畜産業みたいなもんですよ? だからルーマニア企業で金と人が動いてなおかつ吸血鬼事件の日付に前後して動いてる会社調べた方が早くないすか。
だって俺等追ってるの真祖ドラキュラ伯爵だけっすよね」
「…………」「…………」
エヌラスとクロックナインが天井を仰ぎ見た。
アンダーシックスが操作を引き継ぎ、自分のIDカードを通してログインする。そこから詳細情報を引き出して整理していくと関連企業と思しき名前が出てきた。
意外にも自動車メーカー。社交パーティーの日程も事件と不思議なほど一致する。
エヌラスとクロックナインが顔を見合わせた。綺麗な二度見である。
「肝心のドラキュラ伯爵なんすけど、多分移動方法とか車だと思うんですよ」
「……根拠は」
「スモークガラス。日光を遮断して昼間も長距離移動が出来て、かつ財団の監視下であっても問題なく行動が可能だから。昔と違ってテクノロジーの発展はあちらにも好都合だと思って調べたらドンピシャでした。プライバシー保護とか理由にしてればサングラスも不自然じゃないですし?」
アンダーシックスは黙々とデータベースをスクロールしていく。確かにそれらしき車両の映像記録が残っていた。
スロウドの予測は、ブラックスポットである本拠地に眷属を残して自らは人間社会に進出。各地で使徒を作り、自らの領土を広げて吸血鬼による人間の奴隷下を目論んでいる。人間社会で消費される食物に比べれば吸血鬼は血液だけで済むのだからその方が圧倒的なエコだ。そしてその思想は環境にも及び、自動車メーカーを隠れ蓑に選んだのだろう。
自身の怪異としての立場を人間からの目線で考えての行動は一枚上手だった。
しかし、そうなると再び議題にあがるのは、目標の居場所だ。さらに特定が困難となる。
「じゃあどうやって見つけんだよ」
「え? そりゃもう簡単な話じゃないっすか」
満面の笑顔だった。両手でサムズアップまでしている。嫌な予感がした。
「本社爆発しましょうよ。ド派手に」
「お前マジで人の心とかないんか???」
相手の血と涙と汗と努力の結晶を瓦礫の山にしてやろうぜとものすごい満面の笑顔で。
「いや、だってお前普通に考えたら駄目だろうがよ! いくらなんでもそれは、なぁ隊長!」
「……財団特務執行権限では可能ではあるが……! 超法規的措置が取れる……!」
「マジで言ってる!?」
「正直な話、俺もそれで解決できるならそれでいいかと思っているところがある。が、俺は民主主義者だ! ここは多数決で決めよう!」
満場一致で本社爆発が決定した。
「ぃやったぁー!!! 火薬300トンぶち込むぞぉ!!!」
「っていうかお前それに気づいてんだったら先に言えよ!」
「え。だって何も聞かずに却下って言ってたじゃないすか」
「クソがよぉ!!!!」
エヌラスの今日一デカい声が作戦室の扉を越えて廊下にまで聞こえていたという。




