あの方のことをわたくしの方が理解している
わたくしとメルディアン侯爵子息ユニアースさまは婚約しているが、わたくしは子爵家。身分違いである。
なので、よくこんな騒ぎに巻き込まれる。
「いい加減。ユニアースさまとの婚約を解消したらどうかしら」
本日のご令嬢は公爵令嬢だった。ユニアースさまは見た目は当然。身分も侯爵家子息。学業も優秀で、生まれるのが後5年早ければ王太子の側近になれたのにとまで言われるほどの方だ。
「……解消と言われても」
あえて、言葉を濁していると、
「そうね。たかが子爵令嬢が断ることなんて難しいわよね。でも」
一度言葉を区切る。
「病気になってしまえば断れるわよね」
「……………」
病気を偽装しろと言われて、返答を避ける。
臭わせているだけで、断言されていない。そこで深く突っ込んだら人聞きの悪いことを返されるのが目に見える。
「上級階級のお茶会に貴方は呼ばれないから知らないでしょうけど、彼はね我が家お抱えのパティシエの作るケーキが好きで、最初にそれを食べるのよ」
「……………」
「ああ。そうそう。黒がお好きなようね。黒い服をよく身にまとっているわね。貴方の色は一切まとっていない」
巻いてある黒髪を自慢げに揺らして見せつける。銀髪のわたくしに。
「貴方とは大違い」
ふふっと笑って、
「ああいう無口な方は行動が雄弁なのですね。わたくしの方が婚約者の貴方よりも知っているかもしれませんね」
「……………」
「身の振り方を考えたらどうですか?」
などと言ってくるご令嬢にいくつか言いたいことがあったが、今回は言わないでおく。
だけど――。
「などと言われてきました」
「ごめんなさい……ティティ」
しょぼんと頭を下げているのはわたくしの婚約者……皆の憧れるユニアースさま。
「確かに、お茶会に誘われたけど、ケーキを食べたのはご令嬢が食べたから安全だと保障されたからだし……黒い服を着ているのは汚れが目立たないようにするためだけなんだけど……」
わたくしをイメージした白い服に身を包んで、必死に言い訳をしている様はどこが無口なのだろうかと必死に言葉を紡いでいる。
そんな彼の手元には塩辛い食べ物の数々――。
「ええ。――存じ上げてます」
だけど、ムカつくものはムカつくのですと告げると今すぐ土下座をしそうな勢いで謝罪してくる。
「ごめんなさい……」
謝るユニアースさまの頭に犬の耳の幻覚が見える気がする。
そんなユニアースさまに怒っているふりをしながらそっぽ向くとますますしょぼんと落ち込む。その様が愛らしくて虐め過ぎたかしらとそろそろ怒っていないと伝えようかと迷う。
「それにしても……」
わたくしの方がユニアースさまを分かっていると勝ち誇っていた令嬢の顔を思い浮かべる。
(どこが分かっているのかしら?)
甘いものが好きだと言っていたが、幼い時から何かの集まりで呼ばれるたびに媚薬を盛られそうになって、誰かの食べたものなら安全だと判断して好きでもないお菓子でも誰かが食べたのを確認して食べるようになった。それがユニアースさまが甘いものが好きだと思い込んでいる理由。
出先で黒い服を身にまとっているのは白い服だと汚れが目立つし、いくら暴れても気付かれにくい……というか、色が薄い服はたまに透けて変な輩を集めやすいので人前では着られない。
無口なのも、しゃべったらそれを口実に付きまとう輩が多すぎるからという自衛のため。
この方は変人……いや、変態ホイホイなのだ。
初めて会った時に、ショタ狙いのおばさんに襲われかけていたのを助けたことがきっかけで、それ以来わたくしに懐いているなと思っていた。そして、侯爵家から婚約を申し込まれたのは変態に付きまとわれて人間不信のユニアースさまが平気な同世代だからという理由だ。
(まあ、巻き込まれるのを理解して婚約をしたからこんな面倒も許容範囲だ)
でも、時折虐めたくなるのは。
「婚約破棄とか言わないでください……ティティが僕を嫌ってしまうのは仕方ないかもしれないけど……僕はティティのことを……」
そこまで告げてくるのを聞いて、
「怒っていませんし、婚約も破棄しませんよ。――ただ八つ当たりをしたかったのです。わたくしのユニアースさまなのに」
愛のない結婚と言ってくる輩が多いのでただ愛を確かめたかったのだ。
「大好きですよ。ユニアースさま」
「僕も好きだよ」
ああ。わたくしもユニアースさまに付きまとった変態と同類かもしれない。
彼の愛の言葉を欲して意地悪をしてしまうのだから。
守ってくれるから婚約を申し込んだんだとずっと思いこんでいたティティ。
初めて助けてもらった時に一目ぼれして、外面はティティの真似をしているユニアース。




