鴨紅柄長の一日-前編-
四
鴨紅柄長の朝は早い。
彼女の朝は、静寂の中に潜む電子の脈動と共に幕を開ける。
長野県某所、閑静な住宅街の一角に佇む、築浅の集合住宅。
その一室、一LDKの間取りを有する彼女の城は、清廉な空気に満たされていた。
新築特有の樹木の香りが微かに漂うフローリング。窓の隙間から差し込む黎明の光を反射し、磨き上げられた鏡面の如き輝きを放っている。塵一つ落ちていないその床面は、主である柄長の潔癖なまでの管理能力と、テクノロジーによる自動清掃の賜物。
時刻は午前六時半。
突如として、鼓膜を震わせる電子音が静寂を切り裂いた。
ジリリリン!
無機質かつ暴力的なアラームの咆哮。
深淵なる眠りの海を漂っていた柄長の意識が、急速に浮上する。
彼女は布団の中で身じろぎ一つせず、ただ緩慢な動作で左手を虚空へと掲げた。
そして、もう一方の手で自身の手首を軽く叩く。
その瞬間、彼女の橈骨動脈付近に埋め込まれた極小の生体埋め込み型チップが起動シークエンスを開始した。微細な光粒子が噴出し、彼女の眼前の空間に鮮明なホログラム映像を構築する。
機動立体映像端末。
旧時代の物理的なスマートフォンを過去の遺物へと追いやった、この時代における情報の窓である。
空中に浮かぶ6:30という数字。
柄長は琥珀色の瞳を細め、その数値を網膜に焼き付けると、空中の不可視のインターフェースを指先でタップし、喧しいアラームを沈黙させた。
「………ふぁ」
あられもない欠伸と共に、彼女はむくりと上半身を起こした。
遮光等級一級のカーテンによって外界と隔絶された室内は、未だ薄闇に包まれている。
常人であれば、ここで壁面のスイッチを探して手探りするか、あるいはリモコンを手に取るところであろう。
だが、鴨紅柄長という特異点にとって、そのような物理的干渉はあまりに原始的であり、非効率の極みだ。
チカッ。
暗闇の中で、彼女の瞳が鮮烈な水色の燐光を放つ。
刹那、空間に張り巡らされた電子の回路が彼女の意思と直結した。
パチッ、という絶縁破壊の如き微かな破裂音と共に、彼女の瞳から水色の電気が迸る。それはさながら、彼女自身が一個の発電所と化したかのような光景。
無機質な電磁フィールドが室内を席巻し、シーリングライトへと接続された。
カチリ、というスイッチの物理的な作動音は存在しない。
ただ、彼女の脳裏に浮かんだ「点灯」という意志が、即座に現実へと変換されただけのこと。
パッ、と部屋が眩い昼光色に満たされた。
「……ん~っ!」
柄長は布団から起き上がり、両手を高く掲げて猫のように伸びをした。
小柄な体躯が、重力から解放されて弓なりに撓る。
電波でテクノロジーを操る能力。
彼女の一日は、この電波によるハッキングと共に幕を開ける。
まず柄長が向かった先は、清浄な白で統一された洗面所。
鏡に映る自身の顔には、寝起きのアンニュイな空気が漂っている。
彼女は蛇口へと目をかざした。
物理的なハンドルを回す必要はない。水流センサーが反応する前に、彼女の微弱電流が水道管のバルブを電磁的に制御し、適温に調整された湯水を供給する。
顔を洗い、歯磨きを済ませる一連の動作。
その間も、電動歯ブラシのバッテリー残量の確認、口腔内洗浄機の水圧制御、タオルの乾燥度合いのチェックに至るまで、全ては彼女の無意識下の電子操作によって完遂されていた。
一切の設備に手を触れることなく、まるで幽霊かポルターガイストのように、あるいは王の如き威厳を持って、日用品たちが彼女の意のままに踊る。
そして、朝食の準備へと移る。
キッチンのIHコンロの前に立ち、冷蔵庫からパックに入ったベーコン、卵、レタスを取り出す。
棚から調味料を取り出し、最新鋭の超耐熱セラミック・グラフェンコート製フライパンをコンロの上に設置した。
油を敷き、再び彼女の瞳が水色に輝く。
カッ。
IHコンロの電源が、コンセントに繋がれていないにもかかわらず、煌々と赤い光を放ち始めた。
通常、IHクッキングヒーターという代物は、二百ボルトの高電圧を必要とする大食漢。だがその電力を、彼女は自身の体内発電によって賄い、さらに非接触でコイルへと供給し、誘導加熱を引き起こしている。
物理法則に対する、ささやかな反逆。
冷蔵庫やWi-Fiルーターといった常時稼働が必要なインフラ以外は、全て彼女がその都度、自身の能力による電力で起動させている。
コンロが温まるまでの数秒間、彼女はレタスを水洗いしつつ、虚空に浮かぶホログラム・ディスプレイを確認した。
そこには、未読の通知が山のように溜まっていた。
「……うわ、まーた筮麽から変なラインきてるわ~…」
柄長はげんなりとした表情で呟いた。
彼女の親友であり、世界最強の能力者、亜鳴蛇筮麽。
そのラインのタイムラインは、もはやカオスの博物館と化していた。
自身の触手で複雑怪奇なあやとりをして東京タワーを作っている動画。触手の色をRGB発光させてゲーミングPCのように光らせている自撮り。どこかのスイーツ食べ放題の店で、巨大なパフェを前にしてダブルピースを決めている写真。成層圏から撮影したと思しき、息を呑むような地球の曲線美を捉えた絶景写真。
これらが、深夜から早朝にかけて無差別に送信されていた。
柄長は「あはは……」と乾いた笑いを漏らすことしかできなかった。
反応に困るものには適当なスタンプを返し、無難なものには『美味しそう』『すごい景色』といった定型文を返信する。
だが、この何気ない日常のコミュニケーションにおいても、彼女の倹約精神は発揮されていた。
本来、こういった思念操作タイプの網膜投影デバイスは、市場価格にして数十万円を下らない高級嗜好品。
しかし、柄長は自身のテクノロジー操作能力を駆使し、安価な中古端末の基盤を改造、さらに自身の脳波と直結させることで、ゼロ円で同等の機能を実現していた。
貧乏学生の執念と、天才的な技術力の奇跡的な融合。
ジュゥウウウウウ!
フライパンから食欲をそそる音が響き渡る。
ベーコンが良い塩梅に縮れ、香ばしい匂いを放ち始めた。
柄長は手際よく箸でそれをひっくり返し、カッ、と卵を二つ割り入れる。
白身が白濁し、黄身が鮮やかなコントラストを描く。
完成したベーコンエッグを、水気を切ったレタスの上に滑らせるように盛り付けた。
高校卒業後、一人暮らしを始めて早二年。
彼女の料理の腕前も、この電磁調理と共に洗練されていった。
質素ながらも栄養バランスの取れた朝食を摂り、食器を洗って片付ける。
再び洗面所へと戻り、外出の支度を整える。
クローゼットから選び出したのは、淡いパステルカラーのブラウスと、動きやすいフレアスカート。
鏡の前に立ち、自身の姿を確認する。
百五十三センチメートルという小柄な体躯。
筮麽のようなモデル顔負けの長身もなければ、普並木のような豊満な曲線美もない。
いわゆる、幼児体型に近いシルエット。
だが、彼女はそれを補って余りある愛嬌を持ち合わせていた。
大きな瞳、小動物を思わせる愛らしい顔立ちは、大学内でも密かなファンを生むほどの魅力を放っている。
しかし、本人のコンプレックスは根深い。
彼女は鏡の中の自分の胸元を一瞥し、小さく溜息をついてから、最低限のナチュラルメイクを施した。
水色の髪をサイドポニーテールに結い上げ、リボンで留める。
「よし!」
柄長は鏡の中の自分に向かって頷いた。
いつもの「鴨紅柄長」の完成だ。
しかしここで、彼女はふと壁のカレンダーに目をやり、思考を巡らせた。
「……そろそろかな」
そう呟き、彼女はおもむろにリビングの隅にあるコンセント差込口へと歩み寄った。
そして、人差し指をその穴へと向けた。
物理的なプラグを挿すのではない。
彼女の指先から、バチバチッ! と激しいスパーク音と共に、高出力の電流が放出された。
水色の雷光が迸り、コンセントへと吸い込まれていく。
その、一種の儀式めいた光景。
指先に覆う電気。莫大な出力を誇っていた。発電所一基分に相当する膨大なエネルギーが、彼女の体内炉心から溢れ出している。
数分間の放電の後、彼女はゆっくりと手を下ろした。
部屋の照明が一瞬だけ強く輝き、そして安定した。
そう、鴨紅柄長はこのアパートの電気契約を結んでいない。
正確には、基本料金ゼロ円プランの契約のみを残し、実際の使用電力は全て自己発電で賄っている。
彼女の能力は、発電所並みの出力を誇る。
定期的にその莫大な電気エネルギーを放出し、自室の配電盤に直結された蓄電システムへと循環させ続けることにより、電気代を実質タダにしている。
一ヶ月分は優に持つエネルギーを常時滞留させており、もし仮に何らかのトラブルで長期間帰宅できない事態が発生しても、冷蔵庫の中身が腐ることはない。
世界中の電気使いの中でもトップクラスに入るであろう、核融合炉並みの出力と、それをミリワット単位で制御する精密機械のような技術。
それを、彼女は天性の才能だけで、息をするようにこなしている。
あらゆる能力を模倣し、神の領域に足を踏み入れた亜鳴蛇筮麽ほどではないにせよ、彼女もまた、この世界における規格外の存在であることは疑いようがない。
だが、彼女はその恐るべき神の雷を、こんな些細な、しかし切実な「生活費の節約」という目的のために行使している。
時刻。七時半を回った。
今日は午前中からアルバイトのシフトが入っている。
彼女は親元を離れて自立し、自分で家賃を払い、生活費を稼いでいる。
それだけではない。まだ高校生で実家にいる妹と、それを育てる両親のために、毎月欠かさず仕送りも続けている。
この涙ぐましい電気代の節約も、全てはそのための資金繰りの一環なのである。
高潔なる精神と、庶民的な生活感の奇妙な同居。
支度を済ませ、愛用のトートバッグを手に玄関を跨ぐ。
オートロックの重厚な扉が閉まる電子音を確認した後、今日も労働という名の戦場へ向かうべく、駐輪場へと足を向けた。
そこに停められているのは、一見すると何の変哲もない電動アシスト自転車。
だが、そのバッテリーもまた、彼女の手によってフル充電されていた。
サドルに跨る。
ペダルを踏み込む。
ウィーン、とモーターが唸りを上げる。
軽快に加速していく。
彼女の漕ぐ自転車は、初夏の爽やかな風を切り裂き、長野の街並みへと溶け込んでいった。
◆❖◇◇❖◆
駐輪場の所定の位置に愛車たる電動アシスト自転車を滑り込ませ、柄長は眼前ごしにその建物を仰ぎ見た。
〝元祖炭焼きハンバーグ パオピット〟。
その看板は、半世紀以上の長きにわたり、この信州の地で風雪に耐え、地元住民の胃袋を支え続けてきた歴史の証明。
全国展開を望む声は絶えない。しかし、品質の維持と「目の届く範囲での最高のおもてなし」という創業者の頑迷なまでの哲学により、その店舗展開はあくまで長野県内部に留められている。一種の聖域化されたローカルチェーンであり、県民にとってはソウルフードの殿堂とも呼べる場所だ。
換気ダクトからは、すでに暴力的なまでに食欲を刺激する炭火と肉脂の香りが漂い始めていた。
柄長は慣れた足取りで建物の裏手へと回り、従業員専用の通用口を開けた。
「おはようございまーす!」
彼女の活気ある第一声が、開店準備の静けさが残るバックヤードに響く。
それは単なる挨拶ではなく、自分自身を「学生」から「店員」へと切り替えるためのスイッチのようなもの。
「あら、鴨さん。おはようございます」
真っ先に返答をくれたのは、勤続二十年を誇るパートの年配女性。柄長は彼女に会釈を返しつつ、さらに奥のロッカールーム兼休憩室へと足を踏み入れた。
「……あ、柄長ちゃん、おはよう~」
気だるげな、しかしどこか親しみを含んだアルトの声が彼女を迎えた。
「あ、東浄先輩! おはようございます!」
そこにいたのは、既に制服のエプロンを身に纏い、パイプ椅子に深々と腰掛けてスマートフォンを弄っていた女性、東浄リンカ。
緩く波打つ茶色のウェーブヘアに、常に半開きの眠たげな瞳。
柄長より二つ年上の大学四年生の先輩であり、このバイト先における直属の先輩にあたる彼女は、そのダウナーな雰囲気とは裏腹に、仕事においては的確な指示を飛ばす頼れる存在だ。
「今日は……混みそうですねぇ。休日ですし、天気も今はまだ持ってますし」
柄長がロッカーを開けながら言うと、東浄は「うへぇ」と可愛げのない声を漏らした。
「だろうねぇ~。さっき予約表見たけど、ランチタイムは既に戦場確定だったよ。……まぁ、その分うちらはまかないガッツリ貰えるんだし、それを糧に頑張ろ~」
やる気があるのかないのか判別し難い、間延びした口調。
しかし、その瞳の奥には覚悟の色が見える。飲食店のピークタイムとは、ある種のスポーツであり、戦争なのだ。
柄長は私服の上から、店名と自身の名札が刺繍されたモスグリーンのエプロンを羽織った。
この店では、あえて完全な制服にはせず、私服の上にエプロンというスタイルを採用している。これは〝近隣住民と同じ目線で、親しみやすさを演出する〟という経営理念に基づくものだ。
更衣室に置かれた合成撥油スプレーを取り、服の上から、全体にかける。無色透明な霧。異能と科学の効力が混ぜ合わされ、主成分は水と、害のない合成反油性樹脂のみ。これにより、人体や食物にも無害な撥油コーティングが行われ、私服が油で跡が着いたりすることはない。
「そういえば先輩、大学のレポート終わりました?」
「ん~? 訊かないでよその話~。教授の脳内に直接ハッキングかけて、単位認定させたい気分」
「あはは、それは私が習得したい能力ですね」
そんな他愛もない雑談を交わしつつ、身支度を整える。
やがて全スタッフが集まり、店長による朝礼が行われた後。仕込み等をし開店に備える。時計の針は十一時を回り───パオピットの重厚な扉が開かれた。
柄長は手洗い場で念入りに手指を消毒し、清潔な布巾で拭き上げると、戦場たる厨房を一望した。
そこには、異能と科学技術が奇妙な融合を果たした、現代日本の食の最前線が広がっていた。
|超高圧縮炭素分子加熱炉。
遠赤外線を極限まで増幅させ、肉の細胞壁を破壊することなく中心部まで瞬時に熱を通す、最新鋭の調理機器。
さらにその横では、自動肉汁封鎖式鉄板が稼働音を立てている。
異能による物理法則の改変と、日本人が執拗なまでに追求した工業技術。「たかがハンバーグ、されどハンバーグ」という一点において交差し、生み出された厨房の姿だ。
ジュウウウウウウッ!
爆ぜる脂の音。立ち昇る香ばしい白煙。
朝食はベーコンエッグで軽く済ませただけの柄長の胃袋が、キュウと音を立てそうになるが、今は勤務中である。鋼の意志で食欲を封じ込める。
柄長の担当はホールでの接客全般だ。
彼女の持ち前の明るさと、小動物的な愛嬌、そして彼女特有の機敏な動作は、店長からも「鴨紅さんがいると店が回る」と太鼓判を押されるほど。
事実、彼女の笑顔を目当てに来店する常連客や、密かな隠れファンも少なくないという。
「いらっしゃいませ! パオピットへようこそっ!」
ベルが鳴ると同時に、柄長の声が弾む。
流れるような動作で客を席へ案内し、氷の入った水を配り、注文端末を操作する。
「お待たせしましたー! 当店自慢、牛百パーセント炭焼きハンバーグですっ!」
熱々の鉄板に乗せられたハンバーグが、威勢のいい音を立てて運ばれてくる。
客の目の前でナイフを入れ、断面を鉄板に押し付けて仕上げの焼きを入れるパフォーマンス。
弾ける油、広がる肉の香り。客の喉が鳴る音が聞こえるようだ。
ホールの床を、猫の顔をモニターに表示した自律走行型の猫型配膳機が「通りますニャー」と愛らしい電子音声を発しながら滑るように移動していく。
東浄や他のスタッフも、汗を拭う暇もなく動き回っている。
まさに戦場。
しかし、その連携が乱れることはない───はずだった。
「……ねぇ柄長ちゃん」
ふと、すれ違いざまに東浄が声を潜めて囁いた。
「慶見さん、まーたタバコ休憩行ってるよ」
その一言で、柄長の表情から営業用スマイルが一瞬だけ消え失せた。
「……うわー。まじですか。あの人さ、こういうピークタイムにタバコ休憩行くの、マジでやめて欲しいですよね。その分の皺寄せ、全部こっちに来るんですけどー」
柄長もまた、トレイを持つ手に力を込めながら文句を垂れる。
慶見という名のパートタイマー。
年齢は五十代半ば、この店での勤続年数だけは長い、いわゆる〝お局様〟。
普段は新人に対して「声が小さい」「布巾の畳み方が違う」などと細かい指導を繰り返してマウントを取るくせに、自分は店が最も忙しい時間帯を見計らって、「ちょっとタバコ」と言い残し、裏口で悠々と紫煙を燻らせる常習犯。
「ほんとにね。……まぁ、あたしらもタバコは吸うけどさ」
東浄がジト目でバックヤードの方角を睨む。
そう、柄長も、そしてこの東浄も喫煙者である。
だが、彼女たちは弁えている。
タバコは嗜好品であり、他人に迷惑をかけてまで摂取するものではない。ましてや、戦場のようなピークタイムに職場放棄をしてまで吸うなど、言語道断。
「時と場を考えてほしいよね~。いや本気で。ニコチン切れで死ぬわけじゃあるまいし」
普段は温厚な東浄の声が、明らかに低く、冷ややかに響いた。
「分かります。……しかもあの人、タイムカード切ってないですもんね。休憩扱いじゃなくて、勤務時間中にサボってるだけ。とんだ給料泥棒ですよ」
柄長も毒づく。
彼女の節約精神からすれば、働かずして金を得るその行為は、万死に値する罪。
店長も、長年の付き合いがあるせいか、あるいは波風を立てるのを嫌ってか、慶見のこの悪癖を黙認している節がある。
「………おっと、いけないいけない」
柄長の口から、可愛くない舌打ちが漏れそうになるのを寸前で堪えた。
その時、入り口のベルが鳴った。
「……まぁ、あんなおばさんほっといて、あたしらは仕事戻ろうか~。お客さん待たせたら悪いし、ね?」
「ですね。働きましょう、真面目な私たちが」
東浄が肩をすくめ、柄長もまた気持ちを切り替える。
愚痴は程々に。
二人は再びプロの顔に戻り、喧騒の渦中へと飛び込んでいった。




