8
「うそ……。でしょ――」
眉根を上げる少年と師匠、その一撃は奴の感情に飲み込まれたのよ。吹き飛ばされて行く少年、そして大きなオーラの余波が迫ってしまい……。
「うわわ……っ、ちょっと大きすぎてコレぇ――」全ての余波がコチラに向かう、でもその時すでに抜き放った剣に力を込めていたから。
「そう……、私は言ったのだから、勝負が見たいと――」
スキル技発動、まるで羽の生えた妖精が……「全くルチャード、アナタは全くの敬意を払わない、そういうところね――」
ほくそ笑んだ、その顔。彼女は飛んで来た物を颯爽と華麗に、そして見た事ないほど素早くスキル技で消し飛ばすのだ。
一つ一つ丁寧にオーラを潰していく、一切漏らさずに。6学・オド。
「そう……私のスキルの前には多数も単体も、そしてオーラすらも意味がない――」
その姿に弟子たちは感銘して拍手し、そして数人は笑いが止まらない。試験官の男達は膝が笑った。正に神に選ばれた子。あの才覚のルチャードをベースに更に強く激しく正確無比になる……。
「私、やはり感情は苦手なのね――」
その力は何事もなかったかのように感情も、物理さえも消していた。空気は荒ぶらなかった、石やゴミも飛んでいなかった。
オドという最難関の力の一つ。
そうして未だ立ち上がった少年は、だが、全てに絶望していて。
明らかにあの奇跡は一回だけというその顔は。
「ちぃいいい――。なんだ今の、ワケ分かんねぇわ……、この俺がこんなに弾かれかけるかよっ、はぁ……はぁ……、馬鹿な馬鹿な――、あぁぁこんのクソがぁああ!」
気持ち良く粉砕すると思っていたのに。
そのまま少年に殴りかかる、その限界の彼に右のコブシが突き刺さり更には上から両のゲンコツを――。
「ぐぇえ――グ、だが、負けないぞ――」
それでも足を掴んだ、必死に投げに入るが上から打撃が降って……「うぜぇんだよコイツが、コイツがよぉお!」
何度も何度も上から殴られる、それでも離さない。むしろ太もも横の刺さる部分へ、そこにコブシを入れて来るのだ。だがそれは沸騰する激情には油、燃える、少年の袖を掴む、壊すつもりで思いっきり引っ張れば服が脱げて。
その時だった……。
「おぅ――!? ちょい待てやァ―――」
今までになくキレて、コブシをやめて思いっきり回し蹴りを、その汚物を自分から引きはがして血を吐かせて「テメェっ………、おぃ奴隷かよ……? よ、よ、よくもそんなのが貴族に声かけた、はぁ……はぁ……、教えられなかったのかよっ、え!? このサル以下の人の恥め――ッ」
顔を踏みつける。
踏みつける踏みつける。その焼き印にツバをかける「そうだよ、ふぅ……ふぅ……奴隷だ。それが勇者で何が悪い……。ぐぅ――。それにお前のような男に彼女は相応しくないんだ、それは変わらないっ……、それは人類の損失だと、」がはぁ――。アァぁ――!?
掴み上げられ膝蹴りが入る腹に、嗚咽した。確かにどこかの奴隷だったのだろうそのシルシは、弟子たちの何人かも首を振った。すると何を思ったか私に向けてくるから、汚い犬をつまむようにし。
だが少年は絶対に諦めない、だって剣は切り開くと言われたから。
「まだだ……っ、まだだこのクソ貴族が、僕が性根を叩き直してやるんだぞ――ッ!」「オイオイ……はぁ……はぁ……!? 何もかもがありえねぇ。大体おめぇら奴隷の物はよぉ、俺らのもんなんだよぉ。それで女を賭けるってなんだ……」
ルチャードも少年までもがこの私を見やっているが、その表情には変わりなく、それが、「訳が分からん……、俺がこんなモノに今まで……、はぁ……はぁ……あぁぁァァァア」
今までぇえええ!
「お、おぃおぃまさか……まだ力を上げれるのか、アイツこんなに――」「人間法はこんなに爆発しないよねぇっ……本当に本当に、この年で何を――」
人間法、いわゆるスキルに該当する物が。それが爆発的に上がって行くのよ、感情流派は爆発できるヤツは強い。勝ちたいにしろ悲しむにしろ、そして、楽しむにしろ。
だがそれはあまりにもな……。
「あぁぁ……あんなの撃ったらキミ、微塵も残さないぞ!」「奴隷に分かるが、これ程なんて、ヤメなさいキミぃっ……!?」
「家名を穢しやがって、ウォオオオオオオ、轢き潰してやるよぉお!」
ソレは貴族として無かった事にするから。触ってしまった穢れを拭いとる、最強の人間法を叩き込むルチャード、そのうねりは言うまでも無しだ。
だがその目にはほくそ笑む姿が見える。弟子たちが笑っている、コレは面白くなる。
「僕は、負けない――」だから少年は新しくまとった力を使うのだ。それにはまだ未熟さと、そしてそれでも信じる力が宿って。
その時彼の動きが異常に――。
「あんな短時間で真似した……、できたんだよ」「だが未完成なんだな、さすがに難しいぞ!」
「命懸け………。でも何よりキミが悪いよね……、真剣なんてモノ選んでしまったからだ――」
見た事がある動き。だが気づいたのが遅かった、侮りが拭えなかったとも言えるか。
オーラを消していく小さな小さな光、それは自分の周りだけで精いっぱいだけれど。それがもし真剣でなければ届かなかったろうな。それは不完全だが全てを賭けているの。
全て全て全てを、その力を、人生を―――!
「そら……、相手がどんなスキルを持っているかも考えないからよ、ルチャード――」
「ま、マジか、、、ウソだろ―――。くそ……クソ……、ありえねぇええ!?」
強いオーラが消滅していく、このスキルには効かないから。その爆発する程の感情を飲み込むのが深きオド。六学、最も注意すべき混沌の力。
切っ先がそのオーラから突き出始めて……。
「ウォオオオオオオオオオオオオ!」
上がる感情、突き刺さる1撃、それはオーラを割いて……!
お見事――!
「はぁ……はぁ……、はぁ……、勝った、勝ちましたよ。運命は、僕の物だ――」
白む視線。もう既に嘔吐している、完全に死ぬ一歩前だ。無理な力を使っていたから。
だけどもルチャードはすぐに元気に目を開ける様子、さすがだなと――。失神慣れしてるとは言え流石の才覚。頭を振って……。




