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その日も血の臭い、いつもの名前。でも今まで全く働いてこなかった騎士どもが参戦し始めていたの。何せ前線が持たない事が多くなっているから、全滅が時折聞こえ始めてる。
「そう……、もう4日目なんだ。かなりだものね……?」「はい……。少しは慣れましたね」
その言葉にまさか、という顔で応じる師匠。
もう他も軽口や遊びも無くなっていってるから。かなり強いのだ、敵が。
「囲めっ……、囲まねば死ぬぞォお――」走って来たのは鹿、ダイナスト・ディア。
角がバリバリの鋼になってて猛ってノタうって、縦横無尽に駆けてくる。それに何人もが吹き飛ばされる、突き刺す、引きずられると血が焦げて不快なほど。
しかもこのバケモノはもうRPGでは御法度の、扉さえもぶち抜いててね。人間を一人残らず探し出すという能力持ちだ、ただ――。
「任せて下さい、でやぁあ!」「そう……、じゃあそっちを頼んだ、お弟子君。私はちょっと前から来る2体で忙しいかもで――」
見事に戦い抜く。敵の数とレベルが日増しに増えるが。それでも。
歪みの中の激戦、ふとでも……。
「あぁ……、なんかさぁ、やっぱ血が……、なんかもう臭いなぁって」
「いやまぁでも、ずっとじゃないかよ、もうさすがに慣れろって~」「違う違う、お前から臭うんだよ、血って……、血って……」こんなに良い匂いがするんだな――。
その言葉に止まる。
「だ、大丈夫だって、なんでそんな顔すんだよ。ただふと思っただけさぁっ、ナァ?」
すぐに剣を抜く、首を振って「……――」「お、俺は別に……っ、まだなにも無いぞ、いや、まだとかじゃない、本当に何も無いんだっ! 少しだけ血が匂い立つって思っただけなんだよ……」
この血が溢れた世界でさぁ……。この世界でただ一つ、そのお前の血だけは本物だって、そう思っただけなんだ。
それは純粋な目。震える。
「あぁ……、そろそろキツイのかもしれないなって……」
「いや、そう……、そうなの。むしろ私達が、そうだ……――」
何故、今まで自分は他人の血を感知できたのか。入っただけで血の臭いがするのに、充満しているのに。
騎士すらも怯えている。
そして後ろを見やる私。もう明日で日の当たる世界とはお別れだったから、いえ……、しばらくは、お別れのはずなので。
「やぁやぁ~~、師匠ちゃ~ん、お仕事どうか~い? 私も馳せ参じたんだなぁ、ヨロシクぅ!」
「そう……、でもアナタ達は集団行動だったはず、こんな所に来ちゃダメじゃないかな?」
「いやいやぁ、君の為にねぇ、来たんだよ。何せ危険だろうに、こんなレディーが一人じゃ」「あぁ私の為じゃなくね、自分の下心でしょ? そうそれでね、弟子くんの邪魔はするなと忠告したはず――」
剣を速攻で抜き放つ師匠、その弟子をいない者としようとするアサシンを狙うから、「大体からしてだ、仲間を見捨てる時点で減点だし……。時流を読めてないよキミ、私は強いんだから」
その淡々とした女性らしからぬ言葉にさすがに眉根を上げるしかない。そうして軽く改心した様子でうなずき、その次には矢継ぎ早に贈り物や、そうして何より錬金術で話をしてしまう。悪いという言葉を知らないようなその……。
「それでさそれでさぁ……、王都は今錬金なら農業なのよね~」
「へぇ………、そう? そうなの。王都では流行りが違う――。だから頭を悩ませてて対策を……、錬金術って向こうでは農業分野が期待されると」ふむふむふむ――。
結局は少しずつそのサークルが狭まってしまうんだよ。
師匠は気づいているのかどうか、それは弟子の僕では分からないんだ。やめさせようとするがコイツすっごい面倒で。
明らかにぶしつけで軽いのに気を引くのだけは得意と言うか、マイナスが多いくせに妙に取り入ってしまう。イライラさせる。
いま不機嫌にさせたのにナゼそれで師匠は―――。
「そう……、そうなの――? 色々な情報、ラドライナ―さん、アナタのおかげで勉強になる……」「そうかい? じゃあ良ければさぁ、一緒に話さないかなぁ……? こーんな辛気臭いのよりさぁ、アッチに仲間いるんだ、明らかにキミにはあってるんだよ~」
「あぁいや結構――、そう言うのは趣味じゃないからね……」
「いやいや……、まぁでもね、全部全部ここじゃなんだからさ~って……。一回は離れて気を晴らさないかいって?」「ふふ――、そう、そういうの好きなのね……、君達は」
そう一言だけで――「えぇ~? そうかい? でもだからこそだろう? 何せむしろ……、あの付きまとうのの前で弱音吐けるのかなぁって――」
「……――」
唇を噛みしめた。
「師匠、師匠――ッ」
「あぁ……そう………、うん――。でも責任がある、何より楽しいんだよ。いらぬお世話かな……」
否定したが、でもだけどもそのままだ、この逃げられない歪みの中。続く戦い。血でべっとりと濡れる剣を切った。




