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「空かよ……どうなってんだ。あとなぁ……、なんかココよぉ血の臭いがしねぇかよ」「分かる分かる……妙に臭うよな。誰かが死んでたり……?」
探してみるが、それらしき物はなし。臭いが一層強くなるとかさえないし、木製の部屋をきしませながら探るが。ただただ場を埋めて来るだけの臭い、そのツンと生臭い汁気をともなう感覚。
だがもう無視するしかないねと。
でも終わらない、いつしか鼻血を出した時みたいになり、何か膿のような塊がつっかえている気がするようになる。内部から血の味までする気がして。
それでも気にせず行くしかない、ずっとずっと付きまとうと思えば楽勝だ。それで歩いて出たのは大ホールで、血の臭い。
大量の穴らしき部屋が並んでいる
「そう……、だけれども、これ以上探すのはやめにしましょうか……? 恐らくここから先へと更に繋がっているんだ」
ひっそりと覗く私のその言葉に全員がうなずく。すぐに後退し「ふむふむ……、なかなかの成り行きだぞ、よ~く頑張った! お前たちの部隊はかなり進んでいる、もう休んで良いぞ!」
「ふぅ……、ふぅ……、そう……、どうも――」
私自身もうクタクタで、すぐにでも横になりたくなる程。剣の手入れは欠かせないが、それでも後回しにした。
ラティール、ラティーール……。ラティール……。
外で声がかすかに聞こえる、きっと誰かが、地獄に行くんだ――。
そう……、でもさすがに2日かけても全く無理だ、進まない。敵が強いのもあるけれど、あまりにも恐ろしいから――。
結構な面子が精神の不調に陥っている、分かる……。痛い程に。
しかもこのまま第3隊は入ってマッピング維持をするというのだから最悪。この歪みで夜を過ごすらしいと、目の前ではその者達が洞窟へと入って行くが。
「なんだよ、なんだ。こんな所で罠かよ、ワナ――」
廊下で転がって来るお決まりの岩に数人が巻き込まれて、誰も彼もが逃げ惑う。何人かは弾かれ潰された。そして逃げ込んだ部屋の先には――。
「ぐぁあああ!? ぐっ、くそ、なんだ、なんかいるな――!?」暗い部屋。手を分厚く噛まれた、歯が突き刺さったであろう感触、硬い硬い、肉へ刺さる2本にくわえ込まれ。そしてしゅるる……っと先にも絡みつくのだ。
闇に引かれそうになる。
輪っかのように、蛇だと思った。すぐに毒なら外さねばならない、だが見てみれば「顔……だと、人間の顔だとぉおお!?」
人間の首から上だけがある、笑ったような顔、良く分からないが首下からは剥き出しのニクが巻きついて。締め付ける。
こいつ等はなんなのか、ジンメン蛇なのか、それともゾンビのような――。
「あぁぁ……なんなんだ、なんなんだこいつ等はよぉっ――!?」ぐべぇ!?
振り落とすが、大量の敵に飲まれてどうしようもない。生首が飛ぶ。
絶え間なくゾロゾロと湧きだす敵が、影が生み出す数々。時折ふと聞こえる赤ん坊の声、染みつく血の臭い。
「はぁ……はぁ……、敵がいても、なんか違う感じするよな……」「あぁ、それでコッチは部屋に何か剣が……、剣が刺さってるぜ」
その硬そうな床に、地面たる岩に見事に突き刺さっている剣は、それは薄汚れていた。
部屋の中は岩場であり砂時計みたいにクビれた柱がゴツゴツと、そこにまるで引き抜くのを今か今かと待ちわびるような光景。
誰もがこの地獄のダンジョンで顔を見合わせる。遠巻きに回る、すると独りでに……。
「天井から腕が――」
おぃ逃げろ!
逃げろぉおお!?
天井を巻き千切りながら現れた大きな腕、それが突然その剣を振るい始める。
大振りの一撃に悲鳴が上がり吹っ飛んだ。しかも無茶苦茶だ、いくつもの腕が降って来ていた。剣は一本じゃなかったのだ。
正に剣だけが戦っている、もう乱舞だ。斬って当てるというより殴ってるし天井のウデ同士がぶつかる事すら。
気配がある場所に無造作に斬りかかる。
「デーモンズ・ネスト。本当の殺戮器官、これが……、魔王のルールを配した根城で」
ぎゃっ、ぎゃあ―――!?
豪打する剣に必死に抗わねばならない。だがもう何でもだ、上から一気にゴキブリ叩き、ぺしゃんこにされる。その手のひらには鎧が突き刺さった痛々しい痕。
「なんとか倒せ、こいつらを倒さねばどうにもならないぞーー!」
精霊律やら弓やらで手の根元となる部分を狙った。それが簡単でも難しい、腕が邪魔する、どすこい押し出し、人を押しつぶしながらドアを塞いでしまうし。
籠る悲鳴が。なんとか処理したが天から垂れた異質の腕は消えないし、殴られて飛び出た内臓も握られたまま。だが……その先にしか入り口はなくて――。
「ちぃ……、大したもんじゃねえ、もう帰りてぇよぉぉ……」「今回もヤバそうだよなぁ……、さっさと部屋を見つけないと終わらねえよ、この魔王の鬼ごっこ城はさぁ……」
それはただただ、バカにされているとキレる者も、遂には癇癪を起こし……「あぁぁ、クソォ――!? おかしいだろ、なんだココはァ!? 大体なんで外から行かねえんだよっ、ショートカットだろがァ!?」
そのまま木枠の窓を叩き折って外へと出てく荒ぶる男。そこは確かに木々に囲まれている、異変はない。敵も襲って来ない。
赤く澄んだ世界。
朱い紅い銅い、とても赤い――。
それだけ。
ただふと、1つ影が湧いたから。
真っ黒い人影が走って来た。走っている、走って来ている、ベタっと張り付いた、何も無い所で、そのままだ。
「おぉぉ、なんだぁコイツは……、へっ、へへっ……。脅しかぁ……、そんなのビビるかよぉ……っ!」
硝子越しのよう、目の前で挑発して、脅して、ツバを吐いても不動。でもその戦士を追って来るから、少しでも動けば追って来るのだ。一定するとパントマイムのように、止まって。その眼はひたすらに追うから、追い続ける。
そうしてイラつき武器を持ってその無色の境界へと近づいたところ、ゾワワ――――――っと大量の――。
木々を揺らす音、更に更に更に、ベタベタベタ――っと「確かにココは辛い。何か本当におかしくなりそうだよ」はぁ……はぁ……。
闇が追って来る、森の向こう。動いている。
遠くの闇が、もう近くの闇で。一回り―――。
いなくなっていた、誰も彼も。赤い世界。
そうしてまた朝が来てしまう。
そんな夢みたいな世界の。
誰もが陰鬱な表情で、勤務時間は3交代なので8時間程度だが、実際問題かなりキツイ。人数が如実に減っていくのも――。
でも私は……。




