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「そう、大丈夫お弟子くん、少し手放すからね、少しだけっ……」「エ!? あぁ、はい、でも……――」

 頑張ります……!


 数が多い、これも歪みか、それとも恐怖か。ひたすらに混乱する仲間と何よりその弟子くんを見て剣を握りしめた。

 雪崩れて来てるのを少しでも早急に遅らせなければならないと。

「そう……、任せて欲しいよ。用意はあるから、前に出るよ、ジタバタしないで――」

 大胆に一匹を斬り殺して精霊律を繰り出して私、「猛応、火槍の盾陣ファイア・フェンサー!」この場所では不思議と全ての属性が使えるのだ。

 広域に広がる炎である程度のクチ減らしを行う、一番簡単に雰囲気で恐怖させるなら炎が一番。風よりは使い勝手が劣るけれども20相手を15にでもしてやれれば――。


「よ、よし、今ですよね。はぁ……はぁ……!?」「そう……、お弟子くん固いよ――。全然倒した事あるばかりだ、しっかりすべき!」

 ついて来いとばかりに剣を振るう師匠にうなずくが、弟子のその動きが鈍い。それだけじゃない「うわっ……うわぁああ!?」

 突き刺されて転がる1人。その分だけなんとかフォローして戦うが全くもって師匠テンションが上がらないのよ。前衛4人の中で1人だけ前衛ポジション、そんな訳の分からない状態で7体を一気に引き受け、一人突っ切る、倒す。払いきる。


「ふぅ……、ふぅ……、そう、なんとかなったみたい――」片付けた、結局は13体も。そのままドアを開けて、思いっきり、腕を折っておいたの、コレで良いだろうね。じゃないと次は後ろから斬られるか襲われるから。

 すると他の部屋からも声が聞こえてくるのだ、神妙な。

「おぉぉ、歪みの宝箱か……っ。いや、宝箱にこんな緊張するのは初めてのとき以来だな――」

 息を飲む様子。いつもは宝箱なんて見たら一目散に駆け寄って、それで切った張ったの争いまで起こるのに。誰も開けたがらないね。だがしかし一人は意を決して――。


「うっひょぉおお!? 結構良いのあるじゃねえか、いやマジでこれは売れば大したもんに――」

 その喜びように唇を噛む男達。かんばしい雰囲気ではないと、それにチラホラと死者の報告も。

 あれでか……。


 そうして次のエリアへと移動する1団。どうやら部屋には何もなかったらしいから、次は下への階段みたいだ。とりあえず小分けに入って行く。

 その地下室っぽい薄暗い場所は、ぼぉ……っと、火の光が漂っていた。

 しっかりとした蝋燭、灰色レンガが照らされて冷たそうに燃えている。ワインも置いてあって。


「はぁ……はぁ……、はぁ……、助けて――」闇の中で、それは声。

 近づき、磔にされているのは女で、囚われているらしいが、それは……

「あぁ……、助けて欲しいの、助けてお願い、ぐす……うぅ。慰み者にされてる」

 だがうん……。既にもう化け物と化しているのだ、体には鱗が生え出てきていて無くなった両脚らへんからは白い腕のようなのがいっぱい生え。あと臓物のような物は本当に臓物だろうかと――。

 こっちを見たね。

 だがそれでも敵意はないようだし、少しの理性か言葉も。いや、どうなのだろうかと――。


「おい、殺そうぜ……」「いやなんでだよ」

「だが置いてけねえよ、だってさ、後ろにこれがいるんだぜ――?」

 その言葉にうなずく。正直、何かの恐怖心で人を殺すなんてよくある。

「ヤメてよ……、ヤメなさい……っ。わ、私を殺そうだなんて、それは駄目よ、ダメなのっ。なんで今まで持ってきたか――」

 だが、無慈悲にずぶりっと突き刺さる剣、そのまま心臓は止まった。「ぎゃは……ギャハハハっ、私が死ねばどうなるか分かるかっ……、なぁ分かるの――!?」

 突然の妙なハイテンションに驚く。大男どもがざわつき、弟子くんの方は耳を塞いで。死んだあとも喚き続けるその女。


 笑い、笑い、笑い続ける「何もないぞ、何もない。そうだ……なにも無いんだよ、アハハハハハ。死こそは何も無くなったぁ……――、はぁ……はぁ……そこにも行けない。私はこのまま、この―――」

 あっ……、アァァアア―――!?

 笑い続ける女が上へ上へと。無音で空中に浮かんでいく。理由が分からない、精霊も物理も、魔すらも、透明な何かでさえ認められないのに。

「いやだ……殺してよ、お願いだ、殺してぇえええ!?」

 情けの剣が突き刺さったまま、そのまま上へ上へと行って、顔が固定された、苦しむ嗚咽。天井に押しつぶされて肉塊になった。そしてゆっくり自然と肉になる。骨が出る、地に突き刺さって――。


 絶対に放してくれない何かが、放してくれない。血が大量に滴っている、そして終わる。落ちて来た剣の甲高い音が響いて、誰もが恐れ。


 そのような人間が所々で見られたらしい、歪みだ――。


「延々と続くのか……、明日もいるんだな、あの女はきっとさぁ……」

 血だまりに手足がしびれる感覚。空気を吸いたくない、感染したくない。

 次の部屋。結構時間がかかっていた、やはりここは誰もが怖いから、たくさんの扉とたくさんの敵。申し訳ないがダンジョンなんてのとは全然違う臭いと空気感、そうしてイヤな気配。


 扉もゆっくりと開け放つ。何もないか……、しっかりと上下を見て。もう一度繰り返して。

 そして押し寄せる戦い。「はっ……せいやっ、そう……向こうは任せたからね、イケるよね――」

 そのキングスパイダーを斬り飛ばして、糸を思いっきり焼いてやる。ただ向こうが相当に使えないの、だから私はその上等な椅子を蹴った、ジンメン犬にヒット。残骸で他を散らばらせてやるから。

「そら……、どうした……っ、しっかりと戦わないとヤラレるから、しっかりしなさい!」


 残った私と3人、戦いが激しくてなかなか進めない。師匠たる私が突き進もうとしてもそう簡単にはいかない状況、それは無数を生み出す影という災厄。

 影、それを止めるには辿りつかねばならないが進まない。剣を振るうし精霊を跋扈させ、人法をも使う。

 だが師匠テンションが上がらないから、それもこれも……。


「はぁ……はぁ……はぁ……、それでね、影の消し方、覚えておいてね――」

 私はその、魔物を湧かせる影へと手を伸ばす。それは自分の影を使ってだ、影らには触れられないから。

 文献通りだ。感触があるのだ、気持ち悪いそのナマの感触が。魚の刺身をつかみ取ったような……動くナマナマしい……。

「悲鳴を上げている……、はぁ……はぁ……、コイツは――」

 その陰影は何か絶望的な顔をするのだ。炎に照らされた私の腕が掴めば絶叫するような口の動き。その臓器を握り潰す感触。あがく、あがく、あがく、―――。


「はぁ……、ふぅ……。そう……――」やるんだよ……?

 青ざめたカオ、ため息を絞りだすが、頭を抑えて震えるだけの弟子くんを見やるの。そして私は見つけたはしごを見た、「なんだろうね……? そう、それで上に続くのって……、この上は地上のはずでしょう……」

 とりあえず弟子くんという緩衝材で後ろを固め、上がって行く。だが注意して登っていけば建物だ、空である。何か窓から差し込む空が見えるから。

 這い上がってみれば窓の外に広がるような森。そうして夕暮れのごとく染まる世界。その見張り小屋のような部屋からは、そこからもしっかりと続きがあって洞窟が続いている。

 なんとなくだが納得。


 ダンジョンだ、全てを無視した世界の歪み。

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