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「そう……、王都までこの調子ならね……? あと半月位だろうお弟子くん――」
この日も歩く。なんとなく風の強い日だった、草が揺れている。
「はぁ……はぁ……、だいぶと歩きましたからね。確かまだちょっとオーバーくらいなんですっけぇ? ちょうど良いかもしれませんね、確か……」だがその時、鳥が羽ばたいた。
大きな大きな光。それが降り立ってきていた、それは。その姿はまさかの……。
「あぁぁァ―――――――――――ダメだぁあああアアア!?」
師匠、師匠っ……、僕は貴方に伝えなければならない、あい
すさまじい爆炎を上げて、それは見事に捻じ曲げた。その降って来る光にはカオが。
ドォオオオオオオオオオ―――――――
「そう……、あったね村。とりあえずさっと流そうか……、ねぇ? ふふふ。ここなら軽く情報さえもらえればね、依頼はもう……」
少し急ぐ道すがら、小さな村だった。美しい少女、師匠となるには若すぎる少女が森で笑う。綺麗な声を響かせる鳥と狼と、なんとなく遠い感覚。
「そう……、それでね? どうしたのかな、お弟子くん? さっきからずっと黙ってるけれども」「何か、嫌な予感がします。どうしたのか……この匂いは、この感触は」はぁ……はぁ……!?
「そうかな……? 何も分からないけど……」どうしたのか弟子くんは。
その異様な気配のお弟子くんに眉根を上げる。だが気づいていなかった、ここから地獄に行くのだと。
がちゃ……、ガランガラン「おぃなんだよ……全くようッ!?」いきなり聞こえたのは苛立ちの声。
だがすぐにその言葉にうなずく。どうやら待ち伏せだ、すでにギルドの中には騎士達がいたのだ。まぁ騎士がいること自体は珍しい事はない、今までのギルドにも7割がた居たから、ただ……。
「そう……。でもなんだろうね、こんな異様な雰囲気になってるだなんて」
「それなんですが、どうやらダンジョンが現れたようなんですよ、しかも歪みのダンジョンが……。あの本物です、遂に本物が現れましたと――」
ふぅぅぅぅぅ……。
ふと隣にいた、追い出されただろう受付っぽい少女のその言葉に驚きながらも、納得。誰もが戦慄している、申し訳ないが一大事だ。椅子にうなだれ冷や汗を流している姿、受付を済ませと促されるものの嫌がる多数。
今は方々の村や町まで回って人をかき集め回っているらしいね。
「逃げられない、か……」その挙動不審な弟子を撫でてあげる。
大声の喧騒、抵抗の悲鳴、溢れるそこにちょうど大仰な鎧を着た化け物がやって来るのだ。かき分けて歩く、ズンズンと蹴散らす。恐らくこの国の騎士団かな……? その長たる男。しかも貴族の息子とかいう与太ではない可能性が高いと――。
気が立ったコブシも一目でほどけるほどで。
「あぁ………、まぁ知ってはいるだろうがな、オマエたち。歪みが発生した。我がヴォルウッド領地に魔王直々のダンジョンが現れた、あのダンジョンの中のダンジョンだ――」
「そうである……、それで規模はかなり大きいな、あれはもう歪みダンジョンだと判明したよ」
更に隣にいたのがしゃしゃり出る。それは僧侶らしい小ぎれいな服装、かなりの上層なのだろうか。その装備自体からも力の波動を感じる程で、「既にな、辺り一帯に魔族の活性化がみられておる、我ら僧院でも対処しておるが残念ながら巫女の数が絶対的に足りない。収穫も重なっておるしなぁ――」
命令権もないし発言権もない、明らかに場違いのその異物の声にも、もはや落胆の声一色。誰もが息荒い。どうやら今しがた数日前にダンジョンが落ちて来たらしい。
こうなれば当然のように僧兵もギルドも、この時ばかりは少々のいざこざもお呼びじゃないみたい。
「では、今からギルドは総出でダンジョンを狩る。魔物ではないぞ、ダンジョンを狩るのだ……」
「そうよな、これはそれ自体が人類の敵で、そうしてギルド最大の目的であり使命だ!」
それでもちろんだが……逃げれば命すらないと思えよぉ――。
オッサン達のマジ顔、かなりピリついた雰囲気、師匠と弟子ともども真剣な表情で。そして焦燥し、手に汗をぐちゃぐちゃにして、「あぁ……、それでよぉ……。はぁ……はぁ……、いや。当然あるんだよな、ギルド本体からの支援は――」
「当然だが用意されている、ただ……、時間がかかる。英雄クラスはいなかった――」ただしだ……。
そうして入って来る奴らに眉根を上げたの。遅れて来たのはほとんど見ないが有名であり、誰もが声を上げ――。
「あぁぁ………おぃおぃオィ、こんなクソになんで……っ」「オィ帰れよォ――。こんなクソと仲良くするってのか、冗談じゃねえよぉ!?」
「何を言うんだ……。我々は王からの勅令をもらって捜査してるんだぞ」「むしろ我々のようなプロが必要なハズである、この雑種の集まりが何を――」
「それで後ろからバッサリ行くんだろぉっ……、お前らみたいな暗殺者に何を――ッ!」
場の空気が一気に悪くなる。それは僧兵よりも更に洗練された上流階級でアバンギャルドな服を。彼らは暗殺・傭兵ギルド。正確には――。
「とにもかくにもだ私は王室預かりだぞ愚民。王なる鷹よ、グランイーグル。希少なる自由の貴族、雑種なき純潔のギルドだからなぁっ……!」
その見慣れない、されども最も悪名高きギルドに誰もが反吐を吐く。奴らは貴族の子弟などであり、教養と礼儀作法を持ち合わせども、その継承順位が低く、行く場のない高尚なるクソが入ったりするね。
分からないという顔の弟子くんに向け……。
「そう……、ひとえに、嫌な貴族や商人を闇討ちする事でも有名なの……。国もその時は動かないし一切証拠が出て来ない、当然だね……? あれは正に金を抱いたコウモリだから」
戦争の火種で、そうして駆け引き好きの生ける面倒事。だがしかし相当な売れっ子だ、何せバックの金づるに僧院までもがついている。国家からも支持され、まるで殺しのライセンス。
この世界の宗教家にも貴族階級にも懇意で、そうして誰からも切れ端という、そんな愛されない猟兵団なのだから。




