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「うぉおぉ、正当なる騎士だぞ、モンスターども、覚悟しろーー」
「あぁ……、お坊ちゃま。いけません、そんなにはしゃいでは、坊ちゃまーー……っ」
駆けまわる庭。青々とした草が生えていて静かな大地と、そうして立派な石の廊下。しっかりと構えた邸宅。
僕の家は貴族だった。古参でそこそこだったのに、近年ではお飾りになりつつある豪族。
家では特になんの変哲もなく、メイドや執事や、その他の使用人と共に暮らしていて。
「ねぇ、アッチよ。あなたの坊ちゃまが逃げて行きましたよ。気をつけなさいな、3男なのですよ」
僕の事を思ってだろうか、それとも憐れんでか。いつも一緒にいてくれたのは彼女1人だ。それで僕はいつもいつも、彼女の気を引きたくてしょうがなかったんだ。
「もう、そんなにはしゃいでは……っ。はぁ……はぁ……、アナタはこの家を背負っているのですよ、お坊ちゃまーっ」
「まぁ……、そんな事ないわよ。良いんじゃないかしら」
アラ奥様――!?
だって……その屋敷ではあまり、僕自身は興味なかったのかもしれないって、そう思う。もう唯一の存在だけは揺るがないから、その隣の……。
「オィ、3男。どうだった」
「あぁお兄さま!」
「でもでも、やっぱりお前はどうやら資質にも能力にも欠けるらしいなぁ、ふふふ。でもまぁ良いさ……端数だもんなっ」「あぁうん……、お久しぶりです。もう1ヵ月ぶりなんだね!」
「あぁ~~……、そんなにか……? ふむふむ、オレ頑張ったなぁ~」
彼が長男であり、最も楽しい時期だった。だって……、家族にはほとんど会えない。だがある向きから考えればそれでよかったのだろう、権力争いからも遠ざかっていたから。
そうして彼がいるという事は……「あぁお父様、それにお母様もっ、お久しぶりです! やっと会えたんだぁ……」走っていってしがみつき。
「あぁ、うん――。 だがやはりなぁ、一番上の子がそうであって良かったなと……。これで何も遺恨がない、何も――」
「そうですねぇ。それではあの子の発芽ですがね、アナタ、そろそろ本番へと……――」
自分とは違い囲まれている少年。自分とはそこそこ似ている、いや大分似ているハズ。でもだけど……やはり何かが違う兄。
それは気配と言うか妙に艶めいていた気がしたんだ。兄がでも、それらが休みを取る時はまだチャンスがある……、だって僕はこの頃はね。
「あぁ……母様母様。あのねあのね、僕は将来やっぱり……」「アナタはね、自由よ、大丈夫、」それでアナタ? 正当なる騎士としての――それは……――。
今回もあっという間だったな……。
でも見送るしかない僕は「なんだ、この剣。お前はまーた騎士ごっこか。だからお前は所詮さぁ、永遠に正当になんてなれないんだってぇ。その分だけ俺が活躍するからね……」
消えて行く、3人共が。
そうだよ俺一人だよ、俺がこの家を盛り立てるんだよ、もう一度っ……っ!
――。
―――――。
「さぁさ、お坊ちゃま、行きましょうか。ではこの私がアナタを立派な騎士にしてみせましょう」
僕に唯一ついていたメイド、名前は確か……。
彼女は何気に強かった。よく遊んでくれたし絵本も読んでくれた、そして何よりも美しかったから……。
優しい彼女の色はもう、思い出せないのだけれど。だけど記憶に一番あるのは、兄が僕にそれを教えて……そうしてメイドはそれを――。
「こうやるんだよ、こうだぞ――」「へぇえ~、こうかぁ……。こうなんだ兄さん、でもなんか兄さんだけ出てるねぇ」ふふふ。
不思議だとは……どうだろう。良く分からないが正当なる騎士になるという事をもって兄は、一子相伝らしき何かを教え込まれていたのは知ってる。
それを時折こっそり自慢がてらに教えてくれるのも楽しみで楽しみで、そうして唯一の彼の目撃認識だった。
この業は彼の物だ。彼の生とも言える。
「あぁ……、ふぅ……ふぅ……、でもやっぱ全く出ないなぁ……。それなんの力なんだろうねぇ兄さん」「あぁ……、特別な力だよ。何せすんごい努力してるからな、俺は。ただお前は全然なんだな……、はぁ……はぁ……、じゃあやっぱりアイツまだ……」
その言葉のあと、違和感を逸らすように、空を漂う視線が。問題はでも――「ねぇ……、兄さま。それに何かまた聞こえないかな? 赤ちゃんの声」「あぁ、うん、いや――。はぁ……はぁ……そんなの聞こえない、聞こえないぞ俺は―――」
風に飛ばされてきたような声。その叫び。聞いていると何故か妙に、そして「あぁ……、あぁぁ……」兄の髪の毛が広がって行くのだ、ドンドン生えて長くなっていく。驚いた。
だが止まらないのだ、小さい僕には声を上げるしかできない。ミシミシ……ミシミシ……と頭皮が、血が、するとすぐに母さまがやって来て。
「大丈夫っ? 大丈夫よッ……、さぁコッチへ!」
連れて行かれる。その形相は今でもはっきりと思い出せる、まるで僕らを睨むかのような。
あんな者たちはもう放っておくのよ、何も心配しなくても良い、良いのよ。アナタは……、アナタはこの世界の―――。
消えて行く姿「お坊ちゃま……。さぁ私の元へ」メイドはいつも一緒だ、温かい。彼女は驚かせない、何も怖がらせない、そうして何も教えない。
彼女は一人違っていて、何を言ってるか分からない事が多いし。その携えた剣を握るメイドは。
「そうね……、そう……。アレが言っていた事は本当なのでしょうかね、」勇者が世界を。ならばこの子は――。
その頃から何かおかしくなる。
ふとある日……。珍しい事にお母様を見れた。隣にはよく見る騎士団長がいて相当に強いらしいと。
勇者を……、ですが警戒せねばなりませんぞ奥方。
魔王、ですわね。やはり来るのでしょうか、あの光が……。我らを飲み込もうと光。
大人達が険しくなる場面が多いのだ。取り付く島もない。
「ねぇ~……? この頃なんだか雰囲気がおかしい気がするんだ、君は何か知っているかい?」
「坊ちゃまは異世界、というのをご存じでしょうか……」「いせ……かい? なにそれ」
―――――――――――。
「もう勇者は生まれなくなっているのですよ……。だけどもし魂だけ……、を使えれば。もしかしたら。そう……、何せあの勇者が生まれると……―――、奪い取りさえ」
そう―――――。
ですからアナタは大丈夫ですよ。
ふふフ。
その時の言葉はイマイチ覚えていない。微笑むあの人の顔を思い出すたびに、記憶が薄れていく。
純粋なる勇者は悟った。
真なる魔王は既に人間が隠した――。
それを開けてはならぬ。
そして、その日は快晴だったんだ。僕は昼間には空を見て過ごす、2つの月。城下から聞こえる喧騒、僕たちは一度も出られない、だって高い高い壁があるもん。
あぁ~……やっぱり邪魔だな~~、あの壁。
いえ、あれは大事な物なのですよ、坊ちゃん。遮らないと。
そう言えば今も不思議なのは僕らは誰一人として民に会ったことない事だ。他人を見る事が禁止されていた。きちんと納税されるのに、誰も家の者以外など見ない。その代わりなんでもあったから、その花畑も小さいけども綺麗で。
どうかなぁ、――? 綺麗でしょう? お花で冠を作ったよ、今回は結構自信作だ!
あら……、良いですね? 綺麗ですね。ふふふ。
「だけどね……、ねぇ、出たいよ僕は。やっぱり絶対出たいの、すぐにでも……」
「どうしたんです、坊ちゃん。何か嫌な事がありましたか……? そう、私がなんでもアナタを満たしてあげますよ、フフフ」
「ううん、それじゃ駄目なの、だってね、いつか外にでて僕ね……。それで騎士になったら君を。僕はキミを迎えに来ようと思ってるんだもの」
「あぁ……あら……。 本当でしょうか、坊ちゃま」
その冠の花を彼女へと。でも出れないと言われていたから、何も外へは持って行けないと。だけど僕は子供だったけども真剣な目で彼女を見る、それは噓偽りもなくその真の……。
「僕が必ず連れて行くよ、外の世界へ。正当ではないかもしれないけれど、キミと一緒に外を知ろうと思うの。そして強くなって君だけを守って、僕にはキミが死の」
あぁそんな――、今来る訳が――――――――――――。
その言葉。慟哭の瞳。
振り返ればその時、空からの美しい光が包みこむ。そして飲み込む、満たす。壊す、夢から覚ます、そして
歪む――。




