38
師匠と歌を謡った。
誰一人としてはばからないような高原で、陽射しの中。
「あるかのような~、無かった日々に~~ぃ。光を求めるのは……、それはアナタにーは、さようならの~~ぉ~……」
木々に止まる鳥たちが見つめてくる。
一緒に山を歩きながら大声で歌う師弟。旅人たちの里は互いに遠く離れて、誰もが何も、そうしてあまり歌をも知らない。
だから誰かに歌を伝えるのは良くある話。数少ない自分らしさの一つで、故郷を……。
「へぇ~、そう。そんな歌があるんだね、君の地方には? ふふふ。良いじゃない……、でもなんでこの歌は、過去の恐怖って名前なのかな」
「分かりません、だって皆適当に歌うんで……。僕も母うぇ、お母さんが歌ったものを覚えてただけですもん」
この時の民謡なんて、はっきりと駄作が多い。作曲とかされてないからダラダラ喋るのにテンポ加えた物が多いし、練磨もされてない。作詞のプロもないから重税が嫌だの、子供が寝小便しただの。ブドウ美味しいれす、あとリンゴも美味しいれす。だの。
そんな言葉を少年がひとしきり歌ったあとだ。うなずくと、今度は私が彼に教えてやるのだ。詩を。まだ見ぬ世界の言葉を。
「この……翼に、とり……のように……。白い」
わぁあ………――――――。
驚いた。彼女は神秘的だと思っていたが、こんなに………。
どこからだろうか。
こんな心を揺らすすごいメロディーを知ってるんだ、歌詞だってバッチリで。聞いた事ない言葉が時折入って来るけどね、でもやはり彼女を見ていると何か『奥』が違うから。洗練された物を持つ人、全く違う何かを感じて震える。
でもどうだろうか……、そう、この永遠に知る事ない、失われた詩は何か……。
私も何度か歌ったことはあるけれどね。だけどそれはあまり生への疑問とか、必要とされたいだとか、生きる意味だとかナルシズムな葛藤。そういうのは受けが悪かったな……。
でも恋愛は良い傾向で、民謡も良いのか。
しかし著作権とかない世界にまで来てしまった――。もう覚えてても意味もないけれど。それにあまりアチラの文化を持ち込むのもなって……そう思っていて、あまり……。
パチパチパチパチパチパチパチパチ――「わ~~……なんか、なんかすっごく良い曲ですね師匠~! まるで聖歌隊のような……っ。僕もっともっと歌って欲しいです師匠、もっとぉっ――!」
野山に木霊した。
闇が降り立ち。
夜のとばりに、タキギの前での錬成。
「えと、ねぇ……。そうだよ。一応だけれども遠征してね……、それで色々な素材を得たから、だから練磨してるんだねぇ……」
赤い炎の鼓動、闇を照らし。黒の世界にぽっかりと黄色が間借りしていて柔らかく伸びる陰影、揺られながら私は剣を擦る。
弟子くんは興味深そうに見ていて。眠れない少年、確かに至極珍しいだろうし、こんな事をしている女はね……。
「師匠……、まさか毎晩やってるんですか、でも女の子にこれ楽しいんでしょうか……」
「そう……、そうだね。でもね、古びた感覚に答えをくれたのは、これだけだったの」
それはゲームやテレビやスマホや、ましてやスポーツすらも少ない世に墜とされて。残ったのはこれだけだった事。手から伝わる僅かな違い、それは明日へと繋がる息吹だと。
理知的な事を忘れないことは自分を守る事。
「それで錬金にはね……、大体3つあるの。まずは突然にね、いきなり武具や道具を作り上げる事、錬成。これが一番驚くだろうな……。そうして2つ目は既に練り上げた物に対して更に何かを足す仕事。それで3つ目が研磨錬金で」
水の音、基本的なインゴット生成などは省いたが、こんな感じ。
だが1つ目は大きな大きな術式が組まれてなくてはならないだろうな。錬成体と呼ばれる出来立てほやほや防具が生まれる仕組み等はもう、それは国家作業であって。そして3つ目のが……。
「そう……、これが研磨錬金。結構無駄が多いから使われない。それにこれは属性とかじゃないんだよね……、うん、」物との対話になるのね――。
水をかけた。それで黒いのがほんのり光る、それが赤くなり、その岩のような物を刃先に当てて。伸びる黒の残滓、剣に削らせるように研いでいく「色んな素材を溶かして作るからな……、鍛冶に近いけどだいぶと違う、宝石法って呼ばれてて――」
その骨を溶かしたので擦ると、少しだけ色ずくの。エリマキの骨は人法感覚として特殊だと思っていたけど、やはり良く研げるね……、この質感は全然違うから。オーガはやめといて。
研ぐだけでなく、融合を目指すこと。まずは宝石という部類にしてゆっくりと研ぐの。これは実は質量が増えることもある技法で、削っているとは言い難いのだ。大事な様子見だって兼ねる。
「基礎でもないし推奨されない、でも本質が分かる――。信号が見えるんだよね。それでコッチがね大事な……。そう革命的な錬金人生そのもので……」よっしょと……。
ソレを取り出す。熱くしてドロドロにとけた溶液、うなずく顔。アイロンだ。ゆっくりと……だがしっかりと力を入れる所は入れて、混合と塗布をする、この違いを出していく。
闇夜に光る魔の光「すごい……綺麗、師匠が真剣で――」
うんうん、良い感じで……。私は白の髪を撫でた「じゃあね、例えばだけどね……お弟子くん? 火の属性がつく物を擦って、そうして水属性を後で混ぜたらどうなるだろう。例えばそれが振りかけただけなら?」
「分かりません。それは、どうなるんですか?」「そう……、それを調べるのが錬金術の大事な使命。そして何より世界でたった一つの剣が成り上がるって――」
繊細に様子をみる必要がある。ゆっくりと対話せねばならない、時を忘れて音や振動に集中。でもこれってひたすらに……なんでも良いからやってみる事。
馬鹿みたいだが研究ってそんなのなんだ。
魔石にしたりして研磨も良いし、ゆっくりと溶かしてたり粉にして振りかけたりも良い、色々やってみる。それだけ。
そう……、でも良いかも―――「それでね、今までの完成系が私の剣。そして弟子くんに与えているのがひたすらにレベルアップしやすい剣、それでね……、この3本目は。これは試作で別ルートとしてね――」
3本の剣を並べて見せる。どれもこの旅の最高の楽しみとして、自分で毎日のように可愛がる物で、「私はどれでも良いからいつか、どれかが芽吹くのを待っているから――」
「すごい……、えと、それは」
気後れする少年を撫でる、ソレは使ってもらわないと分からないと……、その刃こぼれを直してて、「あぁ、じゃあ、えぇ……。でも僕の剣があんなに毎日のように変わったのってこれが理由なんですね。師匠が作ってくれるのは僕の為のレベルアップで――」
「いえ……、君のはまだ妥協だよ。そう……そうなのね。剣の重みよりもまずは君自身を守る良さが必要だよ、もう少し剣とね……、自分が一緒になれれば。そうすればもっともっと違うから」同じに歩ければって……。
綺麗な師匠に、弟子がうなずく。自分が折り、焼き付く程に錬成されたその剣は鈍い光を発したから。
「ヨシ……、今回のは相性が良いね、うん――。しっかりと滲むの、美しく強くなるはず」
少し振ってみる。夜に舞う白の残滓、全てに秀でた少女。それで座ってまたひたすらに物との対話に戻る、丁寧に混合させて研磨で小さくなった物は塗布で戻し、埋めて――。
「これ……、もう鍛冶屋さんより本格的じゃないですか、師匠はすごい……、なんか」「うん、地味だね……? でも最高に面白いんだよ」ふふふ。
「いえいえ、むしろすごいんだ……。錬金ってこんなのするんだなぁ……」
あぁ――いえ?「お弟子くん……、キミの師匠はちょっと変わってて……。実際の錬金術師は座学派がほとんどで、でも過去には数人そういったアトリエール・グランデを行った者がいるよ……?」
それは大地こそアトリエ。誰もが夢をみて、そして諦める。体が頑丈でないといけない、色々な魔物が狩れないと意味がない。仲間も必要だ、お金もたんと必要。
でもその旅が何百何千もの素材を配合させていく、まだ見ぬ力を求め、遥か地平までを駆けて。折れても良い、折れても良いんだよ、「そう……幸せ。私こんなチートをもらって……。この世界を余すことなく楽しめるもの、弟子くん、それで更にこのね……」
ふと、それは眠ってしまっていた。
「そうだね……。私たち錬金術師はこうやって、少しずつ何かを解き明かしていくの、手探りで……少しずつね」
毛布をかけてあげる。まだ自分が手が届く程度のことしか知らないけども、それでもこの旅が続けばきっともっと知るだろう。
その日記であり、私の生きる目的となった本へと記入す。
世界でも一冊だけの本、私だけの錬金術書。そしてその成果である剣も。
「そう……、でもいつか誰かに……――。いいえ、もしかしたら本当にね、君にこの剣を預ける日が来るのかな……」
勇者になる。そう言った少年はまだ若い、幼いし弱い。でももしかしたら自分は歴史を見届けられるかもしれないと。
笑った。




