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「えっ!? そんな……、そんなのあるんですか、ホントですか!?」
「そうじゃよ~、この村はスゴイんじゃよぉ、どうじゃぁ? 何せアレは相当な使い手しか使えん、だってもともと火は熱いという性質をもっとるから」「火災は本当に面倒だからねぇ……、炎のマナが猛ると水のマナが駆逐されやすい。その癖木のマナが寄ってくる、消火がひと手間になるゆえ」
その時こそ歪みだが、ソレが使える人間はかなり少ない、だからこそこういった対策は称賛されるべき事。3か所とはいえ誰かが毎日変えてくれるなんて夢みたいな物なのだ。だからなにか……、そう、その火をトルコアイスみたいにして私のお弟子くんを嬲っているのね、やめてあげて欲しいな。だって……可愛らしい姿。戦ってるね、あぁ頑張って取れたねぇ。
ゼッタイこいつら旅人で遊んでやがるな?
「そう……、じゃあお弟子くん? 今までのおさらい。自然が応じるとされる『応』の種類を言いなさい」
「師匠、えと……、4然8応の、8応ですか、えぇと……」4つの基本属性を言って記憶に加速をつけ、指を折り「零、猛、突、影、黙、血、雷、壊。ですよね?」だったはずだよ、うん……っ。
「そう、合格。色に置き換えては、青、赤、鋼、黒、白、血、雷、壊(無)。とも言ったり。その他も含める事もあるけど。実はね……、うん、」残念だけれど、零の応だけは苦手だから私……。
そう言うと私はその、鼻息荒くコッチにしたり顔で炎を掲げて近づくオヤジ達に頭をかき。私も精霊法を使って見せるから。
我が求めたるその姿は美しき轟動。遠き流れ、近き渦、応えよ彼方、その先の果てまで。
「水・猛りの応――。どうかな……、お弟子くん。でも師匠はめげないんだぞ、よく似たモノで違うのは出せるんだから……っ」
そうして指から吐き出されたそれは、全く逆の所業だ。火の対極の水に、零ではなく猛を。つまりは轟炎たる力で応えてもらった水が出てくるよ。
それは水が焦げ臭い匂いまでする異常。ただ明るくもないし残念ながらこれでは街灯なりにはならないだろうけれど。夜だし見えにくいねぇ。
「そう……、確かに私は優秀で可愛いけれども、限界があるからねぇ。水に対する猛応なら作れる、でもこれじゃないかな、ごめんねぇ……お弟子く~~ん」
イタズラ顔で弟子にその師匠汁を飛ばしてやる「あっつぅうう!? なんだこれ、なんだ――。お湯とは違うんだ、なんかでも焼けつかさせれる水で」あっつぅう!?
ある種のマグマのような物である。村人達も熱さとその異様さに驚いている。
でもこれもなかなか効くので気に入っている応だから。そこにあったワラが水で延焼し始めた、炎を上げ始めるのを踏み消して。こっちは逆にしっかりと燃えて熱い、炎を誘導する水。
「そうでも、これは結局は水だね……。重力に引かれるから飛ばす事はかなり難しいし。だけども粘性はこちらの方が上、だからお風呂作るのには最適最適ぃ☆」
本物の炎の燃焼力には劣るけど、ただ水だけあって何かを沸かすのに非常に良い、なかなか消えないのだ。お風呂などの大容量のお湯が必須の時は必ずコレ。
色々と元の性質を持ったまま変な事ができる自然法、異世界だな~なんて……。
「おぉこれ……これはまさか、大地に吸収されとるのかっ……。こんなに熱いのにかい」「あぁ……精霊法ってスゴイ……。やはり自然とは偉大だ、偉大過ぎるぅゥ――」
なんまんだぶ、なんまんだぶ。とばかりに手を擦る村人たち。ふっふーん☆
「そう……、お弟子くん。これが基礎の基礎、8応の力、精霊は深いのよ……?」
これが基礎……、コレで基礎? そんな事を言ってる弟子にも何食わぬ顔で続け、「だからもしどれか1つでも応を極めるのも至難と言えるからね。でもそれがやれたら賢者で、そうしてそれは既に勇者だなぁ……」
「勇者で賢者……、これが水……。精霊律ってやっぱりすごいんだ、こんなにスゴイんだから……っ」
まぁ~、そう。でもね? ちなみに君はやれると踏んでいるよ。
そうして私も苦手を克服し、もし零の応を極めたならば。
それは因果すら凍ると言われる然界の奈落、水の然なら絶対氷度にまで達し。
かつ火の然ならば。
万物までもを停止し凍らせて燃焼させる、存在を溶かして再誕するとまで表現された、魂を引きずり込む炎が。
この2つの使い分けが可能になる。8応の極み、その一端に辿りつけるのだ。
「すごい……」
「うん……そう、見る事も聞いた事すらないのまでできる、それは正に魔法なんだよね」意味は分かんないだろうけれど――。
「あの……、じゃあその魔法は。精霊律だけじゃないんだ、師匠は魔法が得意なんですよね。確か3狂いと呼ばれる、3つしか流派……、いや流れでしたっけ。そんな感じの」
ただし、最難関と呼ばれるは魔法だ。そう魔法とはその上を行く。
「そう……、私は3狂い可能だよ」「えっ――!? ウソだ、ウソ――」
「いいえ? 私がこの世界に転せい……。そう……生まれ至った時に最も気になったのはそれだもの。かなり手こずったが、今も手こずっている――」
魔王、勇者、そして神話の世界。これに惹かれない人間がどこにいる。しかも本物の魔王が一度たりとも観測されてないというのだからそそる。
だが確かにこれは……、そう、この魔の法だけは戦慄の物種、今もその恐ろしさから抜け出せない。
「アレは異常、そう……、それは魔王のルール。世界を無理やり変える、あの魔力はほんの一滴でも万物を狂わせるの――」
そう言うと私は水を呼び出すのだ。すると楽し気に、そうして気軽にヒトに寄って来るマナたちが。だがもう一つの手に凝縮するのは歪みで――。
少しだけ、ほんの一滴だけ魔へと道を開く。するとカラダがしぼむ……まるでヒトの体が渋るかのように生が拒む。
その一滴を生成するのすらも拒否するような渋みを感じながら。鳥肌が下から上からボツボツと広がり。
「はぁ……はぁ……、そしてこの……、このイメージは一体どこから来るのかって」
さいなまれる苦しみ。叫び。だが生まれたがる禁忌のその一滴。どこか分からない血よりも深きからか、何かが開いてしまうんだよ、まるで知らない視界が開けようとする。
遺伝子よ、ヤメロ。
脳よ静まれ、叫ぶな――。
それを無垢なる水のマナへと垂らした。するとおぞましくも水のマナが奇形化して、助けを求めるように痛がり、苦しみ悶えて炎へ変化する。それは正に地獄。
どんな科学も知ったような世界から来た自分ですらも、その足が震えたのをよく覚えている。
ただ威力はすこぶる高くて、苦しみは何かへと変貌し――。
「そう……、魔を一滴垂らししただけでね、ココまで威力が段違いになれるの……。この深淵はいったいどうなってるかを私は、是非、知りたいから」
その炎を投げれば、ただの炎だ、なんの変哲もないように見える。噴き出したその怒りのような姿に弟子が恐れた。
魔法――。それは魔王が持ち込みし異形のルール。
紫の焔が天を焦がした。
そして夜、知ってしまったので、剣を持って歩いて行くのだ。闇夜のしじまに鋼を引きずる。今から大事な大事な仕事だ……、秘密にしなければならない裏のお仕事。




