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「そう、ではマスター……? 私に最上級のミルクを――」
綺麗なミルクが飲めるだろうな。手が震えているギルドマスター。
するとやって来たその勝利の一杯を掲げて、微笑んで見せるのだ。
「コ フィィ――……」
さんはい。と言わんばかりに、全員でなぜか発音を続ける。
コーヒーなどこの世界ではまだ珍しい飲み物だ。お父様に流行ると言っておいたの、黒いの振って……香りをばら撒いて、先駆者として見せつける私。
そうしてその幸せそうな弟子の、あれは……、あれボクの師匠なんですよって顔に勝ち誇りながら口にするから。
「いや~~……、すごかったなぁ、やっぱり僕の師匠はぁ~~っ。今日はもうすごい事ばかりでしたっ……、色々な事があったんだ!」
「そう……、満足そうだね、お弟子くん? でもね……、君も使えるようになるんだよ、この程度なら、私に師事していればなれるから」「ホントですか、そうだったら良いなぁ~~」
まぁそう、修行次第だね、お弟子くん。
良いだろう自然法も。
ハードパンチャー師匠がニンマリ笑うと頭をかく、異国での荒々しいデビューも悪くないなと「それで……ご機嫌な所にね、唐突なる師匠タイムです、お弟子くん。さっきの戦いの肝とはなんだったんでしょ~か?」
「えと……。うーーん。とりあえず、多分ですけど。全ての奇襲が上手く行った事だと、そう思います」
そう、戦いとは常に奇襲だ。
1対1、なんの流派か分からず、そしてどんな罠があるかも測れない。魔法や精霊法はどうだろう、暗器の可能性はないか。いきなりルールを破ってもう一人が後ろからはないのか。
そこで勝つのに必要なのは、静的で的確な思考、洞察力もあるが。
だがいかに自分のスキルを素早く、とりあえずゴリ押しできるかである。
そう考えて、「あぁそうか……、そうなんだ、まずは動かないとなんだ――」
駆け引きとしてまず『動』をコスり倒しておいて、その中でも静の洞察なんだ、考える力はそこからで「じゃあもしかして、素早く動き回ってたのって、お師匠サマ……、あの人の目を開かせる為ですか――」
その言葉にうなずくよ。合格――。
スキルで捻出した力を全て素早さに振ったのもその為だね。だからヤツは自力での目押しが得意だと見えた、看破できたの。正に力の権化だとも。
視脳の学とは縁遠いと感じ取り、だからこそ更に踏み込ませた。
「そう……、でもアレほどの駆け引きは、君にはまだ真似はできないね……。色々なスキルを持ち、全ての可能性を探らないとだ。でもいつかはやれないと……?」
「はい……、そうですね、はいっ……。それで、最大の疑問だったんですが。まさかと思うんですけど、魔力も使いましたかお師匠さま。それを使ってアナタは無詠唱にしていたのではって」
「へーー――。すごい……、キミはそこまで見れてたの」うん、修正、80点。まさか天才か。
そうしてあの時に一番の奇襲は何かと言えば、マナが動かなかった事だ。
正確には異様なほど高速に動いて誰もが反応できない速度で飲み込まれていき――。
「そう……、魔のルールとは歪み。だから魔を使えればね、詠唱のスキップが可能になるの、ただしだ……、ただし」
げほぉ……、おふ。師匠がせき込むと口のナカに残った血を吐き出した「それは決して、やるべきではないのだけども――」
魔の法3狂い(みくるい)。その螺奢。
それは自分の魔力機関に歪みを与える。こんなの人体実験に相当する行為、奇形化させるのだ、一瞬とは言え自分を。
ただどうしても実戦でやってみたかったのもあるし、一番使えるはずで。
「あぁ、あの……、僕は反対です、震えます。そんな力を自分の体になんて――」
「そう分かってる……、やらない。普段使いはしないから……。ただね、時が来た時の為に」ね?
うなずく。ただ青ざめている様子は解けないんだ。あぁあの……でもどんな時もお願いしたいです……。それはあまりにもだ、あまりにも――。
少しさすってやる。子供でも恐怖しうる魔の使用、正直あの場で看破されてたら問題になったかもだしなと……。
夜のしじまを歩く、そのまま各自の部屋に戻る。今回はおごりとなったから、当然あのドワオジの金で。
「あぁそう………、楽しいよ、やっと世界だ……。やはり世界に通じるものこそ――」
深夜に一人、剣を研ぐ。作りあげて来た自分の剣を必死に磨いていく。
私の手には素材を全て小さな石にした物、削る。
だってこの世界では何より落ち着く必要があるの。何せ5メートルのトカゲにスーパーアーマーだよ……?
少し震えていたが、この錬金をしていると心が安らいで落ち着いたし。
「そう……、やはり錬金は良いな……。それに私が超絶の美少女っていうのも……。はぁ……はぁ……、これほどの威力はなかったよ、新世界が開かれてるの。旅に一緒するのがお弟子くんでね、アレでちょうど良かったかもね」
いや………、あぁ……
でもチゥか
「ふふふ。それは少しだけ困ったなぁって……」
少し恥ずかし気に頭をかく。やっと震えが止まって来たので、そこに焼き付けをする。熱さを感じると安心し。
「まぁ、私は実質ゴリ押しでなんとかなる、なって来た……。世界の人々には悪いけれども、コツを掴もうとする時点でもう、かなりの基礎が積みあがっているから……」
ラスボスを倒した勇者に初級・中級魔法が使えないだろうか? いや、使えるだろう。向き不向きはあるとしても、使うという意気込みがあれば全ての要素が使えてしまう。
それは私も同じ。
かなりレベルが高い状態で始められるのでカスみたいな炎を出すだけなら1日だった。神童――。
「そう、女の子同士だともうダンジョンより研究メインだったりする事も多かったね……。中級はそれなりに苦労したけれども、明らかに魔法気質の子がいたし……」
だからその時に研究をドカッと一気に、心得まで推し進められた。天才の身体気質に乗ってコツを掴み、知識さえも満たせれば私はヤレル。あとは自動的に肉体をくれて。そう……、学者肌のロボット無双。実際ホントにそんな感じだ、私。
カラダの質がコロコロ変わっても悲鳴を全く上げない、そんな力に感嘆する。ただ問題は、何を以てしてこんな……。
「そう……、でもとりあえずだけども、この世界では何よりアンガーマネジメントも大事……。むしろ昔の自分が私を見たら驚くだろうな」
もう思い出す事も少なくなっている世界。
正直にいえば、昔は転生前の世界を羨んだ。カップラーメンが恋しい、馬鹿にされてたけど一人カラオケしたい。外を自由に歩くことにすら恐怖する等というその意味を知れば尚更だったし。
でもまぁ今は良い。焼け付く匂いが、ここで死んでしまうのなら全力で戦おうか。精一杯に。
「そうか……、師匠はあんな法を使うのか。そうか」
嬉しいのか、それとも悲しいのか――。彼は思い詰めた表情だった、だって……。
「はぁ……はぁ……――!?」
登ってくる気がした。この狂気を咎めないといけない。イケナイのだ。私は聖なるかな、私は聖なるかな、それは――。
「……――」外を見やる、窓を閉め切る。
逃げなきゃ……、はぁ……はぁ……、逃げなきゃ――。
追って来る。追っ手が来ている。
すぐ後ろからは草や木々があげる悲鳴が、その荒い息遣いが聞こえてくるのだ。それは自分に向けられた吐息だ、死はどうやってもあの日を生き延びたニンゲンを見逃さない。
「死にたくない死にたくない死にたくない――」
「待て……、待てよぉおオ! お前がそうだったんだな……隠れるなぁあ」「そうよ……、どうしてアナタだった。殺すしかない、さぁ私に戻りなさいよ――。お前が勇者などを目指すから――」
生きたい。でもまだ生きていたい、ウソだ――。だってソレはでも……。死んだ方がマシだと、そう教えてもらっただろう。それを教えた優しい彼女は自らの力を嘆いて食われた。彼女は最後まで僕を守ってくれて、その笑顔は――。
「あぁどんな……、顔だったっけ――」
白が揺れる、汚染が進む。その前に。
でも貴様の横は穢れたな。
させない……、させないぞ。
ひたすら闇を逃げた、この最後の光を押し付けられた。その光を誰もが望んでいるのか――、ナァ誰か……教えてくれ。




