14
進むは野山というよかは、雑多な砂利道。
そもそもだけどウチは標高が少し高かったから、これ以上登るのもほとんどないし変わり映えのしない道だし。大きくとも膝まで程度の草ばかりを超えるだけなの、ただし魔法で荒れ狂ってるのを除く。
えぇい襲ってくるな――。
これからこんな感じで400キロを、東京・大阪間とほぼ同じを進むだけ。ただし山と川と沼と地獄と、そしてモンスターがいるけれど。
だから本を読みふける私は、さぁ、荒々しい二宮金次郎になるぞ――。
「そう……、それでね? 歩いたら10日から13日って感じだけれども。私の予定としては君を育てる事だから。だから、うーーん……」
足取りは規則ただしく、よそ行きの装備が増えている私は、まだ散歩コースで、本から目を離さない。彼も山岳の歩き方は十分みたいだ「それでだ……、帝都に行くまでに立派な弟子にするとしてだよ……、そうなるとまぁ、1ヵ月くらいかなぁ~って……」
「はぁ……はぁ……、でも、1ヵ月って。こんなにいっぱい必要なんでしょうか、荷物、多すぎませんか師匠」
「私はね……、私がいなくなった時にどうするかを教えるのが仕事なの。それが師匠だから、お弟子くん」
本に眼を通したまま微笑む言葉に、弟子が分からず、それでもうなずく。山道で揺れる白い髪、無表情。
だからお弟子くん、この旅でソレがいるかいらないかをね、自分で判断せねばならないの。
ダンジョンでの事を思う。彼には一日でも早い卒業を願っている、これは師匠としての本心だ。
「あぁそう……、それで来たね? 最初の関門が。この世界の旅の基本だよ、気負わないように――」
でもまぁ正直、隣の国に到達といった所ですぐのご近所なのだ。ただし中世ヨーロッパだと関所がいっぱい、それはご多聞に漏れずこの世界も。良い道は必ず塞いでいるんだ、お金を徴収する為に。こズルいと思うかもしれないが一言で安全サブスクリプション。
「そう、まぁでも、全く安全じゃないんだけどね――」
そのままショっボい関所に入って行く。正直馬小屋と言った方が良い程度の場所。
ちなみにココには王様が足しげく来るよ。だって目をつけてるもの、この部下って存在はまーーーったく言う事聞かないから王様が直接金を取りに来てたりするの。
どこのヤクザかよと。
王城に王様がいない時は集金の時だ、100日くらいは集金の旅してる事もあるね。
そんな部下さまがヤル気を出してすぐに金目の物のチェックを……「あぁそう、でも私達はギルドの人間ですから」
そのギルドカードを出せば、ギルドからの出向と思しき男がうなずきチェックし始めた。すると書類にもサインを要求されるから。
流れるようにサインして「あの子は私の弟子なんですよ~……、私が責任を持って、2人で学園までの旅してるんです」
「弟子に学園、か……。だが君はまだまだ若い風に見えるが? あぁいや……それにしてもしっかしアンタ整った良いお嬢さんだなぁ?」「んふふ……、ありがとうございます」
「胸も大きいな幾つだい、君何歳かな。ギルドカードでは……っと」
「ふふ、あまり見ないで下さいよ~。実は私ぃ、元々は僧兵でもあったんですよ。それでどうでしょうか、この頃の景気は?」
「あぁ……いや、それがなぁ、あまり良く無いんだ、大声では言えないけども、ホント」「そうですかぁ~、ンふ――。それは困りますよねぇ……、こんなに兵隊さんたちは頑張って守ってくれてるのに、大変ですねぇ?」
「全くだよ、全く……っ。この頃の農民はすぐに音を上げてソレを上のせいにしやがる。徴税を回避しやがるんだ……っ!」
その言葉にふんふんうなずく。結構思った以上に喋る師匠だ、こびているようにも弟子には見えた、権力に媚びるとは思わなかったが。
「へぇぇ……、ゴルドンさんはそんなにご活躍なされてたんですかぁ。でも残念ですねぇ、見れませんねぇ、ゴルドンさんの勇姿。私ゼヒゼヒ見たかったのに~」「いやいやぁ、いつだって見せるさ。君の為ならすぐにでも……っ。ただなぁ、それもこの頃天気の不順が続いたろ、俺も畑の方で駆り出されそうだぜ、全く――」
「へぇ、この頃収穫が遅くなって……。そうなんですねぇ――」
一緒にその方角を見ている、そんなに気に入ったのだろうか。笑顔でずっと話している。大人同士。
少し一人。
若い兵士たちが総出で笑顔で師匠から離れず、喋りっぱで。その2枚目の紙を持ってくるのだ、話に夢中でボクに対し放り投げてて。ムッとし……「あぁ……、えと。説明も無しに分からないです、なんて書いてあるんですか、僕こんなの初めてで」
「あぁぁ……――」
その言葉に師匠を見て、策士だなという目をする騎士。動き出す騎士たちを手で制する師匠は、「そう……、私の弟子は弟子なんですよ。ただ彼はね、一般と言えなくもないかなって……」
いくらです――。
そう言うとニンマリして結構な額を言い渡して来るのだ。焦る弟子。それは当然……。
「す、すいませんお師匠様、まさか僕のせいで……っ」「いや……、気にしないで良い。でも自分ができない事を口にしてはいけないよ?」
大体そこから付け入られるんだから―――。
ずっと味わってきた事は変わらない。しょうがないので路銀を投げてやるさ、しっかりとお渡しした。
そして師匠として弟子くんに、自分が書いていた紙を指し示すから「そう……、じゃあお弟子くん? これは一言で言うとね、徴兵命令には従いますっていう誓約書だから。当然国が変わった瞬間ギルドは徴兵先が変わるから」
「えっ―――」
その言葉に震える彼。ギルドの人間は読み書きすらできない、騎士の命令すら守れない畜生のようなモノもいるが、コッチが理解できてない奴は通らない。
最低限の契約書、7項。それはギルドがきちんと前もって根付かせてるけれど。
「そう……これを書かねばならない、しきたりだから。でももう君は書かなくて良くなったね、勉強代は払ったもの。だから……、うん、徴兵はされないだろうけど、まぁそう……」
あぁそうだね――――――――――
「そう……。それも良いかもしれないな……?」
手続きが面倒なので弟子くんを放っておいたが、ふと、そんな気もした。
ギルドがなぜ世界機関になれているか? それは簡単だね。傭兵機関としても各国で消耗されているからだ。戦争するには傭兵が必須で勝利の必定。騎士の数に対して傭兵は50倍以上。
しかも各国から持ち寄った戦術に魔法に武器に情報に、そのほか人殺しの才気と才能溢れるなにかを持っていると。
「そう……、だからギルドに今誰が何人いるのかっていうのはね、結構それだけでも戦争の口火を切りやすいんだよ――」
強い人間や大きな旅団は、だから偽名を押し通す。直接国と説話する。気苦労の塊。勇者がよく王城に行くRPGがあるけれど多分そういう理屈なのだ。あれはモンスター専任という意味で。
そうして一般ギルド員は兵隊として戦うという代わりに他国に入る時に必要な多額のお金を取引、暗黙としてスルーしてやっている訳だ。
「そう……なんですか、僕全然知らなくて……」「うん、でも安心したまえ……。モンスター討伐の方が圧倒的に多いからね? 暗殺・傭兵ギルドは専門であるし、何より私達はモンスターの専門家。確かにね……」
そうあるべきだよねって……―。
そう言ってうなずき、お弟子くんの徴発書類を投げ捨てた。あとは戦争がないことを祈るばかり、そして何より神のお導きがあるように。「そうほら、見て……。ふふ。どうやったって彼らは金や銀や、その他の物にはきちんと税金を取るよ、抜け目はないなぁ~って」「へぇぇ……」
一目散に取り掛かる騎士の男女にうなずく、ひゃっはーー、エモノだぜぇ、とばかりだ。まだ少しヤラカシ顔の弟子君を撫でてあげる。ウソがばれたので念入りに調べられて投げられる荷物。その弟子くんの耳元に。
「そうだ……、ちなみに君の師匠は大丈夫……、あまりタイプじゃない。あの会話もそうだよお弟子くん、アレで軍事的な動向を見極めるの、お隣との戦争はしないんじゃないかな~って――」
笑顔で歯を見せる師匠、そのジェラシーの残る少年を突っつく。恥ずかし気だ、可愛い。
でもまぁしないだろう、恐らくは。何せ収穫が遅れているという事は他の所もそうなのだ。そういう地理的な要素がかなり大きいので当分はほぼ無いハズ。
どこぞのバカが転んだ拍子で向こうの領土に大穴を開けない限りは。もしくは地下の水を全て凍らせる事もあるぞ?
夏の国で流氷アタックが来るまでが平和。琵琶湖の水を止め始めたら血みどろだねぇ? 西川君。
「そう……、それで見て? 一応ここはもう別の国になるけれど、前は同じ国家だったの。今から国を8つ超えるよ、お弟子くん。そうして貴族領を9個は超える予定。大きな町は2つか3つ程度かな~って……」
開けた眺めを見ながら指を差し、これからの道程を口ずさむ私。まぁまぁ遠い感覚だったが普通の人間でも1日40キロくらい歩くこの世界。かなり早いだろうか?
了解を得て再度出発。2人歩いて行く。その先からもそんなに変わらないが、ひたすらに違う国の砂利道を。




