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「そう……、まぁ大丈夫。だって周回してきたホームでの部外者、負けられないよねって……、しかも私は何週もしていたし、ムカつくじゃない」
「えっ!? そんな理由ですか師匠、うわぁぁ……ホントに―――」あんな強そうなのと。
そのまま礼儀正しく、奇襲もせずに無言で地下へと師匠、オトメは降り立ったの。
それを見た瞬間カメレオンの目がぎょろろっと慟哭だ。すぐにオークを手放す爬虫類、巨大なる痩躯がナデらかにうごめく。そして一気に自然に不躾に、パンチを――。
「あぁ確かに、強いかも――」剣で受けた。その粘着しそうな掴みに眉根を上げる、ニッチリとした吸いつきでしっかりと握られるコブシ、その剣を。
プニプニしてるように見えるのに堂々握って離れない。するとやおらカメレオンが口を開けようとしてて、すぐに飛びのく、デカくて鋭い舌が突き刺さった!
「そう……、まずい、マズイのよ。弟子くんは最大限に気をつけるべき――」
カメレオン程は長くないが、思った以上に長い舌、早い、そして硬い!
岩をも砕くそいつは剣を放さずに、何度も何度も舌を出してくるから。
この感じ、彼ではあっさりとだろうね……。危険度が分かる師匠だもの。しかもこの化け物は恐怖も歪んでいるらしい、なんとなくだが目つきがおかしいと。ラリってやがると。でも。
「そう……、私の剣はね、特製品。錬金の効いた特別製だったの、それなのにこんなに簡単に……容易く握られて……」もぉ……、ちょっとぉぉ……。
ぐぅうう――!
離さない、離せない二人。
この土地ならばほぼ無双状態の剣を作ったのにあっさりと握っている、むしろ奪おうとしてくるの。
ムカつく……、これは結構なムカつき。弟子くんが見てる前でワタシの真価を問われている気がしたのだ。
だから剣を押し、逆に踏み込むよ。激しく鮮やか過ぎる程の動き、達人級の動きと剣の鋭さで……。
「すごい……、師匠の本気がアレなんだ……、ニンゲンでは魔物の動きについてける訳ないのに」
でもあの師匠は真っ向から戦って見せている。舌の乱打が全てかわされていて、意地になったのかカメレオンが両の手で師匠の剣を掴む。
だが負けない、飛びぬけた才能、スキル、そして何よりも師匠としての矜持。それでその……。
「そう……キミ食べられてたじゃないの。何故私かなぁ?」
後ろからスキをついて掴もうとする豚を華麗に蹴り、踏み場にして一回転、そのカメレオンを遂に振りほどいたんだ「よし、勝った。これなら――」
一撃、その敵は意地を捨てたぶん有利を取っての一撃。でもカスるだけでかわしてやった、したり顔の師匠だよ……?
だが無表情のカメレオンで、しかし目は絶対に離さない。その危ないと感じた物にはゼッタイ、明らかに殺気が漏れている。いつ動くかという無表情の殺意。
それでも師匠は分け入っていくのだね、攻撃して来る腕を避けると滑らかなる回避斬りで!
「ぎゃひ――!? ぎぃいいい」「そう、じゃあ今度はね、コッチが見せてあげる……」
ヤケになって飛んできた次の腕を剣で撃ち落とし、もう完全に懐が見えてる、その瞬間、目の前にドバっと開いた傘が、「な……――、面倒。君はエリマキトカゲだったの……っ!」
舌打ちする。オルガン開花、5メートルもあるカサはすさまじく広くて視界を包む。逃げる事かなわず。むしろそのまま持ち込まれて……。
突進!「ぐぅう!? そう、それで、その微妙に攻撃力高そうなのって、野生って感じするから――」ぐっ、うぅうう!?
遠慮のない押しつぶしとその微妙に逃げづらそうなフチについたカギ爪と。一撃目、そして……。わたし基本的にはね、弟子が真似して、使えそうな技しか使わないのだけど。しかしこれは……、この2度目はさすがに。
「ぐふ――。ちぃぃ……っ、思った以上に固い、剣が通らないの。だったら――」
スキルを燃やして体のチカラを上げます、今できる簡単で、かつ上級の――「そう……これは固有スキルだから、だから弟子くんは真似しないで――」
驚いただろう。何せそれは鈍器化させる特能。一文字を描いた、その軌跡にコブシを入れれば腕を鋼にできる。ノベンタの十八番だったな、殴れば脳を揺らすような痛みで「ぎゃひいいい!?」
だがここは魔法世界なんだ、それは全てが奇襲で成り立っているんだ。そんな程度では崩れない、痛みを耐える。むしろ対抗しようという傘は血管が増し……。
「そう、まだ終わってないから、この程度ではね、私だって一応師匠なんだがね――!」
舐めないで欲しいと。その力を剣にも適用して相手の一番硬そうな眉間をあえて狙って一撃を穿つ!
するとダメージは通らずとも衝撃が重すぎて凹んだ、直後に体が浮くのだ、さすがに地に伏した化け物、驚いて動けない。
「キミもね……、連戦連勝だろうけれども私もそう――」
その間に傘を抜けて後ろに走って回り込み、剣を突き刺して、背中掴んでライドを目指し「あぁ……、さすがに苦しいかも、でもそれでも……、うぅぅ」
必死にしがみつくから、それを嫌がり非常に暴れるエリマキトカゲくん。この巨体で地面で擦って擦って、それで一回転か……キツイなー。キツイね。
だがそれで良いんだよ、すると上から――。
「師匠危ない……、でぇぇえ やあぁああ!」
上から降って来たお弟子くんが、相当重い装備での一撃!さすがにどてっ腹は避けられたが「ごォおオオ!?」「よし……、良いよ、良い! 死なない程度に無理をして、まだまだお弟子くんの為の戦いだからね……っ」「ハイ、師匠!」
更なる攻撃の手が必要だと感じて飛んで来た弟子。飛び掛かるタイミングをずっと伺ってたし、だけれど強い敵には迂闊にかからないといった目配せで。
ただなかなかの良い目だったの、合格。
そしてやはりだ、弱いのから狙うのは常識で――!
「ぐはぁ――!?」
尻尾。すさまじく低空で飛んで直角で捉えるよなシッポに弾かれる。その一撃だけで鎧が飛んだ、あまりの攻撃力、目が白む。そしてズンズンずんずんと迫って……。
「そう……っ、ソレはまだだ、まだだよ――っ!」
しかられて、弟子が剣を直す。奥の手を出すのには早すぎるから。この程度ではまだ絶望には遥か遠いんだと、常にこの後を考えなさいお弟子よ――。
「異変なんだから……。コイツに仲間がいたら、もし死ななかったら、もしもっと強いのが乱闘になったならばっ……」
恐らくはあの不明の必殺技は回数がかなり狭い。体力削る、扱いずらい。それでオドの方は打撃としては論外であり。彼にとっては虎の子の一撃なんだろうがアレに頼ってはこの先……。
「はい、わかりました。ただでも、うぅぅ……!? 僕じゃ持ちません師匠っ……うぐぅ!?」「そう……、分かってるよ。だから良いかなお弟子くん?必殺というのはだ……、こういう物をさすんだよ、まずは殺せなくて良いから」
そう小技で良いんだよ、ハァァアア――!
瞬きの集中時間。だがそのスキル技は炎を猛らせ、一歩の踏み込みのその足を燃やした。
駆けて行くは一歩一歩、ホノオの足跡を残す。その軌跡の数だけ力が増すのだ、だからこそ回避もが攻撃になるのだと――。
「ぷぎぃいいいいイイイイイ!」「ふふ、そう……、捕まえてみなさい――」
その足跡が示すチカラの流れに魔物が強く反応する、エリマキトカゲが弟子くんを捨て必死に師匠を追って、「あぁスゴイ……、あんなに焦ってるんだ。公然と力を見せつけられて、正気じゃない程にもう……っ」
もう彼女しか見えていない。それだけあの人の霊長律は強烈という事、練り上げられている力が段違い。一つ一つが恐怖となる程に。
師匠がエリマキトカゲにわざと蹴りを入れて見せた、更に恐怖をあおる為だ。
「そう……、これが必殺技だから。威力はまぁまぁだけど、これでもまだ――」
縦横無尽。スピード上げてトカゲの下をスライディングでくぐりながら脚へと掴まり、反動で体の上へと登り頭を踏んで、降り立って堂々と目の前を通過する。
エリマキトカゲは腕の乱舞だ、避ける避ける、避けるよ。たった一撃へと続く力の本流との攻防。強く激しく炎が猛り……その足跡が力となる。
「食らって、羅列ロウソク・羅生閃――!」
スキル技。人間だけが持つルールを解き放ち、人の法力として世に穿つ。それはかなりヒトの法力を使うので長くは走れないが、今日は特別だマウントです。
「ギュああああああああ!?」
顔面ぶった切りと同時に襟巻を寸断、ストレスで尻尾までもぶっぱ切断!
だがその直後に師匠をねっちゃりとした指が抑えてしまうから。キレたトカゲが大暴れだ、かなりの痛みと死への恐怖、何度も何度も意味不明の回転シッポしまくるから。
手の中の師匠はそのまま……。
フゥ――。そう……、これが必殺技だね、アナタならやれるの――。
「ふぅ……、ふぅ……、そうだ、僕がやるんだ、前もヤレた――」
後ろに居た弟子に目線で諭すよ。今やらねば私が大ダメージだ、だからこそ彼はその剣を握り突貫した。力を辿る足跡、しっかりと一歩ずつでも、その足でスキルを作り――!
「あぁぁ……重いぃ――。はぁ……はぁ……、それでも、それでもだ。師匠を守るんだ、うぉおお、羅生撃、ウォオオオオオオ!」
うん、そうそう。ポーズも良いのだけれどもね……、名前を叫ぶのもこのスキル技には良いんだよ。そう――。
人間の内在的な法を用いるのだから踊りや特定の動作やキメポーズが有用なのもこれ。
その一歩は透明だが、見える、力が見える。猛っている。そのお弟子くんの足から放たれた馬力が今一つになって……!
「まだまだかな。そう……、50点」
そう言った、中途半端なタックルだった。人法の練りが足らず炎がでていないし収束率もまだまだ。そう……だが良いだろう、努力は認めるの。最初だしね……?
スキルを近くで見て体感すると伝播する。しかして心が更に強く惹かれるならば伝播しやすいのもこの人法の良い所。
そうだな、この子は好意そのままか……。どうしようかな。
その怒ったエリマキさんに弾き飛ばされる弟子くん「ぐぅう!?」「あとは私に任せなさい――」
飛び上がる師匠。そのまま重い一撃が入った、この程度ならばもう敵ではない。最初の傷から脳を捉える、勝利。
「フゥ……………、そう、ねぇ弟子くん、どうだったかな。初めてのダンジョン」
――。
―――――――。
「はい、合格。お疲れさま。なかなかだったよ……、お弟子くん」
失神していたお弟子様。背負って帰って行く。よくある光景だった。何人も何人もを負ぶって帰ったし、そうして上についたらもちろん楽しいご褒美だし。皆ヨロコブ。
どばどばどば……「ほらほらほらぁ~。しっかりなさい……」
「どぇっ……、ぶぇえええ!? 助け……っ」も、、起きてまふよ、僕は起きてぇえええ!?
苦しみ悶える弟子君をニンマリしながら見つめている。このポーションかけは日課で、もうその顔を見るのは何人目だったか。「50人、いや51人目だったかなぁ――」
思えば遠くに来たもんだ。
レベルは15。彼が8。
私は15歳で新しい旅路で。
前の世界では会社員もしたのにここから青春なのかと思うと、なんとなく老け込んでしまうの。子沢山ってある意味的を射てる。レベルカンストしちゃってる私と、今からたくさんの出会いと試練で成長する彼を連れ……。
「そう……、じゃあ、学園へ行ってくるのです。ではお母様~~、それにお父様ぁ」
「あぁ気をつけるんだよぉ~、師匠ぉ~~。父さんいつでも帰って来て良いから……っ直ぐで良いんだ、良いんだからぁアア!」「そうよぉ師匠~。わたくし、アナタのお部屋の師匠グッズ増やしておくから、いつでも路銀も送るからぁあ!」
「姉ちゃん師匠、がんばえ~~」「いもうと師匠よ、そうだ、君に幸あれ――」
そして出発。すると、ふと、名前を呼ばれた。
まるでアリがたかるような、その数は数えきれない。
「そう、またね、弟子たちよ――」
泣いている者たちに手を振る。空は快晴。
「さぁでは道中も頑張ろうか。そう……、勇者になるというお弟子くん?」
「はい、お師匠サマっ!」はい……、はぁ……はぁ……っ。ハイぃ―――。
かなりの大荷物を持った少年と旅に出るよ。
これからまだまだ未熟な旅が続くのだろう。師匠としてもっともっと世界を知らねばならない。そうして世界のマウントを超えてゆこうじゃないか。
「でも王都まではやっぱり遠いね、山は大きそうだよ……」
「頑張りますよ、せめても僕が師匠の手足となって。どこまでも一緒に」
その道が、どこに繋がってるかも知らずに――。




