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「相手もね、しっかりと気配を感じて来るから。そう、ほら……来たよ新人くん。全力で戦いなさい、全力でね――」

 ゲームとは違うね、また潜行の師匠だよ。「はぁ……はぁ……アァぁ……。そ、そうですよね、そうなんだ、そうだけど………ッ」動かない師匠を見ている。剣を必死に振るう。

 必死に助けを求める視線、そして最後には恨むようになるのも。いつの間にかその眼にもなれたね……。うん、私というコツをつかむの早いねと。

 あぁ良いねキミ……、剣の動きに迷いがなくなったじゃない。


「でやっ、うぉおおお!」「そう……、好きにやるんだよ、新人くん、波形が落ち着いて来た……。全ての本能を解き放ちなさい、やはり本能なの。私は見ているだけじゃないから――」

 戦士は斬り払うし頭突きもする、なんなら噛むし、この世界は混沌、たったちょっと狂っただけで抜けれたなら十分だろう。それに今まで生きてて戦いに巻き込まれなかったはずがない。更に強く生きていく事を学ぶ場所。ダンジョン。


「それで……、全滅させた、よく頑張ってる。でもダメなの、いらっしゃい……。だって君は真ん中を通り過ぎだ」

 うなずきヘトヘトの新人くんの手を握る、柔らかくて瑞々しい手なんだろうな……。まだ若い彼は驚いて赤面し「ダンジョンっていうのはね? 左手は壁に当ててた方が良いから。質感の違いなんかを感じる為に」ほら……――。

 利き手を空ける必要。そして何より振動やら空気感を感じる行為。

 今さっきのだってね、水なんかはひんやりしているから、それは水飲み場があると指先から――。


「ねぇ……、感じる? キミは上や下や真っすぐを、そして後ろも知らなければならない、その為の感覚を。ダンジョンでは視覚だけに頼ってはならないと――」

 その言葉にうなずくウブな姿。そうしてまだまだ少年の彼に更に言い聞かせる、私も彼のもちもちの指を撫で、「それでスキルという、その基本は知ってるね? 構成するのは人間法であり、3つあるルールの1つで。それは唯一人間が出し入れできる内在的なルールだ」

「はぁ……はぁ……、はい……人間律、6学・数多の鋼。ですよね」


 6学・数多の鋼。それは魔法・人間法・精霊法と力を授ける3つの内の1つで。人法とも、あるいは霊長法、よしんば万物の霊長法とも言われる。

 世界を作り上げるルールの一画を担うスキルとアビリティの基礎となる物だ。

 少年くんは師匠と重なる手を見て、話を続けるかのように、「えっとえっと……それで確か6つは、えと……。感情とか、チャクラ、あとは確か……――」なんだったでしょう?

「感情、チャクラ、視脳、ブツ欲、たい、オド だね、そう……、どれも結構な修業が必要。そこから数多の鋼と言われる流派が分かれるよ」


 どれを選んだかによって芽生えるスキルが違うし、向き不向きがあるので自分にあった物を選ぶ必要。自然法や魔法と違い一番壮大さにかけるが積極的で自在であり、そして永続効果が唯一と言って良い。

 それは剣術や柔術、棒術にスポーツを含む数多の鋼を有していて戦いの中では随一頼れる、裏切らない。


 くう、響き渡りし感情。雷光のチャクラ。深き森たる視脳に、我凱ががいなるブツ欲。永遠のゆうたる体、そして、混沌なす覆いのオド。

 手っ取り早く強くなれる最短のルールであった。


「そう、それでね……、6学を使いなさい。ダンジョンの透視法があるから、脳においてのフォーカス能力。これがその視脳だから――」

 そう言うとその壁へにつけている指に力を込める「絶対に聞こえるから。これは必ずやれるんだ、さぁ……脳を活性化させろよ、壁の奥を視分みわけるんだ――」

 私が視脳を使いその奥の奥まで潜るようにする。

 すると彼もまた集中。それは合わせるようにすると芽生えやすいし、それに実際だが人法は使っている気になるだけでも効果があるとされる。

 人間法を用いてスキルを開眼させて。


「あ   あぁぁ………確かに。何かうっすらと違いが――」

 あぁ……よしよし。この子はね、その他の脳の働きを弱体化させず、一つだけを引き出せている気配だ。まずまずといった所なの。

 視脳が無理なら他のを試さねばならないが、ひとまずはクリア。ゆっくりと浮かぶ【視脳】の数字が消えた、まだその他でくくられているか。

 それを師匠として見て気力の流れと色を見やる、この子の特性を見ておかないといけない。とりあえず真後ろに石を投げて、だんだんと遠くへ……、脳の活性具合を見てと……。

「そう……、今度は臭いも活性化させて、新人くんはね」

 師匠の柔らかい手がその度に強く握ってくるし、「あぁあの――。それで、あの……。知りたいんですけど、6学、師匠は幾つくらい使えるんでしょう?」「私? 私はそう、視脳の学、体の学、そうしてオド。大体3学だね……」

「3つもですか――」

 そうだ少年君。あとスキルを少々だよ……?

 そのまま手を引かれて道を遡ってみれば、確かに視脳の学では分かると気づかされる、10メートルも前に感覚が変わっているのだ。


「そう……、それで土の濡れた感触に、臭いも、すると風も気になるから……。吹く方向やヌメり方、他の草木や雑草の育ち具合、そうなの、これが大事なの」

 ね?

「はぁ……はぁ……、スゴイです、師匠――」

 プールの周りって少しだけ冷たいし、なんとなく湿ったコンクリートにもなるし色も違う。そんな感覚だ。些細な事を気にするようになる。風も光も、質感も。

 でもまだまだね……、胸を張れるようなスキルじゃないんだぞ、少年くん。

 あぁはい……。でも風が妙に気持ち良いんです、えと……。

 私を見ている、まだ幼い少年は目がクリクリとして。


「そう……、綺麗なお姉さんと手を繋げる、臭いも気に入った。これで終わった方が良いかもだ……。そうでないとこれからは地獄だよ、少年くん――」

 その胸の大きな白い……少し無表情なお姉さんの微笑に僕はハッとし、「い、いえ……っ、まさか。僕は絶対勇者が良い……っ、勇者になるんだ! じゃあ僕もこれくらい、こんな前から分かれば良いんですよねっ……」

 私が首を振る。初見でも既に25メートル前から気づけていたと。


 そこから手袋を与えた。壁で何かマズいことがあっても大丈夫なように頑丈でウォータープルーフ、3本の指だけが出ている物を。防御力+1~3かな。


「い、良いんですか、こんな良い物を貰えて……っ」「君が死んだら回収するから……。あとは一人立ちするかだね」

 純白の髪、美しい師匠を目の前に嬉しそうに装備して進んで行く。

 時折年上女性に壁ドンされて、後ろの方で壁を蹴るのだ。どれくらい集中できてるか、そして何を蹴ったかを聞いて来るのもセット。


「そうだね……、正当率は40%、まぁまぁだ」手がかかりそうだなぁ――。

 ふぅ……――。

 笑いながら。ここはまだまだ遊び場で地味が続く。私は右の壁についた、やはり2人居た方が探知範囲が広まるので良い。コレで絶対的な嗅覚を持つ猫や物音に敏感な犬にすら匹敵できるし。


「そう……、良いね新人くん。これでモンスターとやっとイーブンだからね、気をつけなさい――」

 うなずく。それはイヤが応でも知っているはず。この世界の人間ならば誰もがモンスターに悩まされていて。そうだ、敵は強いぞ。

「はぁ……はぁ……、うぐぅぅ!?」

 体力の限界、次は敵が来ることが分かっても遂に倒れた。限界だったので倒れたので。

 華麗に剣で斬りさばく私。


「こら、まだダメだよ、私が良いと言うまで倒れるな。ただ――。なかなか良い筋だ、これは確かに強くなるの、ただし」

 自分の調子で分かる、まだまだだ、甘えているだろう。レベルアップに取りこぼしがあるのだ。その子を担いで感じる。足りないのは素早さか、それとも筋肉か……。

 彼の可能性を信じるしかない師匠という存在、それでも楽しいと……。


「そう……、この物語はね、君が主人公だから。私はそっと見守る。アナタを鍛えるし、きちんと見てあげるけど。それ以上はしないの……」

「はい――」

 その一番星を見上げる。もう夕暮れになっていた。


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