田村家のカップ麵デー
「カップ麺、出来たよ」
台所から祖母の声が飛んできた瞬間、俺たちは一斉に食卓に着いた。
今日は月に一度の「カップ麺デー」。カップ麺をこよなく愛する俺たち家族が、それぞれ好きなカップ麺を食べる日だ。
「ちょっと、お父さん。まだ三分経ってないでしょ」
母の声に釣られて祖父の方を見ると、祖父はもうフタを剝がしていた。
「ちゃんと待たないと、お腹壊しちゃうよ」
「待てん」
祖母に注意されても、祖父は湯気の立つ麺をずるずると啜る。……我慢できずにフタ開けるとか、浦島太郎かよ。
祖父の選んだカップ麺は、今日も富山ブラックだ。真っ黒なスープで、見ただけで喉が渇きそうな色をしている。家族の中で一番年上なのに、どうしてこんなにこってりしたものばかり選ぶのかと何度言われても、祖父は絶対にこれしか食べない。
「ほんと、馬鹿の一つ覚えね」
「……良いんだ。地元の味だからな」
祖父はそれ以上何も言わず、がつがつとラーメンを食べ続けた。
——ピピピピッ。
タイマーが三分を告げると、俺たちは一斉にフタを剥がす。が、父だけはフタを閉じたまま、塩ラーメンのパッケージをじっと見つめていた。
「早く食べないと伸びるよ」
母が言うと、父は気にせずメガネをくいっと上げる。
「伸びたら、いっぱい食べれて得だろ?」
「意味分かんない」
母は肩をすくめたが、父は黙ったまま、時計をちらりと見てタイミングを計っている。変なところばかりこだわる人だ。
「さすが変人」
母がぼそりと呟いても、父は気にせず待ち続けていた。
「ていうか、塩ラーメンなんてマニアックすぎるのよ。食べる人なんて珍しいわ」
そう言う母のカップ麺は、チリ系の激辛ラーメンだ。……どの口が言ってんだよ。
「おい、何してんだよ」
父が尋ねると、母は首を傾げる。
「何って、チーズ入れるだけじゃない。こうすると美味しいのよ」
気付けば母は冷蔵庫からチーズを取り出していた。
母は完成品を信じない人だ。この前なんて、担々麺に納豆を入れていた。
「辛いだけじゃ物足りないのよ」
そう言って、母はチーズの入ったラーメンをぐるぐるとかき混ぜた。
「愛美は相変わらずだねえ」
祖母はにっこり笑って立ち上がり、台所に向かうと、ワンタンメンを鍋に移してコンロに火をかけた。
「お母さん、それ、カップ麺だよ?」
母が言うと、祖母は菜箸を動かしながら答える。
「少し煮た方が、お腹に優しいのよ。私はお腹が弱いからねえ」
ゆっくりとした手つきだが、麺の様子をちゃんと見ながら丁寧にかき混ぜている。祖母は家事も料理も、何だって丁寧だ。
——そして、俺。
俺が選んだのは、豚骨醤油ラーメン。ありきたりだが、俺が一番好きな味だ。こってりしたスープにガツンとコショウとニンニクを入れて食べるのがたまらない。
でも、まだ入れない。元の味を楽しまずにいきなり味変するなど、ラーメンに対する冒涜だ。
まずは麺を一口啜る。しっかり歯ごたえを確かめてから、次にスープを口に含む。
「……美味い」
それから、コショウを二振り、ニンニクチューブを二センチ。コショウのスパイシーな香りと、ニンニクの香ばしい香りが俺を誘う。俺は満遍なくかきまぜ、麺を啜る。
「……やっぱり、美味い」
これだからラーメンはやめられない。そして、カップ麺はだれでも手軽に楽しめる。……つまり、最高だ。
「ほんと、昌樹は美味しそうに食べるな」
「さすが、田村家イチのラーメン好きね」
父と母がそう言うと、食卓に笑い声が溢れた。
祖父はもう食べ終わりかけていて、母はさらに何かを足している。父はまだフタを閉じたままで、祖母はにっこりしながら俺たちの様子を眺めていた。
カップ麺は、お湯を入れて三分待つだけの食べ物だ。それなのに、選び方や食べ方だけで、こんなにも人は違う。
田村家では、それぞれがそれぞれのやり方で、好きなものを食べている。カップ麺は、その人の個性を、案外分かりやすく教えてくれる。
ここで、田村家イチのラーメン好きとして君に問おう。
——君は、カップ麺をどう食べる?
作者もラーメンが大好きです。




