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第一話 始まりと別れ

 今日の未明、長年続いた統一戦争が終わった。この世界には、魔物も、それよりもっと凶悪な存在もいるのに、人類同士で戦争なんて、何やってんだか。争いは、俺の好きだった綺麗な空を汚して、森の緑も壊す。だから、じいちゃん以外の人間はあまり好きではない。

 

 じいちゃんには、俺の生まれて両親と住んでいた村が襲撃され、戦争孤児になった時に、助けてもらった……らしい。詳しくはあんまり覚えていない。


 血は繋がっていないけど、育ての親として、感謝しているし、大切だと思っている。

 でも今まで、本当に色々あったなぁ。じいちゃんの仲間のスパイの奴らに勉強やスポーツを教えてもらったこともあった。

 オペラとかミュージカルも見せられたな。強面で筋肉質のおっさんが、『教養だ!』とか言ってたな。ふふっ


 戦争が終わって、もちろん嬉しい。だが、俺の情報屋としての仕事は、終わらない。むしろここが始まりだ。

 戦争は終わったが、これからはじいちゃんが引退しても俺が跡を継ぐ感じで、世界を平和にしていければいいなと思う。汚い嫌な世界を見るのはできるだけ少ない人数でいい。じいちゃんが平和にした世界のために命を賭けよう。俺は決めている。


 まぁ情報屋と言っても、俺くらい下っ端で大したスキルも戦闘能力もない奴には大した情報や仕事は回ってこなくて、ほとんどは表通りの売店を営業しているだけで終わる日常なんだけど。

 

 しがない街角の情報屋という、人の嫌な面ばかり見なくちゃいけない職業なんて、こんな年からやっているんだから。個人的には自分の容姿に自信があるのに、対して女性から好意を向けられたことはない。なんと悲しいことだ。やっぱり、職業柄が影響しているんだろうか。

 

 いや、モテたい。それにペットを飼いたい。僕は飼ったことはないが、多分猫派だと思う。これから平和になった世界で何が起きるのか。

 俺はわからない。でも未来に期待したい。できれば辛い思いはしたくない。料理が好きだから、料理したい。お金持ちになりたい。昔じいちゃんがよんでくれた本に書いてあったような冒険がしたいな。

 平和になったんだし、色々やりたいことを叶えようと思う。

 

 

 *  *  *

 


「いやぁーお兄さん、いつものアイスと炭酸入りオレンジジュースちょうだーい♪」


 またうるさいのが来た。だが、こいつが笑っているのは平和な証拠だ。うんうん。


 商店の近くの小さな売店・これが俺の店の表通りでの姿。

 小さい売店で新聞やドリンク、お菓子を売っている。若店主だ。趣味は発明とアクセサリーとか服のコレクション。たまにオークションに参加して、珍しいものを買ったりしている。


 資金源は……じいちゃん……かな。いや、これからは自分できちんと稼ぎます!……たぶん……


 地下に降りたら裏通りに行ける。そこで俺はじいちゃんのコネを使って情報屋をしている。

 扱う情報は、貴族の情報や最近の街の噂なんかだ。まぁ、たいしたもんじゃない。

 それに、自分で情報を集めに行かず、じいちゃんが任務のついでに持ってきた情報が主な商品だ、うん。まったく自分でも思うがなんてすねかじりなんだろうな、とほほ……


「終戦記念だ。今日は二つともタダでくれてやる」


「やったー、ありがとう。レナス。太っ腹ー、よっ男前ー」


 まったく、調子がいいんだから。

 彼女の名前はティナ。年齢は俺の数個下。俺の妹みたいなもんだ。いつもおつかい帰りに買い食いしているうちの常連だ。まだ中学生だ。学校は帝国立帝都中央中学校。そうな名前、マジで。


 ティナの家は貴族でこそないが、商人の娘でそこそこ裕福な家系である。

 ちなみに俺は学校に行っていない。その代わりに勉強は自分でやっていた。


「いやーこの店のミントアイスはいつも美味しいですなー」


「そうかぁ、俺も中学生の時はミントとか炭酸とか刺激の強いの好きだったな」


 うん、いや俺もすっかりおじさんみたいな口調だけど、まだ全然若いんだぞぉ。でも周りがスパイのプロばかりで、こんな口調になってしまいました。あはは。


「そうなの?まぁ確かに私も中学生になってから好きになったわ」

 

 売店の横のベンチに座って、アイスを小さい子供みたいになめて頬張る仕草は可愛いな。

 ポニーテールがよく似合うお姉さんだな。茶髪がよく似合う。これはお父さんがさぞ可愛がっていることでしょう。


 学校の制服がよく似合っている。すっかり大きくなって。

 夏にかき氷を一気に食べて、頭がキーンとなっているティナも可愛い。

 こいつが戦争で死ぬようなことがなくて戦争が終わって本当に良かった。じいちゃんありがとう。


「でも本当に、帝都まで攻められるほどに大きな戦争にならなくてよかったね。」


「あぁ、本当に、そうだな。もし戦争でお前とこの店が消えるようなことがあったら俺は……」


「レナス……」

 澄んだ瞳が俺の目に映る。綺麗だ。


「お、おほん!ところでティナ、お前学校で職業スキルガチャうまくいったか?」


「えっとねーそれが変なんだよねー。先生に後日、お家に政府の人が来るって言っててさー」

 

「それはすごい不思議だな」


 職業スキルガチャとは、この帝国で15歳になったものがやるもので、将来の職業や下手したら結婚相手までもが決まってしまうという。なんていうか、まぁガチャだ!


 詳しく説明すると、この国は15歳まで義務教育があり、15歳で学校を卒業する少し前に、学校に帝国直属の鑑定士がきて、将来に役立つスキルや職業を鑑定してくれるものだ。一般に人はそれを職業スキルガチャ、という。


 ガチャの内容は大体が魔法使いで、あとは剣を使う騎士とか潜伏とかの得意な盗賊シーフとかだろうか。まぁそのほかにも専門職はたくさんあって、上級職で魔法使いの上が賢者、騎士の上が剣聖とか色々あるらしい。詳しくは知らない。情報屋なのに。とほほ……


 そして俺は、鑑定士に職を鑑定してもらっていないので、スキルも何もわからないし、使えない。えっ?マジでへっぽこだって?それを言われちゃ、旦那ぁ俺の面目ってもんがぁねぇ?まぁでもこれから先にスキルとか出てくるかもしれないし、頑張りまーす。


「でさー最近はレナス、モテてないのー?」


 おい、お前、それ俺に聞いちゃいます?……いや聞いちゃいます?俺にそういうこと聞くのは、そうね、彼女いない歴=年齢ってやつの俺に。うん、まぁ普通に失礼な煽りにしか聞こえないので。本当は控えて欲しいんだけど。でもまぁティナなら許してあげよう。


「うーん。そうだなー。モテるも何も、こんな街角じゃ、出会いも何もないしなー」


 そう、俺の職業に、女性との出会いはほとんどなく、プライベートは友人と駄弁ってるくらいなので、まぁ俺に女性の知り合いなんてほとんどいないのだ。そう、俺は一人が好きなんだ、きっとそうだ。


「私はね。好きな人はいるの。だけど、私、自分で言うのもなんだけど、学校では結構モテていて。大変なんだよね。」


 な、なんと言うこと。昔はお母さんと買い物帰りに来て、『ママぁアイス買って、お願い』って駄々を捏ねてあんなに可愛かったのに、もう今は好きな人とか……うぅ。お兄ちゃん泣いちゃうよぉ。


 でもまぁそれはそれとして、ティナにつきまとう男どもは、俺がどんな手を使ってでも潰してやる。だから安心してね。ティナ。


「なぁ、ティナ……」


「ねぇそういえばさー」

 俺の言葉を遮って、話し始めた。


「なんでいつもそのグローブとネックレスはつけっぱなしなの?」

 ティナは、俺が左手につけたグローブと、首につけたネックレスを見ながらそういった。

「グローブは、じいちゃんに出会った時につけろって言われたからつけてる。ネックレスは時が来たら使うからって言われてつけてる……かな。」

「そう、なんだ。なんか意味がありそうだね……」

 レナスのおじいちゃんって、何者なのぉー?


「まぁいいやぁ、じゃあねー」


「えっいや、そんなー」

 あっさりしすぎだって〜。


 ふぅまぁあいつは可愛いな。でも政府から人がわざわざ来るなんて、よっぽどすごいスキルだったのか?



 *   *   *


 いやーもう夕焼けだー。今日もあともう少しで店じまいだな。それにしてもじいちゃん、帰ってくるの遅いなー

 夕焼け、それにしても綺麗だなー。雲がかかっているのもまたいい。


 裏通りのベルがなった。客が来たと言うことだ。水晶で誰が来ているか見てみる。

 げっ、こいつかよ。めんどくさいやつが来ちまったなぁー


 隠れたいが隠れるところもないし、すぐにバレる。

 あぁ、あの人は政府のお役人様じゃないか、なんか依頼か?いつもの諜報部の役人が来ていて、、そんなことを思う。


 店の建物の下へと階段を下っていく。


 はぁ今日はどんな厄介ごとなんだろうか?滅多に客なんて来ないのに、今日はついてねぇ。あのイケメン、俺嫌いなんだよ。っく、今日はどんな皮肉を言ってやろうか。

 裏の店のシャッターを開けて、話しかける。


「いやぁお役人様。いつもありがとうございます。今日は何をご所望でしょうか?葉巻タバコですか?」

 いちいち暗号コードで会話するなんて、古典的で面倒だ。でも仕方がない。

 皮肉そうにいつも通り、会話をする。


「入りません。それよりレナスさん、お疲れ様です。もうすぐで店じまいでしょうが。急ぎの用事があって参りました。」

 

 急ぎの用事?なんのようだ?


「実は<カメレオン>の具合がすぐれないのです。今、休んでおります。帝都の医師によると、もう先が短いかもしれないらしいので、お知らせしました。」


 なんだってぇ!つい、心の声が漏れそうになる。でも仕方ないだろう。

 <カメレオン>は俺の祖父のコードネームだ。祖父は俺も所属する諜報組織<天秤>の幹部で、戦争終結も祖父の尽力によるものだ。まぁ結構年だったし、でも、急がないと。大事な祖父の最後に立ち会いたい。そう思った。


「なんだって、わかった。今すぐ店を閉めて向かう。場所は?」


「本部です。表通りに馬車を用意するので、すぐに行ってください。」

 俺は急いで、表の店のシャッターを閉めて、鍵をかけ、休憩中のふだをかけて、馬車の方に行った。



 こうして俺はそいつが用意した馬車に乗って、城へと向かった。

 もうすぐ陽が沈みそうで、夕焼けがとても綺麗な街を馬車で駆け抜けていく。

 少し潮風が気持ちよかった。でも、そんなこと吹っ飛んでしまいそうなほどに、じいちゃんが心配だった。

 だから運転手に言った。言いたかったことを。


「運転手。もっと急げないのか?」


「街中なんですから、無茶言わんでください。」


「そりゃそうか」

 言ってみたものの、意味なかった。


 科学技術も魔法技術もそこそこ発展しているのに、レンガ作りで、とってもきれいな街並みを駆け抜け、五分程度で、城についた。

 だが、城についてからがゴールではない。タワマンのように入り組んだ城の中の、書庫に行って、そこから諜報部本部への秘密通路のある、本棚の本を引いて、本部まで行かなくちゃいけないのだ。まぁーたこれがめちゃくちゃ大変!


 あぁー頼むから近道つくってくれよぉ。


「おい、待て、お前何者だ?」

 全く、失礼なやつだ。俺は諜報部幹部の孫だぞ。(血は繋がってないが……)


「おい、門番!」


 そう言って、ドヤ顔で諜報部専用門通過パスを見せてやる、はっは、門番のやつ、『こ、これは失礼しました!どうぞお通りください!』って言ってたぜ。おもしろ。

 そのまま城の中を走り抜けていく。

 城のメイドにぶつかったり、ヤバそうなでかい男にぶつかって逃げ回ったりしながら、っうん。俺は逃げるのだけは上手いんだぜぇ!まぁ、何はともあれ書斎へと辿り着いた。


「ええっと、どれだっけ?確か一番左端の本棚の、一番真ん中の段の……そうだ!ここだ。」


 その本を引っ張ると、その本棚がゴゴゴっと沈んでいく、そしたら、階段が現れた。

「いやー本部に来るの久しぶりすぎて忘れてたー」

 

 階段を駆け降りていく。結構ここ深いんだよな。地下50メーターくらいで、古の神話時代に作られた、とかそうじゃないとか。下に降りて受付に向かって言った。


「じいちゃんは?」

「今、お部屋のベッドの上です。ご案内します。」

「おう、早くしてくれよぉ!」


 部屋に着くと、じいちゃんがベッドの上で横になっていた。白髪で長く、もうすぐいなくなってしまいそうな顔をしていた。


「じいちゃん!」

 そう言って僕が駆け寄ると、じいちゃんが話し始めた。


「とうとう、私にも、時が来たみたいだな。継承の、時が。」

「どういうこと?」

「人払いをお願いします。皇帝よ。」

「わかった。」

 えっ、この人皇帝だったの?全然風格ないんだけど。質素なのはいいことか。いや人の死に場にギラギラしている方が嫌か。


「じいちゃん、継承ってどういうこと?」

 俺は、意味がわからなかった。なんのことだ?継承って。

「手を出してくれ、左手を。」

「はい」

 僕は左手を出した。

「古の時代から受け継がれし我の力よ。またその理の通り、このものに力を継承させたまえ!」


 じいちゃんの詠唱によって、俺のネックレスが光った。同時に、左手から何か邪悪なものを感じ、力がみなぎった。(厨二病じゃないよ!)


「この力は、私もまた先代の超越オールによって授けられたものだ。オールの力の詳細は、授かることにより、出会った相手の全ての職業の能力、スキルの基本を習得できて、かつ、各職業を持つもの一人一人に会って、コンプリートすれば各職業の応用スキルまで全て習得できるというものだ。」


 いや、まじかよ。どっからどう見てもチート以外の何ものでもないだろ。いきなり序盤からこんなんで大丈夫そう?


「詳細を言うには時間が足らんが、これは勇者の力だ。たまに神から導きの天啓があるだろう。私だけでは寿命が足りず、戦争の終結しかできなかった。オールは、その強い力の代償に、多くの苦しみを味わうことになるだろう。だが、自分では悪を探さなくていい。おのずと、悪はやってくる。お前は普通のオールともまた違う、もっと難しい運命だとも思うが、世界を、平和を、あとは任せた。」


 そういった後に、もう役目を終えたかのように、目をゆっくりと閉じていった。


「じ、じいちゃん…………じいちゃ、じいちゃん。じいちゃーん!」


 くそ、やっぱりこういう運命は変わらないのか!

 なんで、じいちゃんの悲願だった平和がやっときて、この先は俺が守るって、決めたのに。何でそんな矢先に死んじゃうんだよ!


 俺は見苦しいと自分で思っていながらも、一人泣き続けた。残ったのはあの店と能力と僅かな知り合いと、金と遺品だけ。


 * * *


 そのしばらくあと、皇帝が、話しかけてきた。

「もう、いいか?……すまない、お主に少し、話がある。」



読んでくださり、ありがとうございます。

今日から年始まで、他作品も含めて、投稿頑張ります。

応援してください。

作品のストックの量、僕のやる気とかによって、特に年始以降は投稿頻度や文字数が変わったり、あるいは作品作成を休止するかもしれません。

勝手ですが、許してください。


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