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信じられる物語  作者: 夜君


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第三章 闇と実行

前回までの登場人物

加賀谷 遼 (かがや りょう) 新聞記者

佐久間 翔太 (さくま しょうた) カメラマン

水城 真帆 (みずき まほ) 新聞記者・加賀谷の後輩

大滝 信也 (おおたき しんや) 編集長

北浜 健吾 (きたはま けんご) 町議会議員

空がまた焼けてきた。

窓の向こうで、街の輪郭が溶けていく。


水城は隣で黙々と写真を確認し、メモを取っている。

キーボードを叩く音が一定のリズムを刻み、その合間にペンがノートを走る。

その動きにはまだ無駄が多い。

だが、手の迷いが減ってきた気がした。

慎重さというより、覚悟のようなものが混じっている。


俺は椅子に凭もたれ、頭の奥に沈んでいた過去の断片を拾い上げる。


佐久間と出会ったのは5年前。

ある国会議員の汚職事件の説明会でチームを組んだ。


議員の演説は空回り、質問も予定調和。

そんな重たい空気の中、突然、後ろから肩をたたかれた。

「つまんねぇし、メシ行かね? もう記事書けんだろ?」


振り向くと、佐久間があっけらかんと笑っていた。

まるで全部を見透かしているような目で。

そのまま彼は機材を持ち、会場を出ていった。


俺は新人で、彼は少し年上。

ついていくしかなかった。

彼は仕事のできる問題児だった。よく話題になる、今でいうバズる記事を毎回書いていたのだ。独占ネタ多かったりとすごい人だった。

しかし上司の圧力をものともしないため社内では良いうわさも、悪いうわさも耳にする人で俺はなんだか怖い人と思っていた。

ラーメン屋に着き、チャーシューメンを奢ってくれた時に怖さはなくなった。


オフィスに戻ると佐久間は上司に呼ばれていた。

長い説教のあと、声が大きくなる。

「前提出してもらった記事な、こんな小さな町工場の記事、載せる価値あるのか?」

佐久間は少し笑って答えた。

「じゃあ、金の大きさで正義の大きさも決まるんですか?」


その瞬間、俺は決めた。

――この人と組もう、と。



「……いーーーーぱいーーーせんぱい?」

ぼんやりした声で現実に引き戻される。

「加賀谷先輩?」

気づけば、水城が心配そうに覗き込んでいた。

寝ていたらしい。頭が少し重い。


「先輩、この写真、見てください」

水城が指さした画面には、ズームの効いた写真。

手と手の間に封筒のようなものが挟まっている。

前後の写真には、男性と北浜が握手を交わす瞬間が写っていた。

「……水城、ナイス。これ、証拠になる」

「ほんとですか?」

「この流れで記事を書ける。手伝ってくれ」

「はい!」

初めて聞く水城の素直な声。

少し罪悪感もあるが記事の文面は水城に担当させた。


― その日の深夜 ―

「完成しました! あとは提出ですね!」

水城が顔を上げ、達成感の混じった笑みを見せる。


<北浜議員 裏金受領か 写真が示す接点>


文字はまだ粗削りだが、光っていた。

若い記者の手でここまでまとめられたことに、俺は少し驚いた。

「よくやった、水城。」

「ありがとうございます! 加賀谷先輩がいてくれたからです。」

「……そうか。」

自然と笑みがこぼれるが、どこか胸の奥がざらついた。

「細かい表現の修正と、見出し周りは俺が仕上げておく。印刷所への入稿も確認しておくから。」

「じゃあ、私はチェックだけ——」

「いや、もういい。今日は帰れ。ずっと集中してただろ。頭を冷やす時間も必要だ。」

「でも……」

わずかな沈黙の後、水城は礼をして

「…お先に失礼します。」

足音が遠ざかる。

扉が閉まった瞬間、オフィスの静寂が戻る。


モニターの光だけが残り、部屋の輪郭を薄く照らしている。

記事を開き、カーソルを動かす。

タイトルを見つめる。


俺のパソコンの画面には

<町議・北浜健吾、関係者死亡と不正資金の実態>という見出しが表示されていた。

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