第二章 闇と共に
前回までの登場人物
加賀谷 遼 (かがや りょう) 新聞記者
佐久間 翔太 (さくま しょうた) カメラマン
水城 真帆 (みずき まほ) 新聞記者・加賀谷の後輩
大滝 信也 (おおたき しんや) 編集長
「水城ちゃん、一旦帰りな。今日昼頃から出勤でいいから。」
大滝編集長にそう言われて、うなずくしかなかった。
頭がうまく動かない。感情がぐちゃぐちゃで、言葉にできない。
帰宅してベッドに倒れ込み、少し目を閉じるつもりが——気づけば日中だった。
7時間も眠っていた。
夢の中で何度も、あの瞬間を繰り返していた。
出勤しながら昨日…正確には今日の事を思い出していた。
佐久間さんが亡くなった。と加賀谷先輩に伝えたあの瞬間ーー
その声が、耳鳴りのようになっている。
オフィスに入るといつもとあまり変わらなかった。
気になってニュースアプリを開いた。
[20代男性 飛び降り自殺か 鳴砂地区]
「自殺…なんだよね、やっぱり」
彼女はつぶやき、スマホを閉じた。
加賀谷先輩はこっちを見ていた。
目が合ったときふと、思ってしまった。
(加賀谷先輩は何でこんなに冷静なんだろう)
なぜなら先輩と佐久間さんはタッグやチーム、相棒のような親友だった。
親友が死んで黙々とパソコンを前に作業するなんて私にはできない。
思い立って、私は加賀谷先輩の席へ向かう。
「加賀谷先輩。」
「なんだ。」
「佐久間さんの件、何か知っているんじゃないんですか?」
小声で聞いてみた。先輩は少し驚いたのか固まった。
「水城はこれが他殺だって言ったら信じるか?」
今度は私が固まった。
知ってるんだ……他殺だって。
先輩の声が妙に落ち着いていて、逆に心臓が早くなる。
まるで、ずっとその答えを知っていたみたいに。
先輩が続けた。
「水城、協力するなら教えてやる。でもそれには自分の身が危険に晒されることになるぞ。」
尊敬する先輩が、今まで見せたことのない顔で言う。
逃げたら、きっと一生後悔する。
「はい。協力させてください。」
私は決意した。
「俺の隣の席開いてるからそこに移動してこい。編集長には俺から言っとく。」
荷物を持って移動し、先輩のプライベートの連絡先もいただいた。
いつもの私なら浮かれるがそんな空気じゃない。
「このフォルダ渡すわ。それには佐久間さんが今まで撮った写真。そしてこれ、見て。」
先輩のパソコンに映し出されたのは大きく書かれた
<町議の不正資金疑惑に新証言>
の文字。
「俺たちはこの事件を追ってた。鳴砂地区の再開発計画に不透明な資金があるっていう記事だ。」
先輩たちが何かを追っていることしか知らなかった私は少し、ホントにあるんだと興奮していた。
「もしかしてなにか知っちゃいけないこと知って殺されたってことですか?」
先輩はうなづいた。
「これ、首謀者は誰なんですか?」
恐る恐る聞いてみた。
「北浜 健吾議員だ。」
「あの北浜議員ですか!?」
私は驚いた。なぜなら北浜議員は人当たりもよく人の意見を取り入れる評判のいい議員のはず。
「だから俺たちは確固たる証拠を探して頑張っていたってわけ。佐久間は北浜の資金の流れを追ってた。再開発計画に裏金が動いているのがわかったのもつい最近だ。」
加賀谷先輩の声が低くなった。
私は息をのんだ。
「…それがまずかった…?」
「多分な。」
先輩は私の目を見て
「俺たちがやることは1つだ。犯人を表に出し、佐久間の死を無駄にしないこと。」
「犯人を....?」
「北浜を追う。記事を出せば、民衆が疑い、必ず動く。そこに追い打ちをかけ、証拠がなくても世論が動けば勝ちだ。」
先輩の目はまっすぐで、迷いがなかった。
「わかりました。私、やります!」
「いい返事だ。水城。」
先輩が笑った。
「何すればいいですか?私。」
「画像を整理して現状を確認して。」
先輩のパソコンの画面には
<町議・北浜健吾、不正資金疑惑>という見出しが表示されていた。
北浜 健吾 (きたはま けんご) 町議会議員




