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超絶美形の暗殺者(アサシン)だけど中身はおじさん、帝都の闇を疾走(はし)る  作者: 柊 太郎


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モンド、助太刀される

 他にもあれこれと帝都の情報をゴードに訊ねるうちに、だいぶ時間が経ってしまった。

 ゴードの薬種問屋を出る頃には、辺りは薄暗くなっていた。

 馬車を呼ぼうか、と聞いてくるゴードに要らないと答え、店を出る。

 

 旧市街から宰相の公邸へ向かう途中、人気(ひとけ)のない辺りへ来ると、案の定、物陰から数人の男達が走り出て来た。

 シアと俺の周りを取り囲み、それぞれに剣を抜く。

 男達は全部で八人、いずれも黒い装束をまとい、口元も黒い布で覆い隠していた。 

 先日俺を襲った男達とは違い、今回は全員があからさまな殺気を放っている。

 俺は腰の後ろから鉄喰らい(フェルマンガント)を抜き、シアも両手で一本ずつ、短剣を抜いた。

 

 男の一人が口を開いた。

「シアよ、大儀であった……その男、モンド・アンダルムを殺せ」

「断る」

 シアは低いが、はっきりとした声音で答える。

「裏切るか……これだから女は」

 嘲るような口調で、男達の(かしら)と思しき男が言った。

「裏切る? ……違うな、見限ったのだ、この私が、ヴォルクという男をな」

「後悔する事になるぞ……黄泉への旅路でな……かかれぃ!」

 男達が一斉に俺とシアへ向けて襲いかかろうとした、まさにその時。

「待たれよ」

 何処からか声がかかった。

 若い男の声だ。

 よく通る声だったか、緊迫した場に似合わない、鷹揚な響きがあった。

 路地から一人の男が姿を現す。

 長身で長い黒髪の偉丈夫、その顔には見覚えがあった。

 イーシャの武器屋で会った男、確かアーサーと言っていた。

 アーサーは落ち着いた声で男達に告げる。

「事情は存ぜぬが、帝都の路上で、剣を抜いての争い事は帝国の御法(ごほう)に触れる、直ちに剣を収め、立ち去られよ」

 男達の(かしら)と思しき男が命じる。

「構わぬ、一緒に切れ」

「……ならば、仕方がないな」

 アーサーも悠然とした動きで剣を抜き、構えを取る。


(おいおい、何だありゃあ……)

 アーサーの剣の構えは、えらく独特、いや、異様だった。

 足は前後に開き、その幅は肩幅ほど。

 剣は両手で上段に、すなわち振りかぶったように構えているが、普通に見られる上段の構えとは異なっていた。

 その剣先はさながら天を突くように真上に向けられている。 

 あれだけの長さの剣をあんな風に振り上げれば、多少は剣先に動揺が見られてもおかしくはない……筈だ。

 だが、振りかぶられた剣は、微動だにしていなかった。

 その点だけでも尋常じゃないが、俺がさらに驚いたのはその(たたず)まいだ。

 普通、こういった命のやり取りの場では、大概の人間が殺気とか覇気とか……まあそういった“気合い”みたいなもんを放つ。

 ところがこの男ときたら、さながら野にある草木(そうもく)(ごと)く、何の“気”も放つことなく、ただ立っている……ように見える、少なくとも、ぱっと見には。

 一点を見据える事なく、半眼に開かれた眼も相まって、俺は元いた世界の……日本の仏像を思い出していた。


 この世界で暗殺者として鍛えられ、習い覚えた悪い癖で、俺は老若男女どんな相手でも、一度は心のなかで値踏みする。

 そいつが容易(たやす)く殺せる相手かどうかを。

 だがこいつはムリだ……少なくとも尋常な手では。

 あの一見、ただの棒立ちのような構えの、その間合いの中に迂闊に踏み込めば、確実に斬られるだろう。

 横から、後ろから、様々に方向を変えて、頭の中で試してみたが、どうにもダメだった。

 どうやっても、こちらの剣が届く前に斬り伏せられる。

 そもそもあいつは何者なんだ、もしかして同業者か?……とも思ったが、どうもそういう雰囲気でもない。


 シアが低い声で俺に問いかける。

「あれは、何者だ……?」

 シアも俺と同様、アーサーの底知れない実力に気付いたのだろう。

「分からない……だが、迂闊に動くな、今は」

「心得た」


 どこにでも勘が鈍いやつはいる。

 あるいは、焦りから、かもしれない。

 いくら夕暮れ時、人気(ひとけ)のない旧市街の裏通りでも、このまま時間をかけすぎれば、他にも通りがかる者がいるかも知れなかった。

 睨み合いに耐えかねたかのように、剣を構えた男の一人が、アーサーへと斬り掛かる。


 男は身体を低く前に倒した姿勢でアーサーに向かって行く。

 おそらくは下段、膝から下あたりを払う気だろう。

 常人ならば斬ることも、()けることもできないだろう、それだけの速さではあった――が。

 アーサーの斬撃は、それを上回った。

 刃を振り下ろすその動きは(なめ)らかすぎるあまり、ゆっくりにすら見えた。

 アーサーに斬り掛かった男はあっさり頭を割られ、その場へと倒れ伏す。

 アーサーは何事も無かったかのように、既に元の構えに戻っている。

 その立ち姿には、微塵の動揺もない。

 一方で男達の間には、目に見えて動揺が走った。

 機に乗じるなら今しかない。

 俺が動き出そうとしたその時。

 鋭い警笛の音が、辺りに鳴り響いた。


 帝都にも一応、警官みたいな者が存在する。

 最も低い階級の者たちは邏卒(らそつ)と呼ばれていた。

 かっては帝都に駐留する親衛軍と地方軍の一部から抽出された者たちが、帝都内の治安維持活動も行っていたが、十数年ほど前に、軍とは独立した、治安維持専門の組織――我々の世界で言う所の警察のような組織が作られていた。

 警笛はおそらく、夜の見回りに出ていた邏卒が吹いたものだろう。

「散れ!」

 (かしら)が声をかけ、男達が四方へと走り出す。

「案ずるな、必ず戻る」

 シアが俺に囁き、男の一人を追って走り出す。

「あ、おい!」


 俺も襲ってきた連中の後を追うべきだったのかもしれない。

 が、それ以上に気になる事があった。

 あれだけの達人――アーサーの素性を確かめておきたい。

 俺は鉄喰らい(フェルマンガント)を鞘に収め、俺たちを手助けしてくれた謎の男、アーサーの方へと歩み寄る。

「ご助力(かたじけ)ない、私はモンド・アンダルム、宰相クラウス卿の下で働いています」

 懐から取り出した布で、丁寧に自分の剣に拭いをかけていたアーサーは、剣を鞘に収めながら言う。

「アンダルム殿、噂は聞き及んでいます、私はアーサー、アーサーロム・アーサリウス、帝都の司法の職についております」

 腕も立つが耳も早い、か、イーシャが俺の事について口を滑らせた(はず)はない、おそらくは独自の情報源を持っているのだろう。

 ただの武辺者(ぶへんもの)、というだけではなさそうだ。

「ここはゆっくりとお礼を述べたい所ですが……えーと、邏卒への申し開きをどうするべきか」

 アーサーは周りを見渡しながら応える。

「込み入った事情がお有りのようですね……邏卒への説明は私が」

 アーサーは察しも早かった。

「申し訳ない、このお礼は後日、必ず、改めて」

「礼には及びませんが、私の住まいは黒門通りブラックゲート・ストリート、そこで誰かに訊ねれば、すぐにわかります」

「ありがとう、では!」

 俺は身を翻し、その場を離れた。


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