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超絶美形の暗殺者(アサシン)だけど中身はおじさん、帝都の闇を疾走(はし)る  作者: 柊 太郎


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モンド、伝手(つて)を頼る

「ヴォルクってのはどんなヤツだい?」

 翌朝、部屋に運んでもらった朝食を二人で取りながら、俺はシアに訊ねた。

「徳に欠ける男だ、人の上に立つ者としての」

 しなやかな長い指でパンをちぎり、口に運びながらシアが答える。 

「そのくせ野心と自尊心は人一倍……だが、能力は侮れない、恐ろしく頭が切れる、それに厄介な連中も従えている」

「厄介な連中?」

黒狗(くろいぬ)――」

黒狗(くろいぬ)ってまさか、“ガロアの黒狗(くろいぬ)”か!?」

 シアは無言で(うなず)く。

 

 俺の家――アンダルム家の率いる組織、“黒の手”――と同じように、間諜やら暗殺やらといった仕事を請け負う集団が、帝国の中にはいくつも存在する。

 ガロアの黒狗(くろいぬ)もその一つだ。

 かって教わったところでは、その戦闘力は帝国内のその手の集団の中でも屈指、しかも、何か妖しい技能(わざ)を使うとも。

「ランディスほどの大身の家ともなれば、いくつかその手の仕事をこなす連中を抱えている、私のように外から傭った者も含めて、な」

 シアは黄茶(こうちゃ)で口を湿らせ、話を続けた。

「だが黒狗(くろいぬ)は、事実上、ヴォルク個人に掌握されている」

「どうやって――?」

 ヴォルク・ランディスの年齢(とし)は、俺とそう離れていないと聞いている、おそらくは二十代の半ば、黒狗(くろいぬ)の歴史はそれよりも遥かに古い(はず)だった。

「分からない、いずれにせよ、黒狗(くろいぬ)がランディス家中での(やつ)の権力を支える基盤なのは間違いない」

「ヴォルクの奴は何を企んでいる?」

「それも分からない、私に命じられていたのは、宰相の身辺を探り、何か弱みを握ることだけ」

 だろうな、ヴォルクから見れば、おそらくシアは数ある手足の一つに過ぎない。

 陰謀の詳細を手足に喋る馬鹿はいない。

「俺を襲ったのは?」

「――成り行きだ、お前が妙な鎌を掛けたりするから――死なない程度に深手を負わせて、しばらく使えないようにする――つもりだった」

「あっ、あれ、加減してたんだ……」

 良かった、ズルい手を使っといて本当に良かった。

「お前が来る直前に、殺すなという指示が来た、アンダルムの家の者と聞いて納得だ――私も“金色(こんじき)(やいば)”の恨みは、まだ買いたくない」

 

 あー、そういう事ね。

 金色(こんじき)(やいば)は俺の母の――セラフィーヌ・アンダルムの――異名の一つだ。

 しかしどうかな、あの母、俺が死んでも、恨むどころか「不甲斐ない息子ですねぇ」とか言うだけで終わらせそうな気もする。

「あー、そうか……その前に俺を襲った四人も、妙にとろくさいと言うか、腰が引けてる感じだったが……」

「おそらくはまだ、全面的に事を構えるつもりはなかったのだろうな、“黒の手”とは」

 まるで親の七光りで勝ったみたいじゃないか、面白くない。

 俺の表情が(かす)かに変わったことに気付いて、シアが言う。

「まあ、お前の腕はそう悪くもなかった――どうした? 食べないと、力が出ないぞ?」

 艶めいた顔と声を作り、シアが続ける。

「それとも(わたくし)が食べさせて差し上げましょうか? 旦那様ぁ?」

 いっ、一度寝たぐらいで奥さん(づら)しないでよね!

「大丈夫だ」

 俺は卵料理の皿を引き寄せ、猛然と口に運び始める。


 まあ、ヴォルクのところ――ランディス領内まで出向いて、問答無用で息の根を止める、ってのは簡単だ。

 いや、それほど簡単じゃないか。

 多少難しくはあるが、まあできないことはない。

 だが、たとえ持て余されている者であっても、一族の者を暗殺されたとなれば、ランディス家は黙ってはいないだろう。

 三公爵家の中では最大、帝国内でも有数の軍事力を持ち、北の国境で他国へ睨みを利かせるランディス家を怒らせたりすれば、下手すりゃ内乱だ。

 ヴォルクの排除をランディス家に黙認させるためには、陰謀の内容を把握し、確たる証拠を押さえる必要がある。

「よし、まずはヴォルクが何を企んでいるかを探り出す、ヴォルク自身をどうするかはその後だ」

 シアが問いかけてくる。

「探り出す、か、何処から?」

「んー、まずは古い伝手(つて)を頼ってみよう――出かけるぞ、支度しろ」


 俺はシアを連れ、旧市街の商人街へと向かった。

 旧市街には荒れた治安の悪い場所も多いが、商人街は別だ。

 ここには、帝国が建国した頃に創業し、現在まで商売を続けているような老舗が軒を連ねている。

 大通りは荷を積んだ馬車が行き交い、店の前では商品の積み下ろしも盛んに行われている。

 俺は商人街の一番端にある、薬種(やくしゅ)問屋の前で足を止めた。

「ここだ」

 シアを伴って店の中へと入る。


 様々な薬草の匂いが入り混じった、ほろ苦い匂いが鼻をつく。

 店の中は薄暗かった。

 おそらくは日光で薬種の有効成分が変質しないようにだろう。

 大きな厚手のガラス瓶が棚に並べられ、その中には、茶色や褐色の、様々な薬草の類が詰められている。

 店の中央にあるカウンターへ行き、身なりの良い中年の男に声をかける。

「店の(あるじ)殿は――」

(わたくし)でございます」

 俺はカウンターの上に右手を置く。

 置いた手の人差し指と小指を伸ばし、他の指は折り曲げた独特の形を作る。

「黒い薬を所望したい」

 店主は表情を変えずに、俺に訊ねる。

「お客様は、どちらからおいでですかな?」

「我が手は東より来たりて南に向かう」

「何を持ってこちらへ来られましたかな?」

馬手(めて)灯火(ともしび)弓手(ゆんで)黒縄(こくじょう)(かしら)には(きん)、胸には七つの剣を」

「……何をお望みで?」

「同じ色の手を持つ同胞(はらから)の情宜を賜りたい、わが名はモンド――モンド・アンダルム」

 店の主は俺の顔をしげしげと見つめ、そして笑みを浮かべる。

「おお……若様、大きゅうなられましたな……申し遅れました、当方、帝都での連絡係(つなぎ)を務めております、ゴード……ゴード・ランドンと申します」

「若様はやめてくれ、モンドで良い」

「わかりました、モンド様……立ち話もなんですな、奥へどうぞ……おおい、店番を頼む」

 ゴードは若い者に店番を命じ、俺達を奥の部屋へと招き入れた。

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