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超絶美形の暗殺者(アサシン)だけど中身はおじさん、帝都の闇を疾走(はし)る  作者: 柊 太郎


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モンド、転生する

  ベッドの上に俺は横たわり、三人の美しい妻に囲まれ、交互に食事を口に運んでもらっている。

 ……こう言うと、イイご身分だな、と思われるかも知れないが、なにせ俺の両の腕は倍ぐらいに腫れ上がり、あちこち骨も折れちまってて、ナイフもフォークもマトモに持てない。

 ……なぜこうなったか?

 どっから話すべきかな。

 うん、やはり最初から話すべきだな。


 俺の名は主水(もんど)仲村(なかむら)主水(もんど)

 時代劇が大好きな親父に付けられたこの名前、若い頃にはだいぶイジられもしたが、歳を取るにつれてイジるヤツもだんだん少なくなった。

 都内の中堅のオフィス用品販売会社に入社し、総務部に配属になって二十と何年か、コツコツとマジメに働いて、歳の頃が四十も半ばになったくらいで、ふと思うようになった。


「俺の人生、これで良かったんだっけ!?」


 気がつくと大学高校の親しかった連中も、概ね結婚して家庭を持っていたが俺は独り身。

 仕事はそこそこ真面目にやって、一応主任の肩書になってはいたが、同期でもっと上に行ってるやつも大勢いた。

 要するにイマイチぱっとしない人生、そんな感じだった。

 無論、俺よりも上手く行っていないやつもいるにはいたが、そんなのを見て自分を慰めてもしょうがない。

 じわじわと、焦燥感というか、ろくでもない思いに身を焦がされるような、そんな気分の日々を送っていた所に、転機が訪れた。

 そう。

 皆さんお馴染みのあれ。

 トラックだ。


 いつものように仕事をこなし、定時で上がって、給料日前なんで住んでるマンションの近くのコンビニで缶ビールと弁当を買って、交差点の歩道を渡っていたその時。

 信号無視のトラックが突っ込んで来た。

 そう、その時、俺一人だったら、なんとか身を(かわ)せないこともなかった。

 塾帰りと思しき小学生ぐらいの子が、俺のすぐ前で身をすくませて固まってたんだ。

 咄嗟にその子を思い切り突き飛ばした。

 目の前に迫るデカいヘッドライトを見たあたりで一旦意識が途切れた。


「……起きなさい」

 ってな声がしたんで、目を開き、身体を起こすと女神様がいた。

 厳密に言えば、それは何か大きな光の塊、とでも言うような何かだったんだけど、俺の脳はそれを“女神”として認識していた。

(うわー、こういうの、本当にあるんだ……)

 思いながらも、気になってた事をその女神様に聞いてみた。

「あの男の子、大丈夫でした?」

「助かりました」

「ああ、そりゃ良かった」

「貴方の善行の報いとして、もう一度人生をやり直す機会をあげましょう」

「ありがとうございます……質問、良いですか?」

「なんでしょう」

「なんか特別な能力(スキル)とか、もらえたりするんですか?」

「……何を言っているのですか?」

「あ、無いんだ」

「力が欲しいのなら、自分で身につけることです……では、いきますよ」

「え、もう? 何かこう、チュートリアル的なヤツとかも無しですか?」 

「……」

 女神は無言で俺に両手をかざす。

 そこでまた意識が途切れた。


 息が苦しい。

 必死で口を開け、大きく息を吐き、そして吸い込む。

 耳に飛び込んできたのは赤ん坊の泣き声。

 俺の声だ。

 柔らかく肌触りの良い布に包まれ、女性の胸に(いだ)かれる。

 おそらく母であろうその人は、金色の髪は乱れ、白い肌は汗にまみれていたが、それでもなお美しかった。


「お子のお名前は、なんとされますか?」

 侍女らしき女が声をかける。

「……モンド」

「モンド……モンド・アンダルム……まあ、なんとも、良きお名前でございますねぇ」

「頭に浮かびました、不思議なことですね」

 前世と名前が同じってのは、面倒が無くて良いな、そんな事を思いつつ、ひとしきり泣くと俺は眠りについた。

  

 赤子の日々は退屈だ。

 前世の記憶を持ってるったって、まあ赤ん坊だ、出来ることは限られてる。

 寝転んだまま、部屋のあちこちを観察してみる。

 部屋の家具、調度品などから察するに、文明のレベルはおそらく近世ぐらいで西洋風。

 俺が元いた世界で言うところの15世紀から18世紀ぐらいって事だ。

 部屋の広さや置かれている物の豪華さから見ると、かなり裕福な家なんじゃないか、そんな感じだった。

 ひとしきり観察した後はやることもなくなり、すやすやと好きなだけ寝て、腹が減ったら泣いて、母の乳房を口に含ませてもらい、たらふく乳を飲む。そうして腹が満ちたらまた眠る。

 この手の身分の高そうな家なら、母親が直接あれこれせずに、乳母などを雇う事が多いんじゃないのかな?

 だが、家風なのか、それともこの母親個人の主義なのか、基本的に母親が自らの手で養育する方針らしかった。

 まあ、しばらくはそんな、退屈で幸せな日々が続いてた。

 

 五ヶ月近く経った頃にはだいぶ身体がしっかりして来た。

 首がすわり、はいはい歩きぐらいならできるようになる。

 医師や侍従たちの会話から察するに、だいぶ早い方らしい。

 母に抱かれ、優しく揺すられながら、ちょっとした悪戯心がわいてきた。

 ちょっと驚かせてやろう。

 上手く回らない唇と舌を必死で動かす。

「マ……マ……」

 母親がはっとした顔でこちらを見つめる。

「ママ……しゅき…………」

 母は大粒の涙をこぼしながら、俺の顔中に何度も何度も口付けをした。

 うん、悪くない。


 うとうととしてきたところでベッドに寝かされる。

 微睡(まどろ)み行く俺の耳に、母の声が聞こえて来た。

「今夜……執り行います」

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